第7話 取り残された日常の風景
僕らがいたところが切り離され、しばらくの間上昇し続けた後、ガコォン、という振動と共に止まった。
「随分高いところに来ましたね・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
辺りを見回すと大気と宇宙との境界が見える。多分成層圏とかいうぐらいの高さだろうか。こんな高さにあるせいか、俊也は辛そうにしている。
「流石にこの高さは通信できないか・・・・・仕方が無い。俺たちだけで探索を進めるしか無いな」
トーヤは通信端末をポケットの中にしまって、天井から降りてきたリフトをにらみつけた。ここから上に行けって言うことなんだろう。
リフトは僕らが乗ると勝手に上に向かっていき、展望台よりも更に上の空間に僕らを導いた。その先では嘘のような静寂に満ちていた。やっぱり所々に青いラインが走っていて近未来的な雰囲気を醸し出している。けど、なんだか殺風景な印象も受ける。
僕らはバイラス達が襲ってこないか注意深く警戒しながら、この謎の建造物の内部を探索していた。
「なんだ?この部屋」
「ここだけ何か毛色が違いますね・・・・・・・」
「何だ、これ・・・・・・・・・・・」
色々な部屋を見て回ったけど、この部屋だけ唯一無機質な空間じゃ無かった。まさに現代風の部屋で、木製の勉強机、パソコン、ベッド、サッカーボール・・・・・・あまりにも普通な部屋だったんだ。
「机の上に何かあるよ」
「B5のノートだ。VRゴーグルもあるぞ」
「VRゴーグル・・・・・・存在は聞いたことだけあるぞ」
トーヤはまだ見たことがないのか、興味津々な様子でVRゴーグルを観察していた。ご丁寧にも、手袋を嵌めてから手に取っている。けど、僕らが気になるのはB5のノートの方だ。
「これは・・・・・・・見た限り須川の奴のノートみたいだな」
「何でしょう・・・・・・・・」
その書いてある内容に僕らは目を通してみる。
あの金髪の女。あいつはなぜか他のバイラスを使役する能力を持つようだった。だけどあいつ自身も妙に強い。あんなの、「SNFO」の戦闘モーションに無かったぞ。あんなイレギュラー、初めてだ。
結局、戦闘エリアも「中世」と「現代」の二箇所しか解放できていなかった。他にもっと何か条件があるんだろうか。兎に角、まだまだバイラスの討伐数が足りない。
「待っていろよ、絵里」
「・・・・・・・・・“SNFO”?」
「“絵里”って名前も気になりますね」
そうだ。この近未来的な空間は、「
けど、なんでそんな話が出てくるのだろうか?
「“SNFO”・・・・・・・俺も見たことがあるな。言われてみれば、須川の奴の格好もああいうモジュールがあったはずだ」
「ということは、このえすえぬえふおー?の世界が再現されているってことでいいんですね?」
「そうとしか考えられないな・・・・・・・・・そして気になるのが、“絵里”って奴だ」
僕らは次の——————正確には書かれたものより前のページをめくった。
やっと半分を突破した。「スターゲイザー」はやっぱり便利だ。一定範囲内を自動で攻撃してくれる。クールタイムは長いけど、一遍に仕掛けるにはちょうど良い。だけど、妙な奴らに出くわした。「俊敏性」が高いのか、俺の攻撃が躱された。今度は俺自身の「俊敏性」と「命中力」が上がる装備を持って行くか。
絵里がとらわれてしまった。
「絵里を救い出したければ、バイラスを10,000体討伐し“天空砦”への扉を開き、見事攻略すること」だとよ。ふざけやがって・・・・・・いいさ。やってやるよ!!絶対に俺が取り返してやる!!
「成る程。これが奴の目的か」
「絵里・・・・・・あいつのお姉さんか妹さんかな?」
須川はお姉さんか妹さんを取り返すために、バイラス達を倒し続けてきたわけだ。どういう経緯でこうなったのかは解らないけど、とにかくこれで須川の狙いがはっきりした。
「てことは、その絵里って子を救い出せば良いのね!!」
ウサムービットは意気揚々としている。だけど、トーヤは難しい顔をしている。
「待て、続きがある」
「続き?」
トーヤがめくったページを、僕らはのぞき込んだ。
だんだんこっちの生活にも慣れてきた。これもこのモジュールのおかげかもしれない。正直いい年してこんな格好をするのもアレだったが、このモジュール自体は結構気に入っていた奴だ。そういうRPだと思えば、悪くないと思う。
「RP?これは何の略語なのかしら?」
「
次のページをめくった。
転生後初日、よくわからないが、俺はSNFOの世界に来てしまったみたいだ。あの機械的な動植物やバイラス、間違いなくそうだ。これからまともに生活できるのだろうか、心配になってくる。でも、大丈夫だ。俺の隣には絵里が居る。
次のページ。
今日も残業だ。いい加減疲れた。最近SNFOにも入れていないし、入る気力も無い。仕事して、帰って、飯食って、風呂入って、寝て、その繰り返しだ。俺の人生って、一体何なんだろうな。
このページに入って、明らかに雰囲気が変わった。今まで見てきた文章に比べて、明らかに気力が無さそうだ。
「もしかして、須川って奴・・・・・・・・・」
「お察しの通り、れっきとした社会人だな」
俊也の言葉を、トーヤは肯定した。
「ここに書いてあることを見る限り、大方どこぞの企業に勤めては居るものの日常的にルーチンを繰り返し続けていい加減飽きていたってところだろうな———————幸せな事だ」
トーヤの最後の意味深な言葉もそうだけど、ここに書いてあることを読んで、ふと思った。
僕は今、高校生だ。ついこの間新学期を迎えて、GWを過ごしていたところだ。だけど、自分の将来の事なんて、考えた事も無かった。
僕は、どうなりたいんだろう。
僕は、どうありたいんだろう。
そんな事を考えているうちに、トーヤが急に明後日の方向を向いた。
「もう少しここを調査したいが・・・・・・・どうやら俺たちが道草を食っている間に王子様がお見えになっているようだ」
「王子様?」
「きっと須川の野郎のことだろうな」
そう言っている間にトーヤは部屋を出てずんずんと進んでいく。この人試合の時も思ったけど、状況判断が滅茶苦茶速い。もう少し落ち着いて考えた方が良いような気はするけど・・・・
「ちょっと、待ちなさい!!」
僕らは急かされるように部屋を後にした。
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