第12話 アリオと共闘2

「へえ、普通の地上だな、呼吸も気温も重力も問題ない」


 船外へ出たアリオは陽光を浴びながら深呼吸をし、その場で飛び跳ねる。

 一か月前の僕とはだいぶ違う。

 あの時の僕は歩き出すまで数分の覚悟が必要だった。


「それにしてもうまく偽装してるな。直径、100メートルくらいか」


 アリオは後ろを振り返り台形状の一枚岩にしか見えない「アルゴー号」を観察する。

 いつの日かコイツで移動したり、宇宙に出たりするんだよな。

 眺めていると、ゴーグルに索敵情報。

 E―001(ホーンラビット)だ。


「そっちのゴーグルにも情報入った?」


「ああ、視線タップ、慣れないな……お、こうか」


「慣れれば移動中とかすごく便利だよ押し間違いもないし」


 視界を阻害しないまま焦点に合わせた位置に表示されるボタンの数々。今ならたぶん、歩きながら視線タップでピアノ演奏だってできそうだ。


「で、いまのところ武装はこいつだけなんだよな」


 アリオは僕と同じ電磁砲を掲げる。


「近接用にナイフもあるけど使ったことないね。同じ理由でスーツの耐久性も不明」


 僕らが着ているノーマルスーツの素材は、防刃防弾効果もあるらしいけど試す気にはなれない。


「このリュックは?」


「Eリュックって言って、エマージェンシーリュック。三日分の非常食や医薬品、簡易テント、非常用通信機が入ってる」


 背中に密着したデザイン。

 そういえば一度も中身を確認したことないな。


「で、索敵ドローンは自動なんだっけ」


「うん、一人に一機だけど、相互リンクで自律制御してるから二台が同じ敵のところに行ったりしない。もちろん任意に指示も出せる。僕は基本的にメロンに操作を頼んでる」


「理由は?」


 一人が心細かったんだよ! 察しろよ。


「そんなことより100メートル範囲内だよ」


「おっけ、俺にやらせて」


 アリオは、伏せもせず堂々とした立ち位置で電磁砲を腰だめに構える。

 高速で向かって来るウサギ。

 真っ赤な目が狂気を纏っている。


 シュン! と風切音。

 直後にバッ!と肉体が弾ける音。

 初陣のくせに一発で済ますとは恐れ入る。


 ちなみに僕の初戦は、残弾50発、全て使い切りました。


「着弾位置に若干の誤差があるな……メロン、調整できるか?」


『すでに自動調整してます。適当なターゲットで試してください』


 すげえな、そんなことまで分かるの?

 アリオさんは、訓練された軍人さんとかなのかね。


 200メートルほど離れた石ころに向かって発射。


「おお、ぴったりだな。風の影響を考えるとこの距離までは問題なさそうだ」


『風速、風向、気温、湿度は予測値も含め反映してます』


「任意位置の気象シミュレートも完璧ってわけか」


『そのために設定された移動限界範囲ですからね。ただし、範囲外に出た場合はアシストできません。全てそちらの自律行動で試してみます?』


「手動エイムってやつか、いや、もう少し保護者付オートで試してみるよ。こっちにも慣れないと差異が分からん」


 ちょっと二人共、なにを話してるか分かんないんだけど?


「なんの話をしてるの?」


 疎外感を感じたのでどちらともなく聞いてみる。


「……」『……』


 なにその視線。見られると恥ずかしいんだけど。


「……戦闘時に於けるアシスト機能の有無と調整についてカスタマイズしてるつもりなんだけど、キョウは今までどうやってた?」


『キョウは全依存フルオートです』


 なんで僕が答える前にメロンが即答してるんだ? もちろん質問の意図があんまり理解できてないから答えようがないけどさ。


「どうにも、記憶喪失には種類があるみたいだね」


 僕は少し強がって言う。


「だな、まあその辺はこれからスリ合わせて行こう。今までは比較対象がいなかったってだけさ」


 アリオは僕の無知を責めない。

 もっとも無知であることをたった今知った僕にとってどうしょうもない。

 知っていること以外は知らないんだからさ。


 それから二人で経験値を積み重ねた。

 メロン基準でE―001(ホーンラビット)は約100ポイント。

 約というのは倒し方でポイントが前後するからだ。

 高度なテクニックを用いたり、不利な状況で倒すと最大で5割増し。

 メロンのアシストを使ったり、難易度の低い敵を倒し続けると5割減。


 そして初めての共闘で分かったのが、倒した敵に対して、その貢献度でポイントが分配されるってこと。

 E-001(ホーンラビット)やE―002(アイアンモール)どちらも100ポイント設定で合計20体倒した結果。

 キョウ―LV1:3030P→3330P

 アリオ―LV1:0P→2480P

 となった。

 僕は遠距離から援護射撃を続けただけだ。

 これは効率がいい!


「歯ごたえがないな」


「いいじゃない、柔らかくても」


 アリオは少し前からナイフで戦ってる。

 返り血を浴びる姿は鬼の様だ。


「この辺りはこいつらばかり?」


「他にもコボルトみたいなヤツや速い鳥、ピンクの爆弾みたいのがいるけど」


「E―005まではデータを見たよ。攻略方法も分かってる。これじゃポイント効率が悪いだろ? それにどうせレベルが上がると獲得ポイントも下がるんだろ?」


『ご明察ですね。LV2ではE-001は50ポイントに下がります。だから四の五の言ってないで行動範囲を広げてほしいのです。レベルを上げれば移動可能範囲も格段に広がりますからね』


「だってさ、明日からはもっと遠出しようか?」


「……あ、残念でした。出撃制限があって一日おきじゃないと『隊員が複数になりましたから二人以上の出撃の場合隔日制限はありません』


 僕の反論に被せて話すメロン。

 なん、だと?


「というわけで、明日もよろしくな、キョウ」 


 夕日に照らされたアリオの微笑は幽鬼の様に見えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る