Epilogue

莉亜と莉央の新たな物語を紡ぎましょう

「けっきょく、どこまで勝ち上がったの?」


 弟の莉央りおが逆立ちをしたまま、私に聞いてくる。

 筋トレするんだったら、自分の部屋ですればいいのに。

 普段は高いところに物がない私の部屋だからこそ、こいつの足が天井近くにあるのは違和感だ。


「たぶん、七回戦までは進めたんだったかな。マジシャンがグレードアップしたウィザード? っていうのが相手で」


「あぁ、姉ちゃん、魔法相手は弱いもんね」


 そうなのだ、莉央の言うとおり、スラリアと同調した私は魔法に弱かった。

 いちおう魔法耐性の付与された装備を着てはいたが、あくまでも中級装備だ。


「範囲魔法が避けられなくて、かなりダメージを受けちゃってね」


 相手のウィザードちゃんはかなり可愛い顔をしていたのに、それがよく見えないぐらいの遠距離からずーっと攻撃され続けたのだ。

 それでも、もう一歩で勝てるかもというところまでいったのに、ダメージの影響で同調のスキル効果が切れてしまった。


「でも、テイマーで七回戦までいったの姉ちゃんだけでしょ? すごいと思うよ」


 まあ、自分でも頑張ったなぁという達成感はある。

 リリアが教えてくれたのだが、レベル差が10以上ある対戦の組み合わせで勝ったのは、全ての会場の試合をひっくるめても私だけらしい。


「莉央も、試験上手くいったんでしょ? お疲れ様」


 そう努力を労うと、莉央は驚いたようにこちらを見た。

 なによ、私だって褒めるときは褒めるんだけど?

 というか、急に顔をぐりんと動かしても逆立ちのバランスがまったく崩れないのが、ひじょうに気持ち悪い。


「いや、学年順位ぎりぎり二桁だったから、もっと頑張れって言われると思った」


 ひと学年400人中92位、前回の試験結果は後ろから数えた方が早かったんだから、ぜんぜん悪い結果ではないだろう。


「適当に勉強しててその順位なら怒ってるけど、そうじゃないからね」


 私の言葉に、まだ莉央は納得いっていないようだった。

 おそらく、いままでの私の試験結果と比べて考えているのだと思う。


「ところで、莉央」


 でも、その表情をしているなら、きっと大丈夫だろう。


「なにその顔、またなにか悪だくみ?」


「あなた、絶対に後でその生意気な態度を謝ることになるんだからね――そろそろ、『テイルズ』の再販があるでしょ?」


 初期と同じ10万人の当選枠があるようだが、すでに倍率は跳ね上がっているらしい。

 面白いからね、テイルズ・オンラインは。


「うん、あるのは知ってるけど……」


「当たるかわからないけど、申し込んでみたら?」


 前回、幸運にも当選したのだ。

 もしかしたら、今回も、もしかするかもしれないからね。


「それは申し込みたいけど、父さん母さんがいいって言うかわからないし……」


 床に視線を落として言いよどむ莉央。

 いや、いつまで逆立ちしているのかしら。

 いいかげん怖いのだけれど。


「今回、あなたは試験よく頑張ってたから、お父さんとお母さんを説得して許してもらった」


「えっ?」


「もし『テイルズ』が当たったら、ゲームの中で私が勉強教えるって条件付きでね」


 テイルズ・オンラインの世界では、現実よりも早く時が進む。

 その増えた時間を勉強に利用して、残りでゲームを遊べばいいのだ。


 莉央は、嬉しいと嫌がるの中間、なんとも不思議な表情を浮かべた。

 ゲームができるのは前者だけど、同じだけ勉強しなきゃいけないのは後者って感じかな。

 楽しいことだけをやっていたら、大事な場面でなにも選べなくなっちゃうんだからね!


「でも、『テイルズ』を買えるような金、持ってないよ……?」


「莉央、勉強のためにバイト減らしてたもんね」


 逆立ちしながら、器用に頷く。

 やっぱりなんか怖かったから、足を持って引きずり倒した。


 怪訝な表情を浮かべて、莉央は私を見上げる。


「ふふん、あなたのお姉ちゃんが、なんのためにバイトしていたと思ってるの?」


 テイルズ・オンラインの代金、10万とんで8,800円。

 大学デビューは、お預けだ。

 なまじっかリリアみたいな美少女になってしまったから、現実でおしゃれをするハードルが上がってしまったし。


「……マジで言ってる?」


 私が頷くと、莉央は感極まったのか、すごく強く抱きついてきた。

 いや、筋トレ中だったから、莉央の身体めちゃくちゃ熱いし!

 テイルズの世界ならまだしも、現実の私は、か弱い小動物みたいな存在なんだから!


 お姉ちゃんは、もっと優しく抱きしめなさいっ!

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