gigas

第31話 五人の船外活動

「何故なのか!」


「いや、しょうがないだろ? 一緒である必要もないし、五人じゃ狭いだろう?」


 なんでこんなむさくるしい男と二人でそれぞれの裸体を眺めながら出撃準備をせねばいかんのだ。

 これから命を賭けた戦いに赴く戦士の昂揚感が台無しだよ。


「お、それがキョウの新兵器か」


 装備品ラックから現れた四角い箱にアリオが反応する。

 

「不本意ながら、ね」


 エフテに無理やり選ばされたんだ。

 2000ポイントも使った。

 これを溜めるのにどれだけの屍を積み上げてきたのだろう。

 彼らの死に様に対し、しばし黙祷。


「頼むから試射をしてくれよな」


 アリオは苦笑する。

 当たり前だろ。

 同じくポイントで交換したブツが入った袋も持ち上げる。


 10連装小型ミサイルランチャーとサーモバリックグレネード10個。

 合わせて4000ポイントを失ってしまった。

 今回アリオは現状維持。エフテも貯めるということで新装備は僕だけだ。


 キョウ―LV2:17350P→13350P

 アリオ―LV2:35250P

 エフテ―LV1:2840P

 サブリ―LV1:0P

 プロフ―LV1:0P


 外に出ると、先に着替えを済ませた女性陣がストレッチなど行っている。

 適度にフィットしたノーマルスーツは、個々のスタイルを如実に表している。


「いやらしい……」プロフに嫌な顔をされた。


「あのな、初めてのスーツ着用だろ? ここは先輩としてだな、目視チェックは欠かせないだろうが。視姦くらい我慢しろ」


「キョウっていつもこんななの?」サブリ、失礼だぞ。


「わたしの初陣は、この二人と一緒に着替えたのよ? 手取り足取り着脱の指導込みでね」エフテもゴミを見るような目で僕を見る。


 お子様体形のくせに、自意識が過剰すぎて笑える。

 それにしてもおかしいな。先輩へのリスペクトが皆無なんだが。


「二人共似合ってるけど、袖口のシールは注意してくれ、一昨日エフテが少し怪我をしてる」


「了解です」「りょうかい」サブリもプロフもアリオの指摘に対しすぐに確認する。


 同じように眺めまわしていたくせに、適切な指導一つでこうも変わるのか。参考にしよう。


「さて、確認なんだけど、五人になったから移動範囲も広がったんだっけ?」


「半径5キロ。これは六人になっても上限らしい。但し歩きの場合だけど」


 エフテの疑問に、予めメロンに聞いておいた条件を披露する。


「歩きの場合って?」サブリが聞いてくる。


「ポイント交換装備の中にはも含まれるらしい。そしたら移動距離制限も延びるって」


 バイクとか車の類があるんだろう。


「気力以前に体力が持たない……」僕より虚弱アピールのプロフ。


「行動時間上限も8時間になったんだ。範囲はともかく、端まで4、5往復くらい可能だろ?」


「まあ、アリオは別にしても確かにそんなに行動できないわよね。安全マージンを考えても、常に船に戻れるようにしておかないと。とりあえず、歩きながら話しましょ」


「まずはどっちだっけ?」


「もう、朝食の席で、北からって言ったじゃない」


 歩き始めたエフテに怒られた。

 朝食のときは、生卵には何をかけるか論争が白熱し、それどころじゃなかった。


 進行方向である北を見る。

 僕らの「アルゴー号」が偽装している場所は荒野の中にある直径1キロ程度の台地の上だ。

 そこから数メートル降りると起伏や亀裂や小山、岩石などが点在する荒れ地が彼方まで続いている。

 川や森といった水気を感じさせないが、敵性生物は地下を住処にしているモノも多いらしい。地下に水源や空洞が存在するというのはメロンからの情報で得ていたが、マッピングが出来るほどの情報じゃないみたいだ。


 結果として、敵性体の棲家や出現してくる明確な場所は不明。

 そのため索敵は密に行う必要がある。


 幸いにも、索敵ドローンかコンテナドローンのどちらかを選んでも良いということになり索敵三つ、コンテナ二つを選択。

 索敵一台は常に直上。

 もう一台は進行方向1キロ。

 残りは船までの中間位置をキープし常に退路を確保しておく。


 僕用の保護者ドローンは特に確認していないけど、こっそりアリオに聞いても目視はできないらしいので、存在していてもかなりの高度にいるんだろう。

 まあ、索敵が三台もあるし僕らが集団を維持していれば問題ない。


「重い~」サブリが電磁砲のスリング吊りベルトを肩から外し腕をぐるぐる回す。


「我慢するか慣れろよ。一番のちびっ子が頑張ってるんだから」


 僕のつっこみにサブリじゃなくエフテが睨みを返してくる。

 別にエフテのこととは言ってないだろ? 思ってるけど。

 実戦なので電磁砲だけは全員が所持し、それ以外の武装はコンテナに積んである。

 それでも初めての船外活動、サブリやプロフにしてみれば正直な感想しか出ないだろう。


「……もう3キロくらい歩いた?」


「300メートルも進んでないな」プロフの質問にはアリオが丁寧に答える。


「それにしても、今日は敵に遭遇しないわね」


 エフテが呟く。

 それは僕も感じていた。

 僕一人の時は活動範囲も狭く、複数を相手にすることも稀だった。

 アリオと出撃するようになったら、いきなり多く湧いて出た。

 恐らく、戦闘音などを通じて寄ってきたのかもしれない。


 一昨日のエフテの初戦もたくさん集まった。


 じゃ、今日はなんで?


 そんな敵さんの都合を考えても答えなんか出ない。


 昨日、エフテがいろいろと語った疑問と同じだ。

 考えても分からない事ばかりだ。




 だから昨夜、聞いてみた。


「メロンはさ、六人目とか人間だったりするの?」


「内臓でも見ます? 修復できないと活動を停止しますけど」


 彼女は仰向けになって、裸のお腹を指でなぞった。


「見せなくてよろしい」


「そもそも、ワタシが違うと言っても証明のしようがありませんから、疑念をお持ちならそのままでどうぞ。ワタシがそんな嘘をついているという考察に反応するつもりもありませんので」


 メロンは僕の腕の中に戻り、やれやれといった口調で答え、興味も無さそうに黙る。


「いや、エフテがそんな疑問を口にしただけ」


「それなら聞きますが、エフテが人間である証明は?」


「はだかを見た」


「ワタシとどこが違いました?」


 凹凸やいろいろ、とは言わない。


「分からない」正直に答える。


「ならば、エフテもホムンクルスかもしれませんよね?」


 そういう考え方だってできるんだよな。

 人間そっくりの模倣品。

 それを区別したり見分ける意味ってあるんだろうか。

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