第14話 アリオの新兵器1

「昨夜はお楽しみでしたね」


 朝食後、準備を済ませ出撃通路への移動中、アリオがニヤニヤと言う。

 あれ、自室の防音ってどうなってんの?

 それともインターコムとか繋ぎっぱなしになってた?

 僕は嫌な汗をかきながら思案する。

 プライベートの流出は由々しき問題だ!


「なななななんのことかな? 具体的な証拠を提示してもらおうか」


「鎌をかけただけなんだけど」


 アリオはさらりとそんな風に言う。くそう騙したな!


「あ、いや、ただの医療行為、僕ってバイタルに問題があって、常時モニターが必要なんだってさ」


「情事モニター?」


 恐らく文字が勘違いしてるから!


「とにかく! 僕は虚弱で、それ故に計画の遅延が発生してたわけで、これからは頑張っていこう!」


「いや別に、出撃前の冗談のつもりだったんだ、ゴメンな」


 アリオは少し赤い顔で謝ってくる。

 そんな初心初心うぶうぶしい反応をされるとこっちも困るんですが。


 そんなやりとりをしながら指定位置に来ると、居間方向の隔壁が閉まり、出撃準備が始まる。

 室内着を脱いで洗浄口に放り込む。

 壁が開き、装備一式がテーブルに載って現れる。

 いつもの初期装備。

 ノーマルスーツを着込み、バトルシューズを履く。

 リュックを背負うと、自動でスーツに固定される。

 ナイフをケースごと腰の後ろのマウントに取付け、ゴーグルを被る。

 最後に電磁砲を腕に持つ。


 準備を済ませアリオを見ると、彼はノーマルスーツの上に更に、網でできたスーツを着込んでいた。

 テーブルの上には電磁砲と、ガンベルト?


「網の全身タイツと新兵器?」


 朝食の席でポイントを使った話は聞いていたけど、詳しくは教えてくれなかった。


「おう、防刃スーツと回転式拳銃な」


 防刃スーツにより僕より一回り膨らんだアリオは、こげ茶色、革製のベルトを腰に巻きつける。

 右のホルスターに黒い銃。


「回転式拳銃? 初めて見た」


 彼は木製のグリップを掴み、ホルスターから取り出す。


「俺もさ。でもなんでだろうな、懐かしく感じるよ」


 回転式弾倉のローディングゲートを開け、薬莢式の弾を込めながら答える。

 その顔は、古い友人と再会して、懐かしさを感じているような笑顔だった。


 ていうかさ、ネタ装備だよね?

 防刃スーツはともかく、なんで初期装備の電磁砲より、装弾数も射程も威力も命中精度も劣る武器を選んでるのさ。

 それにゴーグルの補正も、視線トリガーも使えないんだよ?


「それ、装弾数は?」


「6発だな」


「見ると一発ずつ出し入れしてるみたいだけど」


「ああ、スタームルガーの『ブラックホーク』って銃なんだけど、回転式弾倉が飛び出すタイプじゃないからな、スピードローダーも使えない」


「戦闘中に弾を込めるの? 一発ずつ?」


 なんの縛りプレイだろうか。


「でも、弾は無料ってありがたいよな。しかも弾種もいろいろあるんだぜ」


 そりゃマシンガン的な弾をばらまく銃器と違うから消費弾数は少なくて済むかもしれないけどさ。


「ちなみにどんな弾丸があるの?」


「ロケット弾、爆裂弾、燃焼弾、二段弾とかいろいろ」


 僕の基礎知識には存在しないな。

 なんとなく用途は分かるけどさ。


「で、こいつより強いの?」


 僕は電磁砲を掲げる。


「ん~、汎用性で言ったら電磁砲一択だな。たださ、なんとなくいろんな武器に精通しておいた方が後々役に立つ、そんな気がするんだよな」


 アリオは装填済みのリボルバーの重さを確認したり、眺めまわしたりしながら言う。


「でもさ、武器の種類を増やすんなら、レベル上げてもっと高性能な武器を探してもいいんじゃない?」


「まあ、とりあえずのんびりやろうや。ところでさレベルアップで船の設備が使えるようになるんだろ? どっちかがレベルアップすればいいのか?」


「どうなの? メロン」


 知らない事は知っていそうな人に聞くに限る。


『レベルアップした人だけ、その恩恵を享受できます。具体的にはロック解除された部屋の中には当該レベルの人しか入れません』


「じゃあ俺はいろんな装備試すからさ、キョウはレベルアップして次のレベルでどんな装備が増えるか、使える設備はどんなものがあるか調べてくれるか?」


 まあそういう戦略もありだよね。

 誰かがレベルを上げ続け、誰かはポイント交換を積極的に行って、兵装の評価を行う。

 でもまあ、娯楽室はともかく、操縦室なんか一人だけでも良さそうだけど。


『船の設備や装備に関しては、活動中の隊員が同じレベルに到達しないと、次の次のレベルが解放されませんよ』


 どっちかがLV2になっても、片方がLV1のままだとLV3には行けないってことか。


「融通が利かないんだな、ま、いいさ。それなら今のうちに俺とキョウが二人でレベル上げする分には問題ないよな」


 アリオはニヤリと口角を上げ、肉食獣のような目で僕を見る。

 え、ちょっと勘弁してくれませんか?

 僕は制限時間の中でのんびり攻略したい、できれば安全第一で。


『……』


 メロンも何か言いたいけど言えない、そんな気配が伝わってくる。


「おしっ、出撃するぞ! 開けてくれ」


 アリオは僕の肩を抱きながら、開き始めたゲートに早足で歩く。

 これからしばらくハードな戦いの日々が始まるのか……。

 僕はげんなりした気持ちのまま、陽光溢れる外界に足を出す。


 だけど、そんな後ろ向きな決意は、その日の内に壊されることになる。




 キョウ―LV1:3330P

 アリオ―LV1:2480P→980P


 交換した兵装

 500P:回転式拳銃(ブラックホーク・弾丸はサービス)

 1000P:防刃スーツ(他のスーツと併用可能・カーボンナノ繊維によるチェインメイル構造)

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