Tale28:頭が高いので引きずりおろします

 光球で制御された鳥かごからまろび出て、そのまま駆ける。

 ところどころにある岩山の隆起を利用して、ホワイトドラゴンの視線から身を隠し距離を取りつつ走った。


 落としたローゼン・ソード、拾っておきたいな。


 私の動きを阻害するように、光線が散発的に飛翔してくるけれど。

 狙いが定まらないのか、周囲の岩を削り空間を抉るが、走り続ける私に大きなダメージを与えるには至らない。


「ぬぅ、よく動きおる……ちょこちょことちょこざいのじゃ、うっとうしい羽虫が!」


 遠くで、高台の上に立つホワイトドラゴンの周縁に、大量の光球が生じたのが見てとれた。

 同時に、私は岩山の地面に刺さっていたローゼン・ソードのもとにたどり着き、間髪入れずにそれを引き抜く。


 距離がある方が、光線による攻撃は回避が難しくなる。

 球から線への変化が見えづらいので、着弾位置の予測ができなくなるのだ。


「魔力解放――ローズネット・クイーン」


 だから、距離を詰める。


 剣から湧き上がった、禍々しい棘が目立つ五本の薔薇の蔓。

 それぞれが、一周、二周と身体に巻きついていく。


「……なにをしておるのじゃ?」


 自身に攻撃が及んでくると身構えていたのだろうか、ホワイトドラゴンは拍子抜けしたように声を漏らした。

 その姿に似合わぬ可愛らしい声音には、多分に嘲笑が含まれている。


「これからが面白いのよ、おとなしく待ってなさい」


「ぬ? ふははっ、口が減らぬ羽虫め、ぶんぶんと喚きおる」


 ローゼン・ソードを差し向けつつ、告げる。

 すると、警戒する様子も見せずに、やはり嘲笑うのだった。

 ふん、どっちが慌てて飛び回る羽虫かどうか、見せてあげるんだから。


 身体にぎちりと巻きつけた薔薇たちの先を、ホワイトドラゴンに向かって走らせる。

 しかし、狙いはあいつ本体ではなく、それが立っている高台だ。


 五本の蔓は途中にいくつもの薔薇の花を咲かせながら、高速で高台に達する。

 そして、びしびしと音を立ててその側面に突き刺さり、そこから内部にまで根を張っていく。


「どこを狙っておるのじゃ?」


 不思議そうに、頭をもたげるホワイトドラゴン。

 だが、おそらく「羽虫のすることなど恐るるに足らん」とでも思ったのだろう。

 足もとの薔薇は気にせずに、光球による波状攻撃を開始する。


 こちらに向かってくる、数多の光線。

 

 それが私の身体を蹂躙する寸前。

 私は、踏みしめていた地を蹴り、前方に飛び出した。


 高台に根を張った薔薇によって、身体が力強く引き寄せられ。

 すれ違う光線、そして周囲の風景は一瞬で、後方に追いやられる。


「ぬっ!?」


 足を前に投げ出すような姿勢で、私は高台の中腹辺りに衝突した。

 上半身で突っ込んでいたら、あまりの勢いにぶつかった瞬間にデスしていたかもしれないからだ。

 案の定、両脚から腰までが跡形もなく、はじけ飛んだ。


 それを代償に。

 ぼこっとちょっとした小山を形成していた高台は、内部から爆発するように大きく砕け散った。

 遅れて響く轟音が、その衝撃の凄まじさを物語る。


「くっ、めちゃくちゃしおるのじゃ……」


 大小さまざまな岩石の破片が雨のように降り注ぐ。

 その中で、足場を失ったホワイトドラゴンは空高く浮かび上がっていた。

 翼をはためかせているようには見えないけど、なにか魔力でも使っているのかな、それともゲームとしての仕様?


「ぬ? どこに消えおったのじゃ?」


 きょろきょろと首を振って、私の姿を探すホワイトドラゴン。


 その頭上はるか彼方。

 気配も感じられないだろう高度に、私は跳び上がっていた。

 高台を爆散させた後、気づかれないように岩の雨に紛れて、そしてそれらと薔薇の蔓を足場にして移動したのだ。

 もちろん、ダメージを負っていた身体はすでに修復されている。


 さて、一度どうでもいいことを考えたから、思考はリセットできていた。

 そのクリアな状態から、深く、精神を集中していく。


 大丈夫、まだこちらに気づいていない。

 綺麗に振り下ろせば、斬れる。


 ホワイトドラゴンに向かって落下しながら、ローゼン・ソードをゆっくりと上段に構えた。

 スライムになっているから呼吸自体に意味はないが、軽く吸って、そして吐く途中で息を止める。


 よし、いける――そう、思った瞬間。


 直下のホワイトドラゴンを見据える視線の端に、ひとつの光球が浮かんでいることに気づいた。

 

 いつの間に? いや、問題はない。

 この近さであれば、光線になったときにどこに飛んでくるのか見分けられる。


 光線を躱して、そこから――。


 次の瞬間、視界の端の光球が、爆発するように


 私の思考は、光球が急激に膨張したことによって、打ち切らざるを得なかった。

 線形への変化だけではなく、球形を保ったまま拡大させて攻撃することも可能なのか。

 しかも、光の速度はそのままに。


 しかし、不意を突かれた形であるため、異なる攻撃方法へのよい対処を思いつくことはできず。

 そもそも空中にいたので、線ではなく面が迫ってきたら避けられるはずもない。


「ぅぐっ!?」


 可能な限り身体を丸めて、光球からの攻撃を受ける箇所を減らす。

 私にできたことは、それぐらいだった。


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【名前】リリア

【レベル】29

【ジョブ】テイマー

【使用武器】スライム:習熟度8

 【名前】スラリア

 【使用武器】ローゼン・ソード:習熟度5


【ステータス】

物理攻撃:105 物理防御:55 

魔力:85 敏捷:40 幸運:50

【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢

知恵の泉、魅了、同調、不器用、統率、灯火

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