第28話 五人の会談
「昨夜はお楽しみでしたね」
「なんのことかさっぱり分からない」
僕だって分からないんだ。何が? 自分の肉体がだ!
いい話っぽかったのに台無しだよ!
そのまま翌日の朝を迎えるなんてどうなってるんだよ!
つまり僕の心の部分は悪くない。
「インターコムで何度も呼んだんだけどね。まあどうでもいいわ。でね昨日の夜にあなた以外の四人で集まって、とりあえず今日の船外活動はやめて、情報のすり合わせと親睦を図ろうってことになったの」
エフテは大量のサバの味噌煮を食べながら事務的に告げてくる。
「たまには体を休めることも大事だしな」
親子丼と卵丼をかき込むアリオもいい笑顔で続ける。皮肉なのか? おい。
「昨日はゴメンね、取り乱して。昨日の夜、四人で話して現状は理解したからさ、もう大丈夫だよ、ミョウ」
「キョウ!」大丈夫じゃねーじゃねーか。
「あ、ごめん、長期睡眠の前もさ、キョウとアリオとはあんまり話をしなかったから、二人共少し怖くて近寄りがたかったけど、こんなに普通の男の子だったんだね」
サブリは快活に笑う。
元々はこんな感じの女の子なんだろう。
ボディも含め、実に健康的で良い。
「それよりキョウは、何食べてるの?」
「聞いちゃだめよサブリ、あれは誘い受けなんだから」
エフテが失礼だな。あずき載せ刺身定食の美味さが分からないなんて可哀そうなヤツ。
ちなみにサブリの前には山盛りフルーツ。
ジュースもオレンジジュースだ。
すでに席順も固定してる。
男性陣がいわゆる右側のソファ。
左側が女性陣。
出撃口方面から、プロフ、エフテ、サブリが並ぶ。
こっちは僕、アリオ。
最後の隊員はどっちに座るのかな。
そのまま雑談が続くが、山盛りのドーナッツを食べているプロフは会話に加わらずに静かだ。特に僕と顔を合わそうともしない。
変なしこりが残ってなきゃいいんだけど。
「それじゃキョウ、メロン呼んで」
朝食後、各自で飲み物を準備してエフテが始めにそう告げる。
「なんで僕が」
「誰に聞いてもメロンの呼び出し方法を知らないからよ」
な、んだと?
「僕も知らない」
左腕のデバイスには通信機能はあるが、通話先リストには、ここにいる四人の名前しか載っていない。
「……今までどうやって逢引してきたのよ」
「逢引? なんのことだ? お前らだって面倒見てもらってるだろうが」
微妙な空気が漂う。
するとプロフが立ち上がり、僕の隣に座る。
そのまま両腕を広げ僕に抱き着いた。
「ちょっ!」
何を? という僕のセリフは出撃口側の扉が開く音にかき消される。
大股でこちらに向かって来るメロンより早く、素早く拘束を解き、自分の位置に戻るプロフはドヤ顔でエフテに向かってVサインをする。
メロンは珍しく眉間にしわを寄せて、周りを見渡し、そのまま僕の左に座る。
「なるほどね。まあいいわ。それじゃ全員集まったから会議を始めましょ」
「会議? 親睦を深めるんじゃないの?」騙したな!
「胸襟を開いて意志の疎通を図るんだからこれ以上の親睦の深め方は無いでしょう?」
いや胸を開くんなら物理的に開くって手段もあるだろうが。
冗談はともかく、僕もみんなと話をするのは賛成だ。
サブリの記憶や、みんなの前でメロンがどんな情報を開示するか、とかな。
最初に、サブリの話を聞いた。
「昨日もみんなには話したけどさ、正直あたしもところどころ記憶の抜け落ちみたいなのがあるからゴメンね」
そう前置きして彼女は移民船団テラの話を始めた。
どれだけの規模であるのか正確なところはよく分からないし興味もなかったが、母船は「セントラル」と呼ばれ、サブリはそこで生まれた。
生まれたと言っても普通に人口子宮からの出産で両親もいない。
「アカデミー」と呼ばれる育成施設で14歳まで過ごした。
こういった情報はコモンデータにある一般的な人の営みとして記録されている通りだ。
15歳になる年、それぞれの特徴に合わせ進路別に専攻が変わる。
と同時に選抜メンバーによる特別研修が行われる。
少数団による小型宇宙船での惑星着陸及び帰還。通称「タッチダウン」なんて呼ばれている実践研修だそうだ。
それに選ばれたのが僕ら。
「あれ、先遣隊? 移民先を探すってのはなに?」
現状との齟齬に疑問を投げる。
「どうしてこんな状況にいるのか、そこに差があるからメロンを呼んだのよ」
昨日のうちにこういった話を済ませ、僕を呼んだそうだが、僕は取り込み中だった。すまん。
「まず、お断りしておきますが、そもそもワタシが起動したのはこの惑星に降り立つ前で、みなさんへの起床指令と同時です。つまり274年前とか移民船団などといった過去の歴史に関して体感しておりません。船のAIが故障する前に確保できた情報は、あなた方長期睡眠中の隊員データと、この星での目的についてのみでした。ただ、コモンデータの「タッチダウン」研修の項目にこういった情報が残っています。「研修時に発生した諸状況によって指示系統や目的の変更が行われる可能性もある」と」
メロンは一息で話しモニターを兼ねたテーブルの上に情報を表示させる。
「「アカデミー」だの「タッチダウン」なんて調べなかったからね」
エフテの呟きに皆が頷く。
僕らは先遣隊で「金色の羊毛」を手に入れ船団本体へ連絡する、そんな実行部隊だと思っていたんだから。
「俺たちがやけに若いのもそのためか。まだ学生だったんだな」
「じゃ、じゃああたしたちって何らかの状況の変化ってやつがあって、ただの研修が274年も経ってこの星で活動を始めてるってこと?」
「ねえサブリ、研修が始まる辺りの話をもう一度聞かせてくれる?」
確かにな、研修旅行がなんらかの状況の変化でこうなったんだとしたら、サブリの記憶の中にヒントがあるかもしれない。
「うん、えっと、確かあたしはエンジニア専攻で、みんなは他の随伴船から来たんだと思った。指揮官候補のエフテ、戦闘術に特化したアリオ、操縦士のプロフ、そして専門は、うーんなんだっけか忘れたけど、キョウとミライ」
僕と、誰だと?
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