第24話 アリオに加勢

 目の前に停止したコンテナドローンのハッチを開け、中身を取り出す。

 

 アリオの電磁砲は、認証ロックがかかってる。

 ライフルは、こんな息も絶え絶えな状況で撃てると思えない。

 手榴弾、混戦だぜ?

 ブラックホークは、ここに無い。

 くっそ、なんとかなると思ったがなんともならん!


『電磁砲の個人認証を解除しますので手に持ってください。他の荷物をもう一度コンテナに入れて、あなたもコンテナに入って』


「せまくて入れない!」


『コンテナ下部、懸架用のグリップに掴まって』


 武装をコンテナに入れ直し、アリオの電磁砲を右手に持ち、スッと2メートルほどの位置に上昇したドローンの下部グリップを左手で握りしめる。


『離さないで』


 その声を合図に、僕の全力疾走以上の速度で低空を飛翔するドローン。

 離せねえよ! と言いつつ、長くは保たない!

 握力が、腕力が圧倒的に足りない!


 数秒で主戦場、アリオはまだ健在だ。

 つーかあいつ、傷だらけになりながら、笑ってないか?


『電磁砲を前方に向けて、後はこっちでやります』


 前方に向けた瞬間、遠隔信号で自動的に発射される。

 ドローンが微妙に位置を変え、数回の射撃が続くと、アリオの周囲に群がっていたコボルトは全部、血まみれで地に伏していた。


 こんなやりかたが出来るんなら、僕らわざわざ外に出る必要無いんじゃないか?

 まんま無人機シューティングゲームじゃん。

 悪態を吐き、停止したコンテナから手を離し着地する。


 劣勢と判断したのか、トカゲ二体は少し距離を取る。

 だが逃げる気配は無い。

 アリオもダッシュで僕の元へ駆けつける。


「悪い悪い、ちょっと油断してな」


 アリオは苦笑しつつコンテナからライフルと弾薬バッグを取り出す。

 それを隙と見たのか、素早い動きでこちらにダッシュしてくるトカゲ二体。

 

「アリオ!」


「あいつら硬いんだよ。5秒稼いで」


 言いながらライフルをいじっている。

 稼げねーよ、と思いつつ電磁砲を向ける。


「メロン、頼む!」


『ラインに合わせて左右に振って』


 ゴーグルに表示された横一線の赤いラインに合わせ左右に振る。

 二体に対し遠隔射撃で同じ数の着弾。その瞬間は怯むけど、すぐに向かって来る!

 一体はアリオ、もう一体は僕へ。

 大きなトゲの付いた尻尾が振られる。


「お待たせ」


 飄々とした声は意外と近くから聞こえた。


 バン、ジャコッ、バン!


 三つの音が聞こえた後、周辺に動く物体は僕ら以外ゼロになった。


「ありがとな、キョウ。どうすっか悩んでたんだよ、助かった」


 好きなおかずを貰ったときみたいな笑顔。


「苦戦してると思ったんだ」


「ああ、うん……キョウ?」


「アリオが、死んじゃうかもって、それで……」


 泣き顔を見られたくなくて顔を背ける。

 恐怖、安堵、疲労、いろんな状況で感情が溢れる。

 恥ずかしいな、ちくしょう。


 腕で涙を拭うと、視線の先にエフテが駆けてくるのが見えた。


「船に帰れって言ったろ?」


 エフテが目の前に近づいて、僕が声をかけるまで、アリオもなぜかしょんぼりして黙っていた。


「帰れるわけ、ないでしょ? 明日から、一人になっちゃう、かもって思ったら、いてもたっても、いられなかったわよ」


 息の荒いエフテはそう言って僕の胸におでこを付ける。


『どうでもいいですけど、そろそろ船に戻ってくれませんかね。もうすぐ制限時間なんですけど』


 少しだけ怒気を孕んだメロンの声が聞こえる。

 僕は念の為、エフテの両肩を押し剥がしてから言う。


「メロンもありがとな。お前のおかげで助かった」


『べ、別に感謝されるような、そもそも最終的にはアリオ一人でもなんとかなったかもしれませんでしたし』


 アリオは遠くに落ちていたゴーグルを拾って装着しながら僕らに近づき声をかける。


「あ、あの二人共ごめんな、俺、調子に乗って、心配かけて」


「メロンの言う通り一人でもなんとかなったの?」


「あーどうだろ、一対多数で、ゴーグルのアシスト無しでどのくらいの時間を継続戦闘できるか試してたのは事実だけど、あ、でもあの硬いトカゲはちょっとやばかった、うん。やっぱりキョウのおかげだ」


 慌てて弁解するアリオ。

 おそらく対抗策は、あったんだろうな。

 右腰のブラックホークも未使用だったみたいだし、放り出されている小刀やナイフにも刃こぼれはない。

 なんだよ、慌てた僕がバカみたいじゃないか。

 そもそも本当にヤバかったらメロンがちゃんと警報を出したはずだ。


「いや、僕の方こそ早とちりみたいで、結果としてエフテも一人にしちゃったし、メロンに脅威度を確認してから動けば良かったね」


『あ、いえ、そうですね……いずれにせよ、お戻りください。四人目の方が目覚めますので』


 通信が切れる。


「なんだか慌ててたわね」


「珍しくこっちのモニターしてなかったんじゃないか?」


 エフテが呆れ顔で、アリオも苦笑する。

 先日から始まった隊員の起床ラッシュ。

 並行して僕らの応対をしながら忙しそうにしてるメロン。

 さっき声掛けた時は、なんとなく居眠りでもしてたような気配だった。


「四人目の面倒が大変だったんだろ」


 僕らをモニターできないほど疲れてしまっているのだろうか。

 ホムンクルスとはいえ、肉体の疲労回復と記録内容の精査と銘記の為に、毎日数時間の機能停止時間が必要だとは聞いている。

 実際によく僕の隣で眠っているからな。

 夜中も夜中で働き者だし、もう少し労ってあげないとな。


 装備を回収しながらE―006に登録されたトカゲを見る。

 それぞれ、頭と胸に大穴が開いて、血と肉の破片がとてもグロイ。


「そう言えば電磁砲だと威力が足りなかった」


 貫通どころか、牽制くらいにしか効果が無かったもんな。


「ああ、こいつらくらいの硬さだと電磁砲のパワーじゃんだよ」


「わたしたちも新しい装備が必要ってこと?」


 エフテが言いながら自分の電磁砲を持ち上げる。

 あなたは命を預けるのに足りるのかしら? と。


「そこはなんとも。今後、どんな化け物が出てくるか分からんから、武装の選択肢を増やすのは必要だと思うけどな」


「それぞれのスタイルに合わせる必要もありそうね」


「その辺は四人目も含めて相談しよう」


 二人を促し、船に戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る