第10話 異世界の騎士、氷獄龍を駆る
「あれが・・・・・・・・」
「トーヤさんのヌース、でしょうか」
トーヤの呼び出した精神の具現は、全身氷で出来ていた。まるで人間のように背筋を伸ばして立ち上がり、翼を大きくはためかせるヘル。それを見たエリスは忌々しそうに顔をしかめていた。
『ぬう・・・・・・・・リョウタ様!!』
『オーケー、任せろ!!』
エリスの声に反応して、須川が赤い残光を残しながらトーヤの方に向かっていく。だけどその瞬間、トーヤが叫んだ。
「ヘル!!」
ヘルが翼を大きく広げると、パキン、という音が微かに鳴って僕ら以外の世界が白黒になった。するとまるで動画をスローで再生しているみたいに色々なものの動きが異様に遅くなった。
「死ね」
心の底から憎そうにトーヤは須川の胸の真ん中に剣を突き刺した。けど、その切っ先は漆黒のパワードスーツを貫くことは無かった。
『——————————があっ!?』
「チッ」
パァン!!と何かが砕ける音がして世界に色が戻ると、須川が思いっきり吹っ飛ばされた。きっと時間が動き始めたんだろう。
「こっちは俺がやる。オマエらはあのクソ女神をやれ」
「わかった!ジアース!!」
『させませんよ!!』
僕はジアースを召喚して一緒にエリスの方に走り出した。エリスは首の長い鳥のような器官を伸ばして、また僕らに攻撃を仕掛けようとしている。
「あいつの妨害が無ければこっちのもんだ!!マーズ!!」
マーズは大剣をその鳥頭に向かって投げつけた。だけど大剣は嘴にくわえられて、ダメージを与えることは出来なかった。
「俊也!!剣が!!」
「これでいいんだよ!!」
まずい、と思って俊也に注意を促したけど、俊也は不敵に笑ったままマーズに鎖のように連なった時計の針を振り回させる。大剣につながったそれはぐるぐると鳥の頭に絡みついていき、がんじがらめにした。
『なっ・・・・・・・・・・』
「行け!!ジアース!!」
ジアースは大きく跳び上がり、首に向かって剣を振り下ろした。一見しなやかに見えるそれでも、急に引っ張られたら一瞬だけ伸びきる。そこに思いっきり刃物を振り下ろせばどうなるか。
表面に入った切れ込みからヒビが一気に入り、バキン、と引きちぎられるように首を落とした。
『くっ・・・・・・・・・まだですよ!!まだ私には“翼”があるのですから!!』
そう言って、今度は翼を振り回すエリス。首と違って伸縮機構はないけど、羽ばたきに応じて放たれる光の刃は非常に危険だ。あんなものをまき散らされたら・・・・・
「ヴィーナス!!皆さんを守って!!」
ヴィーナスは六つのキューブを同心円状に高速回転させた。飛んできた光の羽根がバチバチとはじける。
「金剛堂、助かった!!」
俊也はエリスの方に掌を向けて、マーズに炎を生み出させる。同じくマーズは掌をエリスに向けて、炎をエリスに浴びせかけた。
『いやっ・・・・・・・・・』
エリスは翼をクロスさせて防ごうとしている。金属で出来ているそれはマーズの炎を受けて赤熱していた。でも、本体にダメージが入っているとは思えない。
「俊也、効いてないけど良いの?!」
「ああ、問題ねぇ」
ウサムービットは怪訝な声を上げているけど、俊也は自信満々の様子だ。そこに、トーヤの声が聞こえてくる。
「悪い、手間取った」
「トーヤ、それは・・・・・・・・・」
トーヤの背後に浮いているヘルは、氷漬けになった須川を咥えていた。きっと僕らが知らない間にさっきの時間停止みたいな能力を使っていたのだろうか。ヘルはトーヤを守るように四つん這いになると、上空に鎮座して居るヘルをにらみつけた。
「ヘル!!思いっきりぶちかませ!!」
「コァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「きゃっ!?」
「うわぁっ!?」
ヘルは吹雪を思わせる咆哮を上げながら、須川ごと氷のブレスをエリスに浴びせかけた。爆風に煽られそうになる程の衝撃波と共に吐き出され、すごい勢いでエリスの翼に衝突する。調度そこは、俊也のマーズが炎を浴びせていたところだ。
『ううっ・・・・・・・・・・!!』
エリスの翼は高温に晒された後急激に冷却され、バキバキバキッとひび割れるような音を上げながら焦げたように黒く変色し、ボコボコに変形していた。急に熱せられたものを冷やすと壊れる現象だ。
「ジアース!!」
「任せて!!」
ジアースは階段状に岩石を浮かび上がらせて、その上をウサムービットが駆け抜けていく。そしてムーンをハンマー形態に変化させ、大きく振りかぶった。
「どりゃぁああああああああああ!!」
『きゃぁあああああああああああああああ!!』
ウサムービットはボコボコに変形した翼を思いっきり打ち据え、粉々に砕いた。攻撃手段も防衛手段も失ったエリスは悲鳴を上げた。
「待ってなさい!!次はあんたを・・・・・・・あれ?」
だけど、ウサムービットはハンマーをもう一度振り上げてカプセルを殴りつけようとしたとき、バランスを崩して落ちてしまった。とっさにジアースで受け止めるけど、そのジアースも膝をついた。
「うう、力がでない・・・・・・・」
「悪い、俺も動けねぇ」
いくらムーンの力で回復できたとしても、戦いの中で溜まった疲労感は戻らない。消耗していた僕らは、これ以上動くことが出来なかった。
「ヴィーナス!!」
唯一余力があった華はヴィーナスにキューブを撃ち出させて、上空のエリスを狙い撃つ。だけど、それが届く前にかき消える。
「だめです。ここからでは遠すぎて・・・・・・・」
『ふふふ、いくら私を追い詰められたとしても、あなた方に限界が訪れてはどうしようもありませんね』
エリスは不敵に、だけどどこか安堵したよう僕らを笑う。
「いいや、ここまで奴を追い詰めたのなら、後はやれる」
「トーヤ・・・・・・その姿は・・・・・・・・・」
僕らの前に出たトーヤは氷の鎧を纏っていた。鋭角的な氷の鎧にはヘルを思わせるように翼が生えていた。
カプセルの中のエリスは、目に見えて狼狽していた。
『え、うそ、ま、待ってください!!』
「待たない」
トーヤは翼をはためかせると、一瞬でエリスの元までたどり着いた。そのままエリスが治まっているカプセルに手を着いて、その表面をパキパキパキ・・・・と凍てつかせていく。
「今回は俺らだけじゃ無く、アイツらも巻き込んだ。この罪に対して罰を受けてもらう」
『そんな、止めて、リョウタさ—————————』
エリスが言い終わる前にカプセルが氷に鎖され、言葉が遮られる。
「本当ならさっさと終わらせるべきだったんだろうが、今回は異世界のガキが居るからな。いくら戦闘慣れしているとは言え、コイツは少々堪える」
そして、一度カプセルから離れると、きりもみ回転しながら再びカプセルに突っ込む。
「死ね」
カプセルに思いっきり強烈な蹴りを食らわせ、バキィン!!とカプセルにヒビが入った。その中の淡く緑色の液体が、一瞬で紅に染まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます