第3話 キョウの日常2

 食べ終えたトレーを洗浄口に放り込み、伸びをする。


「これからなんか仕事あったっけ?」


「特にありませんから自室で復習でもしておいてください。E―004のデータもアップしておいたので確認しておいてください」


 メロンはお茶を飲みながら答える。


 新しい敵の情報は、確かに熟知しておいて損はない。

 敵を効率的に倒すことが経験値ポイントの習得につながり、使える設備が増え、結果的に生き残る確率が高まるんだ。


「さっきのピンクのブヨってどのくらいのポイントだった?」


「103ですね」


「少なっ!」


「ワタシの介入もありましたからその分はマイナスですね、その前に倒したE―003は211ポイントでしたよ」


 確かに、メロンのアドバイスが無ければ命を失っていたかもしれないからな。

 それにしても先は長いな。


 左手首のウェラブルデバイスの「P」をタップ。

 LV1:2580Pと表示がある。


「レベルアップが1万だっけ?」


「はい。交換可能装備が増えますね」


 LV1のまま、獲得したポイントで使用可能な装備を入手するか、さっさとレベルを上げてより強い装備を手に入れる環境に進むか悩む。

 前者の場合、低レベルで強い武器が手に入るので討伐効率は上がる。

 E―004みたいなヤツでも直接対応できる武器はあるだろう。

 後者の場合、使用できる設備が増えたり、武器のラインナップが増える。

 交換必要ポイントも増えるだろうけど、今後の計画立案が立てやすくなる。


 おすすめの攻略法を聞いても、メロンは「お好きにどうぞ」しか言わない。


「とりあえず今日の復習と、今後の方針でも検討するよ。じゃ、おやすみ」


 ちょうどお茶を飲み終わったメロンに声をかけソファの後ろにあるドアから右側居住区通路に出る。

 

 居間の左右のドアは居住区への通路。

 通路の左右に二つずつのスライド扉。

 僕は奥の右側の自室に入る。

 自動ドアは閉まると自然にロックがかかり、他のは入れない。

 もっとも、他のは長期睡眠中だ。


 机とベッドとロッカー、扉を隔ててユニットバス。それだけの小さな部屋だけど、僕はなんとなくこの狭さが気に入っている。

 なにより274年も「寝台」で眠っていたんだ。

 狭いところには慣れてる。

 自覚は無いけどさ。


 机に座り、正面モニターの各種メニューからあらためて「ポイント」をタップ。

 LV1:2580

 2580に触れるとポイント交換可能装備が一覧表示される。

 

 ・100:焼夷手榴弾(単個)

 ・500:ブーメラン

 ・500:回転式拳銃(ブラックホーク)

 ・600:チェーンソー(充電式)

 ・800:三節棍

 ・1000:小刀(鞘付)

 ・1000:防刃スーツ(他のスーツと併用可能)

 ・2000:機械アシストスーツ(充電式)


 何度見てもラインナップに更新は無い。

 どう考えてもネタ装備も含まれてるし、商品説明も簡易だ。

 今はまだ初期装備でいいだろう。


 メニューの「装備」をタップ。

 ・ノーマルスーツ

 ・マルチゴーグル

 ・電磁砲(弾数50)

 ・バトルシューズ

 ・サバイバルナイフ

 ・Eリュック

 ・索敵ドローン


 今日の「E―004」以外を倒すだけなら、初期装備で十分。

 「E―004」は今日の攻略方法を元に、落石が狙えるポイントをいくつかパターン登録しておこう。こちらの索敵能力は1万メートルもあるから、ヤツの移動速度を考慮しても十分対応可能だろう。


 戦闘データの復習と予習を行った後、疲れと眠気を感じシングルサイズのベッドにもぐりこむ。

 本格的な睡眠に至る前に、さきほどのメロンとの会話にあった、他の隊員への教育方法について考える。


 この船がこの惑星コルキスに着陸する際、船のAIが、ロングスリープ中の隊員に対し起床信号を発令。

 ただ、長期睡眠からの起床シークエンスはデリケートな作業のため、起床までのタイムラグは長い人で数か月を要する場合がある。

 無理をすると生体組織にエラーが出たり、記憶領域に致命的な問題を抱えたりする。

 そう、僕の様に。


 僕ら正規の先遣隊をサポートするホムンクルスであるメロンは、船の起床発令を機に稼働を開始した。

 あいつ、ホムンクルスのくせに、一人じゃつまんない! という理由で、一番早く起きそうな僕を、どんな方法かわからないけど、無理やり起こしたそうだ。

 結果、僕は眠りにつく前、274年前の記憶を失っていた。


 微睡みから目覚めたのはこの部屋のベッドで、僕の体にメロンが貼りついていた。


 そう、今の様に。


「……ん、あ……」


「……メロンさん、いつも言ってるけどさ、できれば事前に言っておいてほしいんだけど」


 四肢に力が入らない。今日は、体が動かないバージョンか。


「……ん、それじゃ正確な、データ、とれない」


「……医療行為なんだよね?」


「……それ以外の、なんだと思うの? 人とホムンクルスの間に、それ以外の行為なんて、ありえないん、ですけど?」


 メロンは息も絶え絶えに答える。

 ちなみに僕の体は一部が筋弛緩剤でマヒし、一部が謎のクスリで元気にされているという状態で、これが検体採取の医療行為って言われる以上、否定する道理もないんだけど……それでも、なんというか、ちょっと筆舌に尽くしがたい。


 僕から能動的な行動は何もできない。

 しばらく天井を眺め続け、一連の医療行為が終了し、後片付けを済ませたメロンはそのまま僕の左腕を枕にして丸くなる。


 こうして僕の一日は終わり、夜が更けて行く。

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