第30話 五人の親睦
ひとしきり頭を下げていたメロンは、立ち上がり寝台室に消えた。
まだ見ぬ六人目が眠る、立ち入り禁止の部屋。
そこに眠る人はどんな記憶を持っているのだろうか。
「さて、ここまでの情報をまとめてみましょうか」
なんとなく各々が思考に耽っていた時間をエフテが現実に引き戻す。
「まずテラの存在だけど、サブリによる客観的な記憶が追加されたとはいえ、通信ができないし、コモンデータの情報も少なくて、なんとも言えないのよね」
「あたしも、セントラルにいたころ、特に成り立ちなんか気にしなかった。あそこに住んでた人はみんなそんな感じで、宇宙船に乗っているって実感も少なかったんじゃないかな。自分の興味や将来の進路、そればっかり。衣食住は全部足りてたから不満も感じなかった」
「だからそこを深く考えても無意味なのよね。アカデミーや研修、わたしたちがどうやって選抜されたとかも同じく、考えてもしょうがないのよ。大事なのは今」
エフテとサブリが会話を続ける。
「割り切れない気持ちがあるけど……」
めずらしくプロフが割り込む。
「それはみんな同じ。六人目の情報も秘匿されてるんなら考えてもしょうがないわ。実際、わたしたちの情報だって事前に聞かされてなかったんでしょ、キョウ?」
「ああ、それを知ってどうなるの? って、実際その通りなんだよな」
大事なのは予測する事じゃない。どんな推論も、実際に相対して得られる情報には敵わないもんだ。
「過去はただのデータだし、予測できない未来を考えても仕方ないものね」
予測できない未来、まったくだ。
「前にキョウも言ってたよな。さっさと職務を果たして自分の未来を探したいってな」
ここでも未来かよ。
確かに、このミッション中はどうあっても行き止まりの人生だって思って言った覚えがあるけどさ。
「とにかく、優先順位を明確にしましょう」
エフテがパンと手を叩いて言う。
「敵をやっつける」アリオが拳を握る。
「ポイント、経験値を稼ぐ」僕が淡々と言う。
「装備を充実? 最強兵装だっけ「エイジス」? を手に入れる」
サブリはエンジニアだから装備が気になるのか。
「船の操縦室を解放、動かせるようにする」プロフは操縦士って言ってたっけ。
「そして、全ての幻想生物を駆逐し「金色の羊毛」を手に入れる」
エフテがまとめる。が。
「で? そっからどうすんだ? 移民船団には通信が繋がらないんだろ?」
「船が飛べるようになったらこの星を脱出すればいいんじゃない?」
「その場合どこに向かうの?」
アリオとサブリとプロフはそれぞれ疑問を口にした後、揃って僕を見る。
「なんで僕を見るんだよ」
「「「順番」」」
くっそ、チームワーク抜群だな。疎外感が激しいぞ。
「だから、先のこと考えてもしょうがないだろ? この船が飛べるのかだって分からないし「金色の羊毛」を手に入れることが至上命令なら、手に入れる事が、船団本体に通信が繋がる条件かもしれないじゃんか」
メロンならそのくらいのロックをかけているかもしれない。
あいつは規則に頑固なやつだ。
「キョウの言う通りね。私も出来ることを積み上げて行くしかないと思う。余計なことを考えずにね」
「レベル上げだな! 分かりやすくていいな」
「あたしエンジニアなんだけど、あたしも戦わなくちゃダメなの?」
「私、操縦士なんでしょ? それに戦えると思う?」
サブリが腕を組み、プロフが小首を傾げて言う。
「どう思う、キョウ」エフテが僕を見る。なんで僕に聞くんだよ。
「現時点で、エフテもレベル設定があって、昨日の戦闘でポイントも溜まってる。二人もデバイスにポイント表示があるんだろ?」
サブリもプロフも同時に目を逸らしやがる。あるんだな。
「というわけで、現在稼働中の隊員全員がレベル解放の条件になってるの。あなたたちが頑張らないと、工作室や格納庫、それと操縦室が解放されないのよ」
エフテも二人を交互に見ながら諭すように話す。
「サブリはアカデミーとやらで戦闘訓練は経験してないの?」
湧いた疑問をぶつける。
「してたよ。シミュレータばっかりだったけどね」
「娯楽室にあるぜ、戦闘シミュレータ」アリオが笑う。
「知ってる。長期睡眠前はみんなで使ってたから」
やれやれとお手上げポーズのサブリ。
「アリオの戦闘記録もちょっと見たけど、私すぐに死んじゃいそう……」
プロフも虚ろな目で呟く。
「大丈夫だよ、俺がみんなを守るからさ」
アリオは頼もしいんだけど信用できない。こいつはいざとなれば強い敵と戦うことを優先するに違いない。
「とにかく、この五人で頑張るしかないの。今日はゆっくり休んで、明日から頑張りましょう」
エフテがまとめるように発し、会議は終わる。
「あ、キョウとアリオは残って。ポイント交換の打ち合わせをしておきましょう」
エフテに呼び止められ、三人で残る。
女性居住区にサブリとプロフが消えた事を確認しエフテが話す。
「ごめんね、二人ともう少し話をしたかったの。わたしたちが会える場所ってここくらいしかないからね」
まあ、確かに。
聞き耳を立てている管理人はいるけどさ。
「で? ポイントとかの話じゃないんでしょ」先を促す。
「ええ、現在わたしが抱えている疑問を伝えておきたかったの。もちろん、行動指針に変わりはないけれど、可能な限りでいいの、関連がありそうな情報に気付いたら教えてほしい」
「疑問て、なんだ?」
「テラ、移民船団は実在するのか。つまりサブリの記憶は正しいのか」
「また考えても仕方のなさそうな……」
「そうね。それ以外にもあるわ。ここは「惑星コルキス」なのか。今いる場所「アルゴー号」は本当に宇宙船なのか。わたしたちは仮想現実の世界にいるんじゃないのか。この惑星上に他の人間はいないのか。幻想生物しかいないのは事実か。「金色の羊毛」なんて存在するのか。わたしたちは本当は何者なのか。六人目は存在するのか。メロンは何者なのか」
「どれもこれもすぐに証明できそうもないな」アリオは笑う。
「そうでもないわ。ねえキョウ、メロンが六人目って可能性は?」
「その疑問を証明できるかもって理由は?」
「メロンが何者なのかくらいは、キョウが調べられそうだからね」
エフテの笑顔に邪気は無い。
だからこそ
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