第9話 アリオに説明

 その後、居間の設備を説明する。

 まず、居間から四方への扉について。

 ついでにアリオからそんな丁寧な言い方しなくていいぞと言われたのでフランクに行こうじゃないか。


「あっちが船の先端、外への出入り口につながる通路がある。出撃するときにまた説明するよ。で、ソファの後ろ、部屋の左右の扉が居住区へつながってる。僕らの部屋はこっちの扉」


 僕は後ろを指さしながらアリオに話す。


「で、そっちアリオの後ろも居住区なんだけど、そっちの四つは空室」


「隊員は全部で、6人だっけ?」


「うん、そう聞いてる。メロンを抜いて6人」


 個室は全部で八つあるけどさ。


「キョウは他の隊員を見てないのか?」


「そっち、寝台って呼ばれる長時間睡眠のベッドルームらしいんだけど、入れさせてもらえないんだよ」


「なんで?」


「セキュリティだって。長時間睡眠中は無防備だから、人権確保のために原則、立ち入り禁止なんだって」


「なるほど、メロンだけ入れるってことか。メロンに何かあったらどうすんだ?」


「だから原則。メロンの稼働信号が途絶えると、メロンと船のバックアップAIが起動するって言ってた。その管理化で他の隊員が入れるようになるんだって」


「ふうん、面倒なんだな」


 アリオはめんどくさそうに苦笑する。


「でももし僕が女の子で、他の男が先に起きたとすれば、やっぱり怖いかな」


「こんな紳士に何を言うかな……って、確かに一方的に観察されたり干渉されたりってのは気分悪いもんな」


 僕は頷き、説明を続ける。

 次は居間の壁に仕込まれた設備だ。


「フードコンソールは大丈夫だよね、メニューにある料理が出てくる」


 それ以外に、大型モニター、ダストシュート、食器を投入する洗浄口、医薬品やサプリが出てくるメディカルコンソールなどを説明しておく。


「食い物の知識が残ってるのは助かった。それに知らないメニューもあるから楽しみだ」


 アリオは笑顔で言うが、すごくよく分かる。

 食の娯楽性ってものすごく大事。

 それに誰かと食べるってのもいいよね。

 今までは僕とメロンだけだったから、アリオがいればにぎやかになるだろうね。


「僕も嬉しいよ、どうにもメロンとは嗜好が合わないみたいでさ、美味しいの共有ができずにいるんだ」


「あ、まあ、納豆にソースはな……ところで、メロン、ホムンクルスって人工生命体だよな、メシ食えるんだ」


「汎用性の為だとか。実際の栄養素自体は僕らと同じく別に確保してるみたい。人間同様の生活が送れないと、知的生命体のいる惑星で活動するとき不便なんだって」


「まあ、排泄はともかく、食事を摂らないのは不自然だもんな」


 僕らだって消化促進のサプリで、数日間であれば排泄は省略できる。

 いろいろが機能不全に陥るからずっとは使えないけどね。


「それに隊員の精神的ケアを緩和させる意味もあるんだってさ。隊員の孤独感を感じさせないようにできるだけ人間を模倣してるんだって」


「ああ。たしかにメロンの場合、作り物らしさが少ない、っていうかアシスタントのくせに俺に対する応対がすごく適当だった気がするぞ?」


 そんなアリオの憤慨の途中、寝台に続く扉が開く。

 扉の向こうは暗闇で見通せない。明るいと長期睡眠中の隊員によくないそうだ。


「ワタシがお世話をしていなければ、あなたは今頃干物ですよ?」


 いつものキリッっとしたメイド服に、少しだけ冷ややかな目線をアリオに送りながら、彼の背中側の居住区に消えて行った。


「キョウ、干物ってどうゆうことだ?」


 僕の頭の中に、長期保存されたフリーズドライの食べ物が浮かぶ。

 まさか、僕らもお湯を入れて三分で覚醒したとか?


「たぶん、誠心誠意対応したよって事だと思うよ。ところで、なんでメロンはそっちの居住区に?」


「掃除とか? キョウが分からんことは俺にも分からんぞ。それに、まだ俺たちの側だって二つ部屋が余ってるんだろ」


 男女別という言葉が浮かぶ。


「……ということは、三人目は女の子かも」


「だから俺は紳士のつもりなんだが……でもエリアで男女を分けるのはしょうがないだろうな。男女比がどうか分からんが、密閉空間での少人数集団生活の基本は、必要以上の執着心を育てないことだからな」


 ふーん、アリオの常識感覚っていわゆる硬派的な感じかな。

 別に僕だって男一人に女五人を夢想しなかったかと言えば嘘になるけどさ。

 確かに恋愛や愛憎の果てに刃傷沙汰とか勘弁だもんね。

 隊員同士での殺し合いが高ポイント設定されていたとしても、僕は同族を殺める気持ちはさらさらない。


「それに関しては同意するよ。さっさと職務を果たして自分の未来を探したいからね」


 このミッション中はどうあっても行き止まりの人生なんだ。

 移民団本体に戻ってからのことだって分からないけど、少なくともこの星を攻略しなければ先はない。


「未来、ね。俺にもそんなもんがあるんだろうかな?」


 げんなりした口調でそう呟くアリオに、僕は返事を言えなかった。


 情報を聞こうと、メロンが向かった扉に向かうがロックされていて入れない。

 仕方なく僕たちは自室に戻る。

 ついでに部屋の設備を説明しておこう。


「正面ベッド、左に机、右のドアがユニットバス。壁のマルチゲートに毎朝、一日分の栄養ドリンクが用意されてるから忘れずに飲んでね」


 今日の分は既にメロンに飲まされたらしい。


「簡単な説明だな」


「メロンに教わった通りにしたんですが」


 やっぱりあいつが適当なんじゃねーか、僕だって簡素だって思ったよ。


「情報検索とか娯楽に関わる設備は?」


 アリオの問いに、机の上のモニターをONにする。


「操作は分かる? 直押しとジェスチャーと視線と音声のマルチインターフェイスだけど」


「思念操作はないのか?」


 ほほう、そういった知識は僕と同様にあるんだな。


「うん、五感と稼働部位を使った入出力だけだよ」


「旧時代のシステムだな」


 その比較の元にある記憶が正しいか分からんから、新旧の比較できないけどね。

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