Tale8:あざとい女の子は嫌いですか?

 ミリナちゃんとの勉強依頼。

 それは、ミリナちゃんが良い子で可愛すぎること以外は滞りなく終了。

 いや、会うたびにどんどん懐いていってくれるから、持ち帰りたい欲を抑えるのが大変なんだよね。


 そして、私たちはもう一つの依頼『急募、従業員求む!』のために、セッチさんという方のお店に向かった。

 冒険者ギルドから北の城門に向かう大通りを、スラリアを抱えたまま歩く。

 プレイヤー以外のNPCは、特に用事がなければプレイヤーに話しかけてくることはない。

 私とスラリアは人混みの流れに逆らわないように、とことこぷにぷに進んでいく。


「スラリア、どんなお店なんだろうね?」


「ぷにゅにゅ」


「うん……? ああ、ソフトクリーム屋さんか。スラリア、あれ好きだったものね」


 危ない危ない。

 スラリアが変形して表現したシルエットを見て、一瞬勘違いしそうになった。

 女の子としての危機だ、ソフトクリームに決まっているじゃないか。


 スラリアが言っているのは、以前に依頼で手伝ったお店のことだ。

 看板スライムになってくれたお礼として、スラリアはお店のソフトクリームをたくさんもらっていた。


「ぷにゅにゅにゅっ」


「……次はケーキ? あなた、甘いものばっかりね」


「ぷにゅぷにゅ」


 スラリアは、私より女子力が高いのかもしれない。

 どちらかと言えば、私は甘いものは苦手で辛いものが好きだ。


「あら、可愛いスライムね」


「ぷにゅ?」


 ふいに、横から声をかけられた。

 視線をやると、コックさんの格好の綺麗な女の人が微笑んでいた。


「あれ? お姉さんって、確か……」


 この街に初めて来たとき、冒険者ギルドを案内してくれた、せっかちさん。


「うふふ、私が依頼主のセッチよ。今日はよろしくねっ、駆け出し冒険者さんたち」


 そう言って、セッチさんは私の鼻先とスラリアのぷに先を、細い指でちょんと弾いた。

 不覚にも、大人の魅力にどきりとさせられてしまった。

 くそぅ、私も欲しい! こういう大人の武器!



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あのぅ、ちょっと短すぎじゃないですか……?」


 依頼内容は、セッチさんがコックをつとめるお店のウェイトレスで。

 着なさいと言われた給仕服は、シックな色合いのエプロンドレスに赤いスカーフがワンポイントに映える――私が初めて着るような可愛らしい、いや、可愛すぎるものだった。


 まあ、可愛いのは、まだいい。

 せっかくゲームの世界で別人のようになっているのだから、いろいろな経験をしてみるのも一興だ。

 しかし、エプロンドレスの裾が学校の制服スカートの半分もないのは、いかがなものか。

 ちょっと動くだけで、下に穿いている黒いスパッツが見えちゃうんだけど。


「なに言ってるのっ、それが可愛いんじゃないの! ほらっ、お客さん待ってるから、早く行って行って」


 うぅ……相変わらず、せっかちなお姉さんだ。

 大人の魅力は欲しいけれど、えっちなのは望むところではないよ。


 まあ、ゲームの仕様によってスパッツが脱げなかったから、白い下着に履き替えさせられなかっただけマシだと思うことにしよう。

 なんか“スパッツが覗くのは邪道”なんだって、よくわからないけど。


 私がお店のホールに出ると、そこには十卓ぐらいの木製のテーブルが並んでいて、すでに全てにお客さんが座っていた。

 一斉に私に集まる視線、そして沸き上がる歓声。


「ひゃっ! えっ、なに……?」


 思わずビクッとして、その場で呆然とする。

 セッチさんは、私が手伝いに来てくれたからお店を始めることができたと言っていた。

 だから開店直後なのだけれど……このお店って、こんなに人気店なの?


「きゃーっ! リリア様ぁ! 金髪美少女メイド、キタコレ!」


 一際黄色い歓声が聞こえて目をやると、さっき会ったボーイッシュちゃんだった。

 同じテーブルには、おかっぱちゃんも座っている。


 裾が跳ねないように静かに歩いて、私は彼女たちのテーブルに向かった。


「……もしかして、私に会いに来ましたか?」


 聞いてみると、目を皿のようにして私を見ていたボーイッシュちゃんは、怯えたように俯いてしまった。

 そうか、裾の短さを気にしすぎていたことで怒っているような顔に見えたのかも。


「あっ、違います……いや、違うのよ。別に怒っているわけじゃないわ」


 俯くボーイッシュちゃんの頭をぽんぽん撫でて、安心させようとする。

 おそるおそる顔を上げてくれたボーイッシュちゃんは、捨て猫のような目で私を見上げた。


「ちょっと戸惑っちゃっただけなの。どうしてお客さんがいっぱいなのかなって」


 私が苦笑いすると、ボーイッシュちゃんとおかっぱちゃんは安心したように息をいた。


「あの、私たち、お店の外にスラリアちゃんがいるのが見えて……」


 ボーイッシュちゃんではなく、おかっぱちゃんが説明してくれる。

 外の方に顔を向けると、お店のガラス窓越しにスラリアがぷにぷにしているのが見えた。

 なるほど、客寄せスライムになった、ということか。

 あの可愛さだったら、お客さんが集まるのも納得ね。


「それで、店主の方に聞いたら、リリア様がこれからメイドになるって教えてくれて……」


 なるほど、客寄せ女神になった、ということか。

 この可愛さだったら、お客さんが沸き上がるのも納得ね。


「お友達も呼んでねって言われたから……ごめんなさい、私が掲示板に書き込みました」


「いやっ、書き込んだのは私でっ」


 おかっぱちゃんの言葉に、黙っていたボーイッシュちゃんが反応した。

 もちろんこの子たちは悪くないのだけれど、ネチケットの欠如がネット社会で問題になる理由がわかる事例だ。


「ふふっ、本当に私はびっくりしただけで、気にしていないから」


 声をかけると、お互いを庇い合っていた二人は顔を見合わせる。

 一度依頼を受けたのだから、セッチさんのお店の力になれるのは嬉しいことだ。


「ほら、みんな待ってるよ。あなたたち、なに頼むの?」


 二人は慌てて、私が渡したメニュー表を眺める。

 ちょっとして、ボーイッシュちゃんが顔を上げた。


「あの、なにがおすすめでしょうか……?」


 確かに、ここは軽食屋さんらしいので、かなりメニューが豊富だ。

 このお店になにも知らずに入ったら、私も迷って定員さんに聞くだろう。


「うーん……知ーらないっ!」


 私は考えるフリをしてから、こう笑顔で告げた。

 ちょっとした意地悪でもあるけど。

 だって、なにも知らないんだもん。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【名前】リリア

【レベル】9

【ジョブ】テイマー

【使用武器】スライム:習熟度4


【ステータス】

物理攻撃:20 物理防御:40 

魔力:35 敏捷:10 幸運:25

【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢

知恵の泉、魅了

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る