第25話 四人目と……

 出入り口が閉まり洗浄が始まる。

 しばし噴出していた薬液が一度止まる。


「ここで脱衣です」


 僕とアリオはおもむろにスーツを脱ぐ。


「ちょっと待ちなさいよ! 男女別とかの配慮はないの?」


「エフテも学習しないな、予想通りの流れだろうが? それにほら、こんなに濡れてるとな、脱ぎづらいだろ?」


 アリオが正面ジッパーを全開にして身をくねらせて見せる。


「そこで、こう」僕が胸元のスイッチを入れ空気を入れると、スーツが膨らむ。


 ついでに滑りの良い液体が分泌され、桃の皮を剥くようにスルリと脱衣する。


「こうやって見せつけながら実演するとなんだか変質者の気分だな」


「分かってるなら自重しなさいよ! 言葉で説明すればいいでしょ! ぶわっ!」


 叫ぶエフテの顔に洗浄液が噴射される。


『さっさと済ませていただけませんか』


 メロンの不機嫌そうな声が聞こえる。

 その雰囲気に圧力を感じ、そこから僕たちは素早く済ませる。



「それにしても、少しの傷なら治るのね」


「え、なにそれ?」


 居間への移動中、さっぱりした顔のエフテが呟き、疑問を覚える。


「……ちょっと待ってあなた気付いてないの? アリオも?」


「いや、さすがに俺は知ってるぞ。キョウが知らなかったのは知らなかったが」


 くどい言い方をするな。

 傷だらけだったアリオの肌がそこそこつるつるな時点で想像はできるけど。

 居間に入りながら一応聞く。

 

「治癒液、のこと? 体感してなかったからピンとこなかっただけ」


「今まで怪我一つしてこなかったのね……まあ、わたしだって岩肌で腕を擦ったくらいだけどさ。それよりスーツの防御力、弱くない? アリオのスーツボロボロだったじゃない」


 エフテは飲み物を用意しながら不満をこぼす。

 お前はスーツ関係ないだろ? カッコつけて腕まくりしてただけじゃん。


「今日は動き優先で防刃スーツを着なかったからな。それにトカゲの攻撃以外は大丈夫だったぞ」


 アリオも蜂蜜入りアイスコーヒーを取出して答える。

 それでもけっこう血まみれだったよな。


「治癒液と、ナノマシンだっけ?」


 最後に僕が、豆腐入りレモンジュースを取出し、アリオの隣、エフテの対面、いつものポジションに座る。

 いつも通りエフテは僕の飲み物を見て嫌な顔をする。

 仕事終わりの一杯に、しいたけのだし汁を飲むヤツにそんな顔されたくないね。


「……ナノマシン、そっかドリンクか」エフテは一人で納得する。


「ああ朝のキードリンクか」アリオも続く。


「キードリンク?」初耳な単語。


「飲まないと部屋から出られないだろ? だからキードリンク。あれ苦くて辛いんだよな」


 エフテも首肯で同意してるけど、今日僕が飲んだのは、いちごミルク味だった。

 人によって調合や味が変わるのか。


「で、ナノマシンはドリンクに入ってるの?」


「そうなんじゃない? 効果のほどは分からないけど。コモンデータで見たけど、先遣隊の戦闘特化隊員で、ナノマシンのタンクをインプラントされてるケースもあるじゃない? わたしたちは不要な改造はされてないみたいだけど」


「戦闘特化サイボーグとかじゃなければそうそうナノマシンのお世話にはならんだろ? 欠損とかは別にしても安全マージンを取る戦いに徹すればいいさ」


 僕とエフテはアリオを睨む。


「どの口が言うのよ」「まったくだ」


「いや、ゴメンって。反省してる」アリオは両手を合わせ頭を下げる。


「じゃあどこがまずかったか自己評価してみて」


 エフテは腕を組んでソファにふんぞり返る。


「もっと瞬殺すればよかったな」


「そうじゃない」「そこじゃない」


 間髪入れず僕らがつっこむ。

 確かに瞬殺していれば結果は変わっただろうけど、そうじゃない。


「……冗談だよ。まず二人と距離を取りすぎた。その際にちゃんとどんな戦いをするか説明しておくべきだった。トカゲは想定外だったけど、想定通りにならないことも想定すべきだった。それと、キョウが来てくれると思わなかった」


 だからそこで優しい顔で笑うなよ。

 ドキドキするだろうが。


「ゴーグルとかドローンとか、指摘したいことは他にもあるけど、まあいいわ。わたしも初陣で状況が見えてなかったし、だからさ、今後は三人のコンビネーションや、装備なんかも良く考えて行動する必要があると思うのよ」


「おっしゃる通りです」僕とアリオは揃って頭を下げる。


「じゃあ指示系統の明確化を図るためリーダーを決めましょうか」


「お任せします」またしても揃って頭を下げる。


「……まあいいわ。じゃ明日はわたしがリーダーするから、その結果を判定して、修正したりリーダーを替えたりしましょう」


 僕らに異存はない。むしろずっとリーダーをお願いしたいくらいだ。


 その後、交換する装備などを検討する。


 ちなみに今日の結果はこうなった。


 キョウ―LV2:17350P

 アリオ―LV2:35250P

 エフテ―LV1:2840P


 僕が倒したE―003(コボルト)は200ポイントなんだけど、実際に射撃を行ったのはメロンなので半分に減らされた。

 E―006はロックリザードと命名。こいつは300ポイント。

 004(ピンクボム)005(スピアホーク)と同じ経験値だ。


「拳銃とライフルは、わたしとキョウには使い辛そうよね。わたしはしばらく電磁砲に慣れるとして、キョウには後方支援として、うーん、ミサイル?」


200:L2サーモバリックグレネード(単個)燃料気化爆弾もっと良く燃える

2000:L2大刀

2000:L2小型ミサイルランチャー:10連装

2000:L2電気グローブ:左右のグローブで挟み通電。

3000:L2炸薬式パイル(パイルバンカー):30ミリのパイルを炸薬力でストローク

4000:L2狙撃ライフル(サコーTRG42)


 レベル2リストを見ると確かにライフル以外は近接戦闘用なんだよな。

 グレネードを投げるような投擲力は僕には無い。


 僕がウンウンと考えていると、エフテの後ろ、女性居住区の扉が開く。

 そこには女の子が、二人?


「あーエフテだ! ねぇちょっと聞いてよ! プロフってば、あたしのこと覚えてないっていうんだよ? ひどくない?」


 僕と同じくらいの身長、豊満な胸を主張するポニーテールの女の子がエフテに抱き着く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る