第8話 「殺す」者の狩り

「あの、トーヤさん」


「何だ」


「須川さんがやってきたってどうしてわかったのですか?」


 トーヤに着いていきながら華が質問していた。


「ああ。“生命探知”というテクニックだ」


「“生命探知”?」


「厳密に言えば“スキル”として広まっているものだが、俺の場合は“スキル”が使えないから俺はそれを模倣しているだけだ。って言ってもそういうのを遮断する“スキル”を受け付けないから、索敵には便利ではあるけどな」


「ええと・・・・・・・“スキル”?」


「そういうのがあるんだよ」


 トーヤの言って居ることはよくわからない。「スキル」とかってゲームの中に出てくる奴だよね?そんなのがあるなんて・・・・・・ひょっとしてトーヤはゲームの世界の人物なのだろうか?


 そんなことを考えていたら、また大きく広がった部屋に出た。今度は展望台みたいな感じでは無く、ホールのように広い場所だった。僕らが入ってきたところの反対側の壁にカプセルみたいなものが埋まっていて、それを包み込むように巨大な鳥の形をした機械が守っている。そのカプセルの中には上下逆さまになった全裸の女の子が目を瞑って浮かんでいる。金色の髪の毛が腰まで伸びていて、おっぱいを隠している。なんだろう・・・・・見ているとドギマギしてくる。


 そしてその前に、須川がいた。


「お前ら・・・・・・・何しにここに来た!?絵里に、何をする気だ!!」


「ちょっと待って!!僕らはその子に———————」


 振り向いた須川に説明しようとしたとき、トーヤが一歩前に出た。


「逆にこっちが聞きたい。お前にとって、ここは何の場所だ。その絵里という娘は何者だ」


「成る程な。お前も絵里が目的か・・・・・・・・そうはさせねぇ!!」


 須川は叫ぶと、幾何学的な魔法陣を浮かび上がらせながら、片手剣と拳銃を手に取って、そして背中にロボットアニメに出てきそうなブースターを背中に背負った。そして彼の両脇に、戦闘機に搭載されるようなミサイルポッドが出てきた。そのまま須川は僕らの方に向かってエネルギー弾のミサイルを飛ばしてきた。あの時、僕らを襲った光の矢は、これだったんだ!


「ちょっ・・・・・・・何やってんの?!トーヤ!!」


「お前達は穏便に済ませたいんだろうが、俺としてはさっさとコイツを捕えたい。今までの経験上、こう言う相手は素直に従ってくれることは無い。だから、死なない程度に痛めつけて弱らせる。————————それに」


 トーヤがそう語っている間にも、ミサイルは僕らに降り注いでくる。そのミサイルを・・・・・トーヤが片っ端からたたき落とした。ズガガガガガッ!!と中空で次々に爆散していく。


「残念ながら、散々人殺ししてきた奴と話し合いで解決するなんて頭は俺には無い。そしてこれからも、そう言う頭は持つつもりも無い」


 そう言うと、トーヤは一瞬で須川の懐に潜り込んだ。本当に一瞬だ。マテラスと戦っていたときと同じか、それよりも速い。


「くそっ!!」


 須川は片手剣を振るって応戦するけど、既にトーヤは須川の背後に回り込んでいた。


「させるかよ!!」


 須川はすぐさま回り込まれたのを察知すると、ブースターで一気に加速してその場を離れる。そのままトーヤを正面に捕えながら引き金を引く・・・・・・・が、トーヤはその前にあっさりと追いついて、拳銃を蹴り上げてしまう。


「ハンドガンが!!」


「学習しないな」


 二度も拳銃を取り上げられた須川は、背中のブースターを使って部屋の上空へ逃げた。しかしトーヤはその場で跳び上がると、何とパァン!!と空中を蹴って加速し、須川に追いついた!!


「逃げるな」


「ッ・・・・・・・・・!!」


 あまりに常識外れな方法で空を飛ぶトーヤに、流石に須川も驚いていた。その後もやっぱり連続して虚空を蹴って、まるで飛んでいる鳥を捕まえようとする猫みたいに須川に食らいついている。マテラスの時も思ったけど、やっぱりトーヤは戦い慣れている、なんて次元じゃ無い動きをしている。魔法か何かでブーストして居るんだろうけど、あまりにも動きがアクロバティック過ぎる。


「さっさと死ね」


「へぶっ!?」


 トーヤは冷徹な瞳で須川を見下ろしながら、思いっきり脳天にかかと落としを喰らわせた。そして地面に落ちていく須川に向かって急降下し———————胸の真ん中に剣を突き刺した。


「ガッ———————」


「お、おい!!何やってんだ!!」


「と、トーヤさん!?」


 僕らは急いで須川とトーヤの元に駆けていった。まさか殺すなんて思わなかった。なんてことをしてくれたんだ。


「そいつを殺したら、話が聞けないぞ!!それにどうしてこうなったのか、こいつ自身が知っていることも————————」


「その点は問題ない。俺の読みが合っていれば、コイツはこの程度では死なない」


 そう言いながら、トーヤは須川を刺した長剣を引き抜いた。すると須川の体が輝いて、近未来的な服装からTシャツにジーンズというラフな格好に変わった。いや、戻ったと言う方が正しいかもしれない。


「痛ェ・・・・・・・って、元の姿に戻っている?!それに、何だオマエらは!?」


「トーヤ、これは一体・・・・・・」


 一体どういうことか解らない。僕は思わずトーヤの顔を見上げた。


「部屋にあったノートに書かれていた事からピンと来た。恐らくこの世界————と言うよりもコイツを中心とした変異がそのゲームを元にしている可能性がある。だとすれば、コイツの格好が作っていたアバターそのものかもしれないと思ったんだ。だとすれば、コイツ自身に致命傷を与えることは出来ないと思ってな」


「だからって、何の確証も無しに・・・・・」


「元来、俺たちはそういう分の悪い賭けに出るやり方をとり続けている。コイツら“転生者”の持つ力は全くの未知数だからな。どれだけ下準備をしようと、結局その範疇を超えていやがる。だから、最終的に物を言うのは度胸なんだ・・・・・・・・・教えろ。お前はこの場所で何をしようとした?」


 トーヤは凍るような眼差しで須川を見下ろしていた。


「答える筋合いなんか無い!!俺はただ————————」


「“社畜としての生活から解放されたのに”か?」


「!?」


「トーヤさん、もしかして須川さんの考えていることを—————」


「ううん、を言い当てているのよ!!」


 一見するとトーヤの言葉はつながっていないように聞こえる。だけど、ウサムービットの言うとおりだ。須川はまるで自分が言おうとしていた言葉を言い当てられたように言葉に詰まった。いや、言い当てるなんてものじゃない。。相手の言葉の先読みでさえそう簡単にできないのに、を読むなんて・・・・・・正直すごいなんてレベルじゃ無い。


 一体、どんな鍛え方をしているんだろう。僕は純粋にそう思ってしまった。


「一つ言わせてもらうが、社畜時代、お前はその生活から抜け出すために何をしようとしていた?」


「え、SNFOに潜って————————」


「俺はどうやって気を紛らわせていたか聞いていない!!テメェが務めているブラック企業から抜け出すために、何をしたかって聞いているんだ!!」


 トーヤは床に座り込んだ須川の胸ぐらをつかんで、怒鳴りつけた。


「いいか!!!!テメェはただ誰かが勝手に自分を囚われの城から連れ出されて、何の対価も求められずにのうのうとヒモ暮らしをしたがっているだけだ!!テメェは、なんでこの世界に、あの絵里って女に執着する!!」


「決まってんだろ!!あいつを救うためだ!!あいつを助けるために、俺はバイラス共を————」


 そこまで言って、須川は何か呆けたような表情をした。









「——————————?」









 つぶやいた直後、須川は自分の手を見つめてブルブル震えだした。


「絵里?いや、俺の妹だったはずだ。こっちの世界に来た時に一緒に来て・・・・・・でも、あれ?俺は今までに・・・・・・・・・・」


「おかしいと思ったんだ。お前の付けていた日記、そこに書いてある“絵里”って女の名前が、この世界に移るまで感じで不自然だった。お前にとって、絵里って何者だ?」


「絵里は———————」


 そこまで口にしていたとき、須川が突然バクン、と何者かに喰われた。鳥だ。鳥の頭の形をした機械が、須川を丸呑みにしたんだ。


『もう、せっかくあなたの好きな“SNFO”の世界を再現した場所に連れてきてあげましたのに・・・・・・いいえ、再現するための場所が正しいですね』


 機械の鳥頭は、あのカプセルを守るように覆っていた機械から伸びていた。いつの間にか翼が大きく開かれていて、ゴゴゴゴ・・・・・・と鳴動しながら形状を変えていた。具体的に言うと、壁から伸びたアームに持ち上げられながら上空に移動していき、僕らを見下ろすように向きを変えていく。


 そのカプセルの中の女の子が目を開けた。


『大丈夫です、リョウタ様。あなたはただ、この世界を満喫すれば良いのです。あなたが歩く度、世界は広がり、あなたの色に染まります。ですから——————少しだけ力を貸してください』


 女の人の声が響き渡ると嘴が開いて、ガチャン、と真っ黒な金属の塊が落ちてきた。それはサイバースーツを着た人間で、あちこちに血のように赤いのラインが走っている。ギシギシと関節を軋ませながら、それは立ち上がった。


『ああ、そうだ。俺は絵里を助けに来たんだ』


 のっぺりとした丸いヘッドギアに、あの部屋で見たVRゴーグルを身につけたような姿をした須川は、今までのように武器を取り出した。だけど今まで水色だったエネルギーの色が、サイバースーツに走るラインと同じ色をしていた。


 あのヘッドギアの向こうは、どんな表情をしているんだろう。怖い。


『絵里は俺の大事な妹だ!!あいつを助ける邪魔はさせない!!』









「エリ、スガワ・・・・・・・・・


 トーヤが愕然とした表情で、部屋の上空に鎮座する巨大な機械の鳥を見上げながらつぶやいた。

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