Tale22:ちゃんとサイズを測らないとダメですよ?
「――というわけで、攻撃に特化した装備を作ってほしいの」
説明が終わると、キャロちゃんは思案するような表情を浮かべてくれていた。
ただ、小動物のような可愛らしい印象も関係しているかもしれないが、ちょっと不安そうにも見える。
「……確かに、クリエイターのスキルで作成する装備は、任意のステータスを重視した設定にすることができます」
ゆっくりと、自らに確認するように喋るキャロちゃん。
「でも、作成した装備の性能は作り手のレベルによるところが大きいです。いまの私のレベルは26ですが、どれだけ上手く作れたとしてもレベル50のクリエイターが作ったものには勝てません」
なるほど、そういう不安か。
私はまったく気にしないのだけれど、事実であるだろうからこそ厄介だ。
他人の私がどのように言ったとしても、これを払拭するのは難しそうだな。
「だから?」
とりあえず、強めの口調でキャロちゃんに詰め寄る。
案の定、急に強く当たられて戸惑うキャロちゃん。
「ぁっ、いや、もっとレベルの高い方に頼むのが、いいんじゃないかって……」
「うーむ、アキラちゃんはどう思う?」
心配そうに様子を窺っていたアキラちゃんに話を振る。
びっくりしたことによるのか、背筋がぴんと伸ばされるアキラちゃん。
「えっ、私ですか?」
「うん、キャロちゃんは良い装備を作る自信がないみたいだから、他の人に頼んだ方がいいかな?」
ちょっとだけ嫌みたらしく聞こえるような言い回しで問いかける。
それを感じ取ったのだろう、アキラちゃんは眉をひそめて言い返してきた。
なんか演技くさくなっていた気もするが、大好きなキャロちゃんを侮られて冷静ではいられなかったみたいね。
「そんなこと……キャロは、すごく絵が上手いです。どこから描き始めているんだろうと不思議に思っているうちに、あっという間に目の前の光景が完成しているし……それに、絵だけじゃなくて色づかいのセンスも抜群で、着ていた服がお洒落すぎて隣を歩くのが恥ずかしかったぐらいです!」
「ちょっと、アキラ……」
食ってかかってくるアキラちゃんは、キャロちゃんに腕をくいくいと引かれていることに気づいていない。
あと、話しぶりから考えると、おそらく“隣を歩くのが恥ずかしかった”というエピソードはゲームの中の話じゃなくて現実での出来事だと思われる。
いいなぁ、私も現実で二人と遊びたいな。
「性能は劣るかもしれないけど、キャロよりも良い装備を作れるクリエイターはいません! もしキャロ以外の人に頼んだら、きっとリリア様は後悔しますからね!」
ちょっと矛盾しているが、言いたいことは伝わる。
ふむ、そこまで啖呵を切られたら、私も他に頼む気なんてなくなっちゃうよ?
そんな風に私がにやにやしていると、キャロちゃんがアキラちゃんに飛びかかって口を押さえる。
どうやら、恥ずかしさの限界を迎えたようだ。
「もうっ、アキラ、恥ずかしいから黙って!」
なおももごもごと喋ろうとするアキラちゃんに怒鳴るキャロちゃん。
強気な態度とお人形さんな見た目のギャップ、可愛いね。
「キャロちゃん、どうかな? お願いしてもいい?」
「ずるいですよ、リリア様……わかりました、私が作ります」
手を合わせる私に、キャロちゃんは諦めたように笑う。
しかし、なんとなくだが、その表情には嬉しいという気持ちが混ざっているような気がした。
「ありがとう、好きに作っていいからね。そうだ、なにか必要なものがあったら言って、素材とかリラとか」
素材は言わずもがな。
家を買うときに大きく使ってからは節約するようにしていたので、リラもけっこう残っている。
「そうですね、その辺りはどんな装備にするのか考えさせてもらってからでもいいですか?」
「うん、もちろん」
私が頷く前に、もうキャロちゃんは考えはじめているようだった。
その真剣な表情は、アキラちゃんでなくともドキッとさせられてしまうもので。
このあとの反撃への対処が、遅れてしまった。
「とりあえず、いまリリア様にできることは――服を脱ぐことです」
「うん……ん? なんて言った?」
基本的に人から告げられることのない言葉だったので、咀嚼に時間がかかる。
「服を脱いでください、と言いました。採寸しなければ装備を作ることはできませんし、できるだけ正確な寸法がわかっていた方が作業の効率は良くなります」
「あっ、そ、そうだよね、でも……えっと、ここで?」
キャロちゃんの発言はもっともであるので、反論の余地がなかった。
かろうじて、現在地が人の往来の激しい道ばたでありすっぽんぽんになるのに適していないことを伝えるが。
「では、リリア様のお家に行きましょう。街中でなければ、問題ないでしょう」
ぐいっと腕を組まれて、有無を言わさず引きずられていく。
後ろから、アキラちゃんとスラリアがついてくる気配がする。
強引なキャロちゃんに戸惑っているのかおっかないのか、二人とも黙ったままだ。
キャロちゃん、さっき恥ずかしい思いをさせられたことの意趣返しをするつもりなのかな。
目は笑っていないのに口元が微笑んでいるのが怖くて、ちょっと聞けそうにないけど。
「スラリアが私と同じ身体だから、そっちを測ってもらえれば……」
正しい寸法を得るという目的を考えると、別に私をまさぐらなくてもいいじゃない?
そう思って、スラリアに助けを求める。
この子はスライムだから、すっぽんで恥ずかしいという感情を持ち合わせていないのだ。
「スラリアちゃん?」
「ぷにゅっ」
しかし、キャロちゃんの一言によって。
私のパートナーであるスラリアは、ぷにゅぷにゅのスライムの状態に戻った。
蜘蛛の糸は、エゴによって切れてしまう。
それにしたって、こんな仕打ちはあんまりなのではないか……?
「スラリアぁぁあーっ!」
裏切りの慟哭をあげる私を、道行くプレイヤーたちは物珍しそうに振り返るのだった。
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