第6話 機械竜
やけに近未来的な魔王城の中は、やっぱり無機質な空間が広がっていた。大小様々な金属板のつなぎ目を青いラインが走っていて、やっぱり須川の服装やバイラス達のデザインと似通っている。
そんな魔王城の中では、トーヤの率いる部下達が先行していて、中にうじゃうじゃ居るバイラス達を次々と破壊していた。主に甲冑を纏った騎士のような人たちが前に出て積極的に攻撃し、その後ろからマフラーを巻いたスーツの人たちが魔法や武術で援護している。
「彼らに負けていられない!僕らもやろう!」
「ああ」
短く俊也がうなずくと、僕と一緒に「ヌース」を発動させる。けど、僕らの前にトーヤが手を伸ばして制止してきた。
「オマエらは戦うな。これから先、どんな奴が出てくるか解らん。オマエらの能力で無ければ対処できない相手が出てきたときに、消耗されていたら敵わん」
「そ、そうか・・・・・・・・そういうことも考えないといけないのか」
流石は戦闘のプロ。よく考えているなぁ。そう思っていたら、銀髪で眼鏡の、白衣のサイズが合っていない男性が話しかけてきた。
「やあ。今のが謎の能力“ヌース”だね?トーヤ君から聞いているよ。随分変わった能力だね」
「え?あ、はい」
「もし良かったらさ、少し能力を使ってみてくれないかい?今後の研究に使わせてほしいんだ。出来ればどんなメカニズムで能力が発現しているのか見てみたい。是非ともよろしく頼むよ」
「おい、俺たちのことを疑っているのか?」
「まさかぁ。後学のためだよ。もしメカニズムが解明されればボクらでも同じようなことが出来るかもしれないし、似たような能力者が出てきたときに対処できるかもしれないし、何よりも————————」
「おい、それはこの事件が解決してからで良いだろう?今その話をする必要は無い」
「ええー」
トーヤにたしなめられ、銀髪の男性はつまらなさそうに唇をとがらせていていた。
「悪かったな。コイツはネロ。うちの研究班の中でも特に頭の切れる奴だ・・・・・が、デリカシーと倫理観に欠けている奴なんで、気にしないでくれ」
はろー、と掌を振るネロ。確かに、なんか遠慮無くズケズケ物を言ってくる感じはデリカシーに欠けているかもしれない。やっぱり、研究者って変わった人が多いのかな。
なんて考えていたら、背後でギャリン!!と言う音がした。驚いて振り返ってみると、バイラスの一体が襲いかかろうとしていた。だけど間一髪、その背後から誰かがその機械の体を貫いていた。
「おい、ガキ共。気ィ抜いてんじゃねぇぞ」
「わわ、ご、ごめんなさい!」
華が慌てて謝ると、その誰かはスッとどこかに消えた。比喩じゃ無くて、本当に虚空に消えたんだ。
「全く・・・・・・シュヴァルツ。相手は異世界人とはいえ、一応協力者だ。あまり荒い言葉を使うなよ」
トーヤはそう言いながら、背後から飛びかかってくるバイラスを切り伏せている。
それにしても、彼らの文明の高さには驚かされてばかりだ。研究者っぽい人たちはあんな厄介そうな城門の鍵を解除しちゃうし、甲冑を着た人たちは重火器を持ってバイラス達を次々に破壊している。戦国時代で使っていたような奴(火縄銃のこと)ならまだしも、まさか異世界でガトリングが出てくるとは思わなかった。
そんな事を考えているうちに、一際広い場所に出た。ホールのような空間が広がっていて、窓ガラスが取り払われた展望台みたいな感じだ。足を滑らせないように気をつけないと・・・・・・
なんて考えていたら、その外をゴォオオオッ!!と何かが飛んでいった。
「随分大仰なお出ましだな」
そしてすごい勢いで地面を滑りながら、巨大なドラゴンが僕らがいる広間に飛び込んで来た。
「な、なんですか・・・・・これは・・・・・」
「華!!あたしたち、こいつと戦ったことあるわ!!」
「正確には、こいつにそっくりな奴だけどな」
現われたのは、以前この世界で戦った事がある骸骨竜を、機械にしたような感じだ。骨に当たる部分は金属で出来ていて、肋骨に覆われるように中心部に青く光るコアがある。それ以外にも鉄板と鉄板のつなぎ目や眼窩の奥からは青い光が見える。
「トーヤ隊長、下からバイラス共が大量に!!このままではこの部屋にたどり着きます!!」
「俺と異世界人はこいつの処理に当たる!!オマエらはバイラス共を食い止めろ!!」
「ハッ!!」
僕らを守ってくれていた兵達達は下の階に戻っていった。僕らは機械竜を相手することにした。
「俺が奴の気を引く。援護しろ」
「わかった。ジアース!!」
僕は自分のヌースを呼び出した。額から目に掛けて熱く燃え上がるような感触がする。俊也もマーズを呼び出していて、万全の体勢だ。
「あのおっさんはこうしていたはず・・・・・・
俊也が叫ぶと炎の柱が次々に上がり、機械竜へ向かっていく。
「くらいなさい!!サンダーピット!!」
華が右手を機械竜へ向けると、ヴィーナスが六つのピットを撃ち出していた。しかしそれを機械竜は軽く前脚を振るうだけで弾いた。鉤爪が薙いだ部分に、須川が振るっていた剣のような残光が光る。
「流石にそううまくはいきませんね」
「だったら、こいつはどう?」
ウサムービットはムーンをハンマーに変身させて、機械竜に向かって突撃していた。僕はジアースの力を使って岩石を生み出し、彼女をらせん階段で導く。
「りゃーりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
元気よく叫びながら、ウサムービットは岩石のらせん階段を上っていく。だけど、そこで機械竜が大きく頭を振り回し、岩石ごとウサムービットを打ち上げた。
吹き飛ばされたウサムービットにマーズは大剣をぶん投げて、時計の針でできたチェーンの様なもので絡め取って引き寄せた。
「きゃぁああ!!」
「余計な手間をかかせんな、ウサ公!!」
そう言ってウサムービットを受け止めたマーズは彼女を下ろし、そのまま俊也に従いながら機械竜に向かっていく。
するとそこに、機械竜が青いビーム状のブレスを吐いてきた。キィイイイイイ・・・・・・・と言う甲高い音と共に、俊也の方へ向かっていく。
「俊也!!」
「ぐああっ!!」
とっさに僕は彼の周囲に岩石を生み出して、即席の防御壁を作り出した。何とかビーム本体の直撃は避けられたけど、岩が爆発した勢いで俊也は吹き飛ばされる。
「サンダーピット!!」
機械竜が僕らに気を取られている隙を突いて、華が先ほどと同じように六つのピットを機械竜に飛ばしていた。今度はさっきよりもかなり機械竜に近づいている。これなら当たるんじゃ無いかな。
なんて考えていたら、機械竜はバサリと翼を広げて飛び始めた。
「ああっ!?」
あの位置なら絶対に当たっていたピットが外れて、華が悔しそうに叫んだ。機械竜はそのまま口の中に青い光を迸らせて、辺りにビームをまき散らしていた。
「くそっ!!これじゃ近づけねぇ!!」
「あの感じだと、華の攻撃でも届かないわ!!」
俊也とウサムービットが困ったように叫んだ。骸骨竜の時は飛ばなかったから対処が出来たけど、今回は自由に飛ぶ相手だ。あんな風に機敏に動かれてちゃ華の攻撃も避けられてしまう。
だけどその時、悲鳴を上げて機械竜が落ちてきた。肋骨のようなパーツに囲まれた心臓部に、トーヤが剣を突き刺していた。
「い、いつの間にあんなところに!!」
「良いからさっさと攻撃しろ!!俺じゃこいつに致命傷は与えられん!!」
「わ、わかった!!」
トーヤに促されるように、僕らは一斉にヌースの力を解放して機械竜のコアに攻撃を仕掛けた。剣を振るい、鎚を振るい、ビットを飛ばし・・・・・バキン、とコアが割れた。機械竜は電源が切れたように動きが止まり、青い光も消えてしまった。
「大丈夫か?」
「問題ない。こんなぱっと見ただけで弱点がわかるような相手に後れを取る訳にはいかないからな。・・・・・・・・・それにしても」
と、トーヤは顎に手を当てて考える。
「須川の奴は何故ここを目指すんだ?」
「確かにそうね。見た感じ、須川にしか関係なさそうな建物だし・・・・・」
「ここには元々、魔王城があったはずだ。過去に神を名乗るクソ女が織田って奴をたぶらかして————————」
「それはもう過ぎたことだろう?織田って奴と関わりがあるなら、奴に関わる点もあるはずだ」
「それはそうだったな」
結局、機械竜を倒してもまだ須川の目的が見えない。ここから先はどうすれば良いのか、なんて思っていた時、ゴゴン、と展望台が大きく揺れたと思ったら、徐々に僕らの居る場所がエレベーターの様に上に向かって動き始めた。
「なっ・・・・・・・・」
「そんな!!まだ下に人が居ますのに!!」
僕らが来た道を引き返そうとすると、いつの間にか出入り口が閉じていた。そもそも戻れたとしても、果たして帰り道は存在するのだろうか。
『隊長!!大丈夫でしょうか?!こちらシュヴァルツ、隊長が今いると思しき場所が—————』
華の手にしていた通信端末から声が聞こえていたけど、途中で切れてしまった。
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