第9話 偽りの女神

「エリス?あの女のことを知っているのか?」


「知っているも何も、あのクソ女神が俺たちの世界に“転生者”共を際限なく寄越して来やがるんだ!!」


 トーヤは俊也の質問に答えながら剣を抜いた。


「そうか・・・・・・・だったら、あのエリスって女神をなんとかしなければならないんだね?行こう、ジアース!!」


 僕も剣を抜いて、ジアースを呼び出す。俊也も華もウサムービットも、皆ヌースを呼び出していた。


『止めてください。私はただこの子がどんな英雄譚ライトノベルを見せてくれるのか知りたいだけなのです。彼の邪魔をしないでください!!』


『絵里は俺の妹だ!!手出しはさせねぇ!!』


「くっ・・・・・・・・・・・」


 次の瞬間、フルフェイスの漆黒のパワードスーツを着た須川は赤い残光を残しながらトーヤに斬りかかった。トーヤはかろうじて防いでいるが、明らかにトーヤよりも速い。あんな速度で動けるのだろうか。


『よそ見はいけませんよ』


「「きゃぁああああああああ!?」」


「ガッ・・・・・・・・・・!?」


 僕らが須川に気を取られている間にも、エリスは機械の鳥頭から緑色のエネルギー弾を撃ってきた。それはぎゅんぎゅん曲がってきて、僕らに向かって襲いかかってくる。何とかそれぞれのヌースで防いでいるものの、そもそもヌースは僕らの精神の具現。彼らが受けたダメージは僕らにも返ってくる。直撃しないだけましという感じだ。


「マーズ!!竜炎球ドラゴンフレア!!」


 マーズは腕から火球を機械の鳥に向かって撃ち出した。狙うはその胴体部分にあるカプセル、その中で上下逆さで浮いているエリスだ。


「サンダーピット!!」


「元気になーれ!!」


 ヴィーナスも六つのピットをエリスに向かって飛ばして、ムーンもハンマーを掲げて辺りに緑色の光の粒子をまき散らして回復させてくれる。


『うふふふ、そんなに慌てない、慌てない』


 だけど、僕らの攻撃は巨大な機械の翼に阻まれた。


「やっぱり、近づいて攻撃するしか———————うぐっ!?」


 そう言ってジアースをエリスに向かわせようとしたとき、急に脇腹に激痛が走った。


『させねぇよ!!絵里は俺が守る!!』


「カルマ!!」


 トーヤと戦っていたはずの須川が、いつの間にかこっちに来ていた。あまりの痛さに、僕はその場に倒れ込んでしまった。


「このクソ野郎が!!逃げるんじゃねぇ!!」


 トーヤがキレている声が聞こえる。けど、あの彼を振り切ってこっちにまで来るなんて、なんて速さなんだ。


『いいですよリョウタ様。そのまま皆さんを足止めして居てください』


「させません!!」


 華が何かを警戒してか、ヴィーナスのキューブをエリスに向けて放つ。だけど、それもエリスが機械の翼を羽ばたかせ、撃ち出した大量のエネルギー弾にかき消される。そればかりか、逃げ場が無いほどの弾幕に晒された。


「元気になーれ!!元気になーれ!!元気に・・・・・・」


「畜生!!これじゃらちが明かねぇ!!」


 ウサムービットは息を切らしながら唱え続けているけど、回復したそばから傷を負っていく。俊也は既に彼女の治癒能力を超えたダメージを受けて、立てなくなりつつある。


「どうすればいい、どうすれば・・・・・・・・」


 全身血まみれのトーヤが憎々しげにエリスをにらみつけていた。するとその時、彼の目の前に青い本が現われた。僕らが見てきたものとはちょっと違っていて、ページになっている紙を紐で束ねた感じのものだった。


『闇を以て闇を制する。その栞は、その闇の先を照らし切り開く道しるべの蛍雪の欠片。今一度 氷獄の彼方へと羽ばたくがいい!!』


「成る程、・・・・・・・・・良いだろう、やってやるよ!!」


 そう言って、トーヤは目の前に浮いていた本の紐をほどいて、ページをばらした。きっと彼は僕らの様に、ヌースを呼び出すつもりだ。だけど僕らのと原理が違うのか、そのやり方は僕らとは少し違うみたいだ。


「“先に騙したのは誰だサキニダマシタノハダレダ我らを騙ったのは誰だワレラヲカタッタノハダレダ!!”」


 何やら呪文のようなものを唱えているトーヤの周りを、ばらされた紙がぐるぐると回っている。


『させるか!!』


 須川はすかさずトーヤに斬りかかろうとするけど、彼の周囲に漂うオーラが寄せ付けない。


「“我ら神を信ずるもワレラカミヲシンズルモ神は我らを欺瞞せしカミハワレラヲギマンセシ!!されば墜ちて愚者を食みサレバオチテ グシャヲハミ狼煙が上がるその日を待つノロシガアガル ソノヒヲマツ!!”」


 やがて、トーヤの周囲を舞っていた紙は彼の背後に収束していき、まるで繭のような丸い物体になる。ただ一つ残されたのは、僕らにヌースの力を授けたあの栞だ。


“神々の世に黄昏をカミガミノヨニ タソガレヲ人々の世に暁をヒトビトノヨニ アカツキヲ!!”」


 そして、トーヤは左手でその栞をぐしゃっと握りつぶすように鷲づかみにした。同時に彼の左手の甲に雪の結晶の様な紋章が浮かび上がる。たしかあれは——————「絶氷の龍紋」だ。






「冥界に立て、ヘル!!」


「コァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 トーヤの背後の繭がはじけ、中から二足歩行で立ち上がった氷の龍が姿を現した。

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