第11話 アリオと共闘1

「ふぅ、以前キョウには説明したかと思うのですが聞いていませんか?」


「え、僕なんか聞いたっけ?」


 比較的何も考えず従順に生きてきた気がする。


「「金色の羊毛」は惑星の上位種によって守られている。その上位種は種の危険が迫らないと姿を現さない。種の危険とはすなわち、この惑星に発現した生物の一定数が消失したとき。明確には下位、中位、上位と順番に討伐していかないと「金色の羊毛」に辿り着かないのです。だから今いるここがスタート地点」


「……敵性生物が少なく弱い場所に降り立った。だっけ?」


 あ、なんか聞いた気がするぞ。


「惑星だけ手に入れるんじゃだめなのか? 「金色の羊毛」それに拘る理由は?」


「もちろん我々にとって有益な生態系を生み出すという理由が主になりますが、我々も宇宙に放浪する前は、とある惑星に住んでいました。生命の生まれる惑星には必ず「金色の羊毛」があり、それが力を失うと新しい生命は生まれず、植物も枯れて行く。やがて大地は荒れ果て、人工的に隔離された空間の中でしか人は生きられなかった」


「人が生きるために「金色の羊毛」の確保は必須、それを守る上位種はラスボスで、段階を踏まないと現れない、ってことか」


「最初からあなた方にこの船の全てを与えると、終盤までは簡単に辿り着けるんです。RPGゲームで言うとコード改造。でもラスボス戦はシューティングやアクションゲームみたいな? 積み上げた経験則やテクニックが無いと戦えません」


「脳や反射神経とか改造してもだめなの?」


 僕も割り込んで聞く。


「さっきのアリオの質問にもつながりますが、今回と同様のミッション、過去に何度経験したと思います? 1万や10万じゃきかないんですよ? そして当然、機械や人工生命体だけで挑んだこともあります。成功率は0%でした」


「ゼロ……」確率的におかしいだろ。


「理由は、生きた人間の前にしか「金色の羊毛」は姿を現さないのです。もちろんそれだけならラストバトル前で人を用意すればいいのですが、更に言うと、人間の戦闘時の判断力や柔軟性は人工頭脳を凌駕するというデータがあるんです」


「あ、そうなんだ」


 少し悔しそうなメロンの物言いに、ちょっとだけ優越感を感じる。


「ま、そういったデータがあるんじゃしょうがねぇか」


 アリオもまんざらでもなさそうだ。


「それに、LV10で解放される、この船に積んである最強兵装は……人間が乗ることでその真価を発揮します。理論上、5機あれば上位種を倒せるはずです……」


「最強兵装についてもっと詳しく!」


 アリオが食いついた。


「現時点のレベルでは開示できる情報は名前くらいですね」


「名前? 兵装の名称ってことか」


「はい「エイジス」と言います」


 メロンもミッションの成功を優先させる立場なんだろうから、最適効率の立案をして僕らに提言するんだろう。

 僕らには判断する情報も知識も乏しい。

 メロンが正しいとは言い切れないけど、これまでメロンに強制されたことは一度もない。

 脅され、そそのかされといった記憶はあるけど、無理やり船外に放り出されたり戦闘させられたりってことはなかった。

 彼女なりに僕らのケアをしながら最適な判断をしているのかもな。


「ま、そもそも別に戦いたくないってわけじゃないし、他にすることもないし、面白そうだしな。てことでキョウ、さっそく明日から頑張ろうぜ」


「ほどほどで、マイペースで」


 そっか、共闘者がいるってのは、守ってもらえたり討伐が捗るばかりじゃない。引きずられてより深い難度に向かう可能性もあった!


「で、メロンさ、さっきの進捗? 遅れると本当にペナルティがあるのか?」


 僕は昨日までの、のんびりした行動に罪悪感を覚え聞いてみる。


「……単純に、ホムンクルスの耐用年数に限界がくるだけですよ」


「は? 耐用年数? 何年?」


 僕は焦燥に駆られメロンに詰め寄る。

 聞いてないぞ?


「女性に年齢を聞くのは感心しませんね……」


「メロン!」


「……ホムンクルスの寿命は3年ですよ。ちなみに計画通りに進めば「金色の羊毛」を手に入れるまで約2年半。最後までお付き合いできますよ」


 そうじゃねーだろ。


「3年経ったらどうなるんだよ」


「素体が運用できなくなるだけで、人格、記憶データは残ります。そのころには船のAIも直ってるでしょうから、そっちと統合して、ちゃんと最後までお供できます」


「データって……素体の予備は無いのかよ」


「素体も人間由来の培養有機物ですからね、原料の残りが一体分も無いんですよ。あなたはワタシの体が目的なんですか?」


 メロンは意地の悪そうな、それでいて悲しそうな顔で少し笑う。


「そんなわけねーだろ!」


 分からない。

 そんなことない。

 でも思い出す愛しさは、その体が放つ湿った温かさ。

 ヤリたい盛りの少年じゃあるまいし!

 そんな苛立ちを覚えても、お前の心だけがあればいいなんて、どうしても言うことができなかった。


―――――


「キョウ、お前メロンのこと好きなのか?」


 出撃前の装備チェックを終えるとアリオがそう聞いて来た。


「そそそそそんなわけないじゃん」


「分かりやすいなぁ」


 アリオはクスクスと笑う。

 

 今の自分につながる一番遠い記憶。

 目が覚めたときつながっていた彼女。

 そんな体験をしたから、こんな気持ちになってる。

 刷り込みみたいなもんだ。

 でも、確かに特別な存在なんだろうとも思う。


「そんなんじゃないよ……」僕は照れを隠してふて腐れる。


「でもさ、人間とホムンクルスだってこと忘れるなよ」


 彼は少しだけ真面目な顔で僕を見る。

 僕を気遣ってくれている、そんな顔と声色だった。

 それに答えず視線を逸らす。


「こちらキョウ、出撃する」


 ゴーグルのマイクをONにしてメロンに声をかける。


『行ってらっしゃい』


「同じくアリオ、行って来る」


『キョウをよろしくお願いします』


「え、俺の方が初陣なんだけど?」


 アリオはニヤニヤしてそう言いながら僕の肩をたたく。


『……ご武運を』


 メロンの声と同時に正面のハッチが開く。

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