リリア様は可愛い女の子と繋がりたい
『リリア様、ブックマークはご存じですか?』
テイルズ・オンラインにログインした私に、サポートNPCのリリアが聞いてきた。
その膝枕で、
「ブックマーク?」
どこかの小説投稿サイトでは、ブックマークという人気の指標を獲得するために血眼になったり血反吐を吐いたりするらしいけど。
おそらく、リリアが言っているブックマークとは関係ないだろう。
『はい、テイルズ・オンラインにおけるSNSのようなものです』
ふーん、SNSなんだ。
それって、掲示板とは違うのかな?
私のお尻画像――スパッツは穿いていたけど――を拡散するなど、不埒な悪行三昧を
でも、リリアは、掲示板のことは掲示板って呼称していたから違うか。
こっちの世界からプレイヤーが掲示板を利用することはできないもんね。
『リリア様、ステータス画面で名前のところをタップしていただいてもよろしいですか?』
言われたとおりに、ステータスの黒い画面を開いて名前を触る。
すると、ブゥンと画面が切り替わり、スマホの写真フォルダみたいなサムネイル表示が映った。
「へえ、なにこれ……なんか、プロフィールみたいな?」
それぞれの写真には、人の顔が写されている。
その中のひとつをタップすると、また画面が切り替わった。
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【名前】ヤマムラ
【メッセージ】
闘技大会でリリア様の可憐な快進撃を見て、
僕のハートは撃ち抜かれました!
相互していただけると嬉しいです!
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ぅわ、なんだこいつ。
まあ、リリアが可憐だというところは同意する。
しかし、ラブレターだとするとお粗末だな。
『ふふっ、リリア様は人気者ですね』
ヤマムラからのちょっときもちわるいメッセージを読んでいると、リリアがおかしそうに笑いながら言った。
『リリア様は現在9,316名のプレーヤーにブックマークされています』
「きゅうせんさんびゃく……? やだ、なんか怖いね」
いま『テイルズ・オンライン』を遊んでいるプレイヤーは、およそ10万人だ。
今度の再販が行われれば、もう10万人増えるらしいけど。
いまはほとんど10分の1のプレイヤーが、私をブックマークしているということ?
『まあ、単独ブックマークには、なんの機能もないのでご安心ください』
そう言って、スラリアの頭を撫でていた手を持ち上げるリリア。
なにやら空中で手を動かしているけど、なにかを操作しているのかな。
『例えば、この方――アキラ様も、リリア様をブックマークしております』
目の前の画面が、ヤマムラからアキラに移り変わる。
ヤマムラが覇気のなさそうな青年だったのに対して、アキラちゃんは気が強そうな女の子だ。
「あっ、この娘知ってる。ボーイッシュちゃんだよ」
セッチさんのお店を手伝っていると、よく来てくれる背の高い娘。
おかっぱちゃん――私よりちょっと背の低い、可愛らしい女の子――といつもいっしょで微笑ましいから記憶に残っている。
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【名前】アキラ
【メッセージ】
闘技大会の凜々しいリリア様を見て、
ますます大好きになりました!
もしよろしければ相互してください!
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なに、この娘、めちゃくちゃ嬉しいこと言ってくれるじゃない。
私も大好きだよ、お店来てくれるし。
『どうです? アキラ様と、相互ブックマークしてみませんか?』
「うん、相互する」
よくわからないが、とりあえずアキラちゃんが可愛いので頷いた。
まあ、言葉の意味を考えると、お互いにブックマークするっていう意味だと思うけど。
『では、アキラ様の名前をタップしてください』
プレイヤー:アキラをブックマークに追加しますか、と画面に表示されたので、ノータイムでイエスと答える。
すると、新しく別ウインドウの画面が現れた。
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【名前】アキラ
【レベル】18
【ジョブ】ナイト
【使用武器】ハイミスリル・ソード:習熟度3
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『これで、リリア様とアキラ様は相互ブックマークされました。その画面の通り、お互いの情報の一部を共有するようになります』
なるほど、ステータスとスキルまでは載っていなくて見ることができない。
しかし、レベルや使用武器の習熟度などは見た目で得られる情報ではない。
そのため、気軽に誰とでも相互ブックマークするのは危険なのだろう。
『そして、相互ブックマークの主要機能のひとつが、相互先へのピンポイント転移です』
「おー、それは便利だね」
テイルズ・オンラインには多数の街が存在しており、さらに、それぞれの街もかなり広大だ。
ちゃんと待ち合わせ場所を決めたりしないと、簡単に出会うことはできないだろう。
ピンポイントで転移できるのであれば、いっしょに遊びたいときにちょうどいい。
『さっそく、転移許可のメッセージを送ってみましょうか』
「えっ、いきなり? なんか緊張するかも」
リリアの友だち付き合いって、かなりアグレッシブなのかしら?
私だったら、もし“こっちに来ないで”なんて返事だったら悲しいから躊躇っちゃうのだけれど。
まあ、ボーイッシュちゃん改めアキラちゃんと遊べるという魅力が勝った。
アキラちゃんのステータス画面を操作して、メッセージを送信する。
『許可された場合、自動的にアキラ様の近くに転移されます』
自分の膝で眠るスラリアを優しく揺らしながら、リリアは教えてくれる。
なかなか起きないスラリアに対して、徐々に揺らし幅が大きくなっていく。
「うにゅ……?」
スラリアが寝起きのとぼけた声を上げた瞬間。
真っ白な空間の床が消失したかのように、ふわっと浮遊感を感じた。
どうやら、さっそくアキラちゃんが転移を許可してくれたみたいだ。
『リリア様、お気をつけて。いってらっしゃい』
私の視界が、ぱっと切り替わる中で。
リリアの凛とした見送りの声は、私の耳に心地よく残っていた。
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