第23話 エフテの初陣
居間側の隔壁が閉まる。
「ここで脱衣です」
僕とアリオはおもむろに室内服を脱ぐ。
「ちょっと待ちなさいよ! 男女別とかの配慮はないの?」
『効率優先で。それに自意識過剰なのでは?』
スピーカーからメロンが煽る。いいぞもっと言え。
「というわけだから、観念して脱ぐんだな。なぁに慣れればなんてことない」
「あなたはなんで仁王立ちなのよ!」
全裸のアリオから目を逸らすエフテ。
その先には僕。観念したまえ。
「いや、冗談抜きでスーツの着脱とか説明しなくちゃだからさ、極力見ないように努力するけど」
便利な言葉、極力、努力。
「あーもう、分かったわよ! 脱げばいいんでしょ脱げば!」
結果から言うと、なんてことない。
僕にもアリオにも小児性愛の趣味は無かった。
むしろ娘を持つ親の気分になった。
「何もかも汚された気分……」
一通りの装備に身を包んだエフテがげんなりした声を出す。
ちなみにメガネは没収されている。ゴーグルで代用できるからだそうだ。
「大丈夫だ、帰還したとき全身洗浄でピッカピカになるから」
「ココロを綺麗にする方法を教えてもらいたいわ」
『古典文学を楽しめばよろしいのでは? 男性同士が裸で睦み合う……』
「わーわーわー! あんたね管理者だからってプライバシーの侵害も甚だしいわよ!」
メロンの呟きに真っ赤になって両手を振るエフテ。
「和解したみたいだね」
「真顔でそんなことを言うキョウの感性が信じられないんだけど……もういいわ、さっさと行きましょう」
そう言って早足で出口に向かうエフテ。
冗談はともかくさ、少しは緊張もほぐれたんじゃないかな。
僕はアリオと苦笑し合いながらエフテを追って外に出た。
「意味が見出せなくて辛いわね」
どっかで聞いたようなことを言う。
「これも経験だからね、ホーンラビットやアイアンモール程度じゃゲームやってるみたいだし」
岩陰から索敵ドローンの情報を元に、遠距離攻撃を続ける。
悔しいことに狙撃の腕は僕より上手い。
同じ外部アシストを使ってるのになんで差が出るんだろう?
「キョウはなんでいちいち首を傾げながら討伐するの? 一回の出撃で4時間だっけ? アリオみたいにガツガツやらなくていいの?」
ちなみに三人になったから活動半径は2キロまで広がった。
アリオは僕らのいる高台から離れ、1キロ以上離れた平地にいる、Eー003(コボルト)の群れに小刀を抜いて飛び込んでいった。
二足歩行で棍棒なんか持ってるから、人間っぽくて忌避感を覚えそうなもんだけど、返り血もお構いなく、十数体の奴らを一方的に殺戮してる。
「あれは特別だろ? アリオにとって経験値を積み上げることが最優先みたいだし」
ここまで約3時間で僕らの経験値ポイントは以下のようになっている。
キョウ―LV2:10050P→12150P
アリオ―LV2:25530P→33150P
エフテ―LV1:0P→2840P
アリオはすでにレベル4の条件である3万ポイントに到達しているが、僕とエフテが足を引っ張っている。
まずはエフテをレベル2にして、アリオにはレベル3で解放される装備を確認してもらい、場合によっては装備を充実して戦力アップを図ろうというのが共通認識だ。
それにしても。
「アリオはともかく、エフテも僕の一か月を一日で越えるとかなんなの? 戦闘民族なの?」
僕の繊細なプライドは現在進行形でズタズタに切り裂かれている。
「普通に遠距離から狙撃してるだけなんだけど?」
言いながら新しい獲物を抹殺するエフテ。
彼女も特に嫌悪感とか疑問みたいなものは浮かばないらしい。
一か月と言っても、僕が外に出たのは起きてから二週間は経っていたし、最初の敵性体であるホーンラビットを殺すまで、数日の逡巡があったのは確かだ。
そうするもんだと言われたところで、それしかないのだけれど、その行為が正しいかどうか比較する材料が無かったんだ。
今になってみれば、アリオやエフテが正解で、僕がチキンハートだっただけか。
「そろそろ3時間か、どう疲れてない?」
一日分の栄養素、水分などは毎朝のドリンクで必要分は摂取してあるから身体的な機能低下の心配はないが、精神的な疲れは別だ。
「そうね、集中力は落ちてるかな? 残弾数も8発だし」
「僕も後2発。それにエフテは初陣だからね、アリオが一段落したら帰ろうか」
無理していいことなんかないからな。
安全マージン第一。
アリオは相変わらず平地でコボルトの群れと戦闘中、って、敵の数、増えてないか?
「キョウ、あれ援護しなくていいの?」
これが通常の状況なのか判断できないエフテが僕を見る。
「いや、マズイ! あいつゴーグルしてないぞ」
ズームでよく見ると、五体ほどのコボルトと、鈍色のトカゲ? が二体アリオと戦っている。
なんだあれ? 索敵警報はどうした?
そう思いながら、残弾の少ない電磁砲を放り捨てて走り出す。
「エフテはここにいて、いや、周辺に注意して船に戻って!」
「ちょっと、キョウ!」
そうだ。
俺の方は問題ないからエフテの周辺の索敵を密に、なんて言ってアリオのドローンはこっちだ。
しかも索敵レンジは半径1キロの詳細索敵に設定してある。
「メロン! 索敵情報くれ!」
お前は僕を常時監視してるんだろう?
『……はっ! え、ええとなに?』
高台から平地への斜面を滑り降りながらメロンの慌てた声。
すっげぇ珍しいんだけど。
「アリオがゴーグルしてない! あいつのとこ、コンテナだけ、索敵無し、フォロー頼む」
息切れしながら簡潔に話す。通じろよ。
『……状況確認。新型の敵性体、E―006に登録。硬度の高い外皮に覆われた二足歩行可能なトカゲ型です。アリオの現装備、小刀、サバイバルナイフのみ。他はコンテナに収納。コンテナは乱戦のため呼べません』
ゴーグルが無くても、腕のデバイスを使い、音声通信でコンテナを呼んだり僕らと通信はできるにも関わらず連絡がない。
つまりそれだけ状況が悪いってことだ。
平地に降り、戦場へ駆ける。
つーか息が苦しい!
「コンテナ、こっち!」
残り500メートルほどの位置で叫び、止まって荒い呼吸を続ける。
アリオのコンテナがメロンの遠隔操作で僕に近づく。
遠目からちらりとアリオがこちらを見た、気がする。
僕だって、やるときはやる!
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