Tale7:お高くとまっているわけではないのよ
オージちゃんから受けた『娘の勉強を見てください』と『急募、従業員求む!』の依頼。
あまり遅くなるのはよくないだろうから、まずはミリナちゃんに勉強を教えに行こう。
冒険者ギルドを出て、郊外に向かうために街を歩く私と腕の中のスラリア。
ちなみに、女神リリアな見た目のことだが、意外と問題はなかった。
「あの……」
「はい?」
城門に差し掛かったところで、女の子に話しかけられる。
そちらを向くと、背が高めでボーイッシュな子と、その後ろに隠れるようにしているおかっぱ頭の可愛らしい子がいた。
「握手してもらっても、いいですか……?」
おずおずと、ボーイッシュちゃんが伺ってくる。
最初に声をかけてきたのは、こっちの子みたいだ。
気が強そうな見た目のわりに腰が低いのがいいね、可愛い。
「はい、いいですよ」
私は快く、差し出されていた手を握った。
ゲームの世界だけれど、手の温もりを確かに感じる。
ちなみに、この所作に躊躇いや恥じらいなどはまったくなかった。
「えっ? あっ、ありがとうございます! あの……応援していましゅっ、ぁっ……!」
自分から申し出てきたのに、驚き慌てて言葉を噛んで顔を赤くしている。
なんだ、この可愛い生き物は。
目の前の微笑ましい光景を堪能している間に、ボーイッシュちゃんは満足したのか、私から手を離した。
そして、後ろにいたおかっぱちゃんを前に押し出す。
おかっぱちゃんは俯きがちで、両手を胸の前でぎゅっと組んでいた。
恥ずかしがり屋さんなのかな。
「ほら、自分で言いなよ」
ボーイッシュちゃんに小声で促されると、おかっぱちゃんは意を決したようにきっと顔を上げた。
「あの! ぷにぷにっ、させてもらっても……いいですか……?」
だんだんと声がフェードアウトしていたが、言いたいことは伝わっていた。
なるほど、こっちのパターンね。
「スラリア、いい?」
「ぷにゅっぷにゅぅ」
胸に抱えるスラリアに確認すると、元気に揺れることで答えた。
おかっぱちゃんに一歩近づいて、スラリアをぷにりやすくしてあげる。
「どうぞ?」
「ぷにゅん?」
私とスラリアが声をかけると、おかっぱちゃんはおそるおそるスラリアに手を伸ばした。
「っ! うわぁ……すごい、ぷにゅぷにゅだぁ……!」
興奮した口調と裏腹に、優しい手つきでぷにぷにる。
「ふふっ、もっと強くしても平気ですよ」
おかっぱちゃんにお手本を見せるように、私はスラリアをうにょうにょと揉んだ。
嬉しそうにかそれともくすぐったそうにか、スラリアは身体を揺らす。
「わっ、私も、いいですか?」
ボーイッシュちゃんが、おかっぱちゃんの後ろから聞いてきた。
私が頷くと、ボーイッシュちゃんもぷにる会に加わる。
三人の人間が一体のスライムをぷにぷにしまくる。
そんなシュールな光景が、城門のすみで繰り広げられる。
守衛のNPCから、私たちは怪訝な視線を受けていたけれど。
それに気付かないぐらいに、女の子たちはスラリアに夢中だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「スラリア、相変わらず人気者だね」
「ぷにゅにゅっ」
ボーイッシュちゃんとおかっぱちゃんと別れた後、私たちは街道を進む。
なんだかファン対応に慣れた新人アイドルみたいだったと思われるだろうが、さっきみたいなことにもう十回以上遭っているのだから、嫌でも慣れる。
『テイルズ・オンライン』のメインマスコットで、プレイヤーをサポートする女神リリアは、NPCの中でもかなりの人気だ。
そんなリリアにそっくりなわけだから、目立つのも仕方ない。
キャラクターをエディットするときに、手抜きをした私がよくなかったのだ。
しかし、人々の好奇の眼差しを、スラリアが緩和してくれた。
テイマーでスライムを使っているプレイヤーはそうそういないようで、ぷにれるスライムは貴重らしい。
敵として出てくるスライムは、ぷにらせてくれないものね。
だから、女神リリアにそっくりなプレイヤーと、そいつが連れているスライム。
その両者に関心が集まったことで、独りではないという気楽さが私の中に生まれた。
つまり、慣れてしまえば意外と問題はなかった、ということだ。
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【名前】リリア
【レベル】9
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度4
【ステータス】
物理攻撃:20 物理防御:40
魔力:35 敏捷:10 幸運:25
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉
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