Tale27:囚われた籠の鳥は、自由な空を望むでしょう
初手は、スキルを重ねる。
スライム強化、そして統率。
統率のステータス増加は、自身を対象にして使用することはできない。
しかし、同調しているスラリアは“自身”という判定にならないようで、そこに統率を使用することはできるのだ。
身体強化が効いている証に、私の身体は淡い光に包まれる。
「目障りじゃぁ、さっさとその剣を置いて――」
高台の上のホワイトドラゴンと、それを見上げる私。
その間の空中に、ぱっと光の球がいくつも現れた。
ぱっと見で十数個は浮かんでいる光球は、二者の間に輪を描くように並ぶ。
ひとつひとつの大きさは、こぶし大ぐらいだろうか。
「――羽虫らしく散れぃっ!」
「っ!」
瞬間、光球のうちのひとつがまばゆく輝き、そこから一条の光線が走る。
到達点は、私の右脚。
回避しなければ――そう思ったときには、すでに足もとの地面もろとも右脚がはじけ飛んでいた。
続けて、他の光球がぱぱぱっと連なって点滅する。
スライムの性質によって、破壊された右脚は即座に修復されて。
その右脚で地面を蹴り、真横に跳んだ。
私がいた空間を幾本の光線がなぶり、背後で岩山の地表を
「むっ? ああ、なるほど……スライム使いのテイマーか、厄介な羽虫もいたものじゃな」
苦々しそうにホワイトドラゴンがつぶやく、その間にも。
体勢の整っていない私の中心を射抜くように、光線が飛んでくる。
「くっ!」
避けきれずに、私の肩は光線に貫かれる。
もともとの威力が桁違いなのだろう、貫かれた肩だけではなく、そこに繋がる胸や腕なんかもまとめて吹き飛んだ。
その腕とともに、握っていたローゼン・ソードが弧を描いて宙を舞い、少し離れた岩肌に突き刺さる。
いや、危なかったな。
頭を反らしていなかったら、そこも巻き込まれていたかもしれなかった。
「ふん、まあ手加減はしやすいからのぉ、ちょうどよかったのじゃ」
魔力が削られていくのを感じながら、胸、肩、腕と修復。
間髪入れずに眼前に飛んできた光線を、バック転して回避。
ちょっとだけ、速さに慣れてきたかな。
ホワイトドラゴンの攻撃は光線ではあるが、現実の光の速度に比べれば格段に遅い気がする。
まあ、光速なんて持ち出したら誰も避けられないから当たり前だけど。
バック転から頭を上げると、いつの間にか、数え切れないほどの光球が私の周囲をドーム状に覆っていた。
戦闘前に言っていたとおり、ローゼン・ソードを手放させたからもう私に用はないのだろう。
周囲の光球の数からは、完全にトドメを刺すのじゃという意志を感じる。
それにしても、光球たちの浮かぶ位置とその中心に立つ私は、絶妙に嫌な距離感だ。
この包囲を抜け出すためには、どの方向に向かったとしても五歩以上は必要となる。
光線を避けながらとなると、脱出はほぼ不可能であるだろう。
「生意気な羽虫じゃったが、これでしまいじゃ」
光球のすき間から、高台の上でこちらを見下ろすホワイトドラゴンの姿が確認できる。
戦闘の始まりまで抱いていたであろう怒りは、その声音からは感じ取れない。
それはそれで困るな、冷静さを欠いていてくれた方が都合が良いのだけれど。
「冥土の土産にスキルを見せてやるからの、おとなしくしておれ――ホーリー・ケージドバード」
ホワイトドラゴンの言葉と同時に、ちょうどそちらの方向の光球のひとつが点滅。
瞬時に光線となって、私を貫かんと飛んでくる。
その軌道から身体をずらして、避ける。
次、ちょうど背後となる方向。
死角となる
スライムの性質を宿している状態なので、いまの私は“目で見る”という視認情報を用いていない。
そのため、どの方向からの攻撃も視覚しているものとして対処ができるのだ。
「ぬ? なんじゃ、当てずっぽうで動いておるのか?」
私に聞いているのかはわからないが、不思議そうなホワイトドラゴン。
返事をしている余裕があるわけではない、黙ってなさい。
こうして避けられているのは、全方向を視認できることに加えて、光球をよく見ているからだ。
光球は、強く光ったあとに線形に変化してから、こちらに向かって放たれる。
そのほんの一瞬だけ補足できる線の向きを見て、どこを狙っているのか予測していた。
だから、一瞬たりとも気が抜けない。
一発ずつの連動していた攻撃が、二発ずつ、三発ずつと増えていく。
当たらない攻撃に、焦りはじめてくれているのだろうか。
ホワイトドラゴンの様子まで観察していられないから、願望の域を出ることはないのだが。
四方から同時に放たれる光線。
その場に低く伏せて、潜りこむように避ける。
伏せた私を追うように、さらに四本の光線が飛びかかった。
「っ!」
転がるように横に避けると、私が伏せていたところの地面でぶつかった光線が爆ぜる。
岩山の地表が大きく削られて、少しの砂埃とともに砕けた岩石が辺りに飛び散った。
ここだ!
身体を叩く岩石を気にせず、私は体勢を低くしたまま駆け出した。
砂埃に紛れて反応が遅れたのか、数瞬だけ光線の雨が止む。
あと数歩で、外だ。
ふいに、向かう先に浮かんでいる光球がぱぱぱっと光の線となり、私に突き刺さる。
最小限、下半身に当たる光線だけを避けつつ、歩みは止めない。
やがて、光球の群れのすき間を縫うように、私は鳥かごの外に飛び出すことが叶うのだった。
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