Tale6:初心者とは名乗れなくなってきました
女神リリアのなりきりプレイヤーと周知されて羞恥してから、二週間ほどが経過していた。
現実世界のカレンダーの上でね。
本格的に寒くなってきて、外に出るのにマフラーが欠かせない。
もともとちんちくりんなのが、さらにもこもこすることで中学生感が増すのだ。
もう少しで大学生のはずなのにっ、現実はひじょうに非情だよ!
しかし、テイルズ・オンラインの世界では過ごしやすい気候が続いている。
なんでもこの世界に季節とかはなく、地域によって気候が変わるらしい。
だから、南国のリゾートみたいな地域はずっと太陽が降り注ぎからっと気持ちよく、雪の降る地域はいつも真っ白な分厚い絨毯が敷かれているのだ。
まだ私は最初に訪れた街から遠くに出かけたことはないけど、いつか行ってみたいと思う。
「オージちゃん、こんにちはー」
「ぷにゅにゅにゅー」
現実で二週間だから、こっちでは一か月ぐらいかな?
まあ、常にログインしているわけじゃないから、厳密には違うかもしれないけど。
冒険者ギルドのオージちゃんとも、ずいぶん仲良くなれたものだ。
「だから、オージちゃんと呼ぶなと何度言えばわかる」
「えへへ、ごめんなさい」
「ぷにんぷにゅ」
いつものように、オージちゃんは大きくため息を吐いてから依頼を紹介する。
「マイルのところから、リリアをご指名の依頼が来ているが、どうする?」
「おー、行きます!」
マイルさんは、ミリナちゃんのお父さんだ。
ミリナちゃんが気に入ってくれて、ときどき私を指名した依頼を送ってくれる。
この形式の依頼は冒険者の懐に入るリラがちょっと多くなるから、その面でも嬉しい。
ちなみに、いまの所持金は20,000リラぐらいかな。
わりと現実に即した金銭感覚を持ち込んでちょうどいいくらいだから、この所持金だったら、きっと上下セットの装備を買えるだろう。
ふわ白シャツと黒ショーパンの初期装備を、そろそろ新しいものにしていいかもしれない。
「あとは、いつも通りに初級から選ぶか?」
「はいっ、お願いします!」
「ぷにゅにゅ!」
とりあえず、一通りに初級の依頼をこなしていくことにしているのだ。
やっぱり魔物退治系の依頼が多いけれど、ミリナちゃんとの勉強みたいな依頼もある。
どっちも楽しいから、オージちゃんが紹介してくれる依頼をひたすら受けているという状況だ。
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【名前】リリア
【レベル】9
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度4
【ステータス】
物理攻撃:20 物理防御:40
魔力:35 敏捷:10 幸運:25
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉
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こんな感じで、レベルも9になっていた。
敏捷のステータスは、リリアに相談して知恵の泉があるから大丈夫というお墨付きを得てから上げた。
確かに、知恵の泉の効果である思考速度の上昇があるおかげで、身体が速く動いてもぎりぎり平気だった。
ただ、本当にぎりぎり……ステータスの最大値で身体を動かそうとすると、かなり難しい。
だから、しばらく敏捷は上げない方がいいかな。
スライム強化の効果も上昇したので、スラリアも活躍を続けている。
「じゃあ、セッチの店が従業員が足りなくて困っているみたいだ。その手伝いはどうだ?」
「オッケーでーす」
「ぷっぷにゅーにゅ」
セッチさんという人は知らないけど、お店の手伝い系の依頼は何回かやったから、たぶん大丈夫だろう。
私が笑顔で返したのに、オージちゃんは仏頂面をさらに不満側に寄せる。
ふふっ、しかし、私にはわかっている。
この態度が、可愛い孫娘に素直になれない堅物おじいちゃんのような照れ隠しであることに。
「……なにがおかしい」
私を睨みつけながら、オージちゃんは依頼が羅列された紙を指で突く。
そのまま紙を弾くように指を動かすと、黒い文字列が宙を飛んで私の冒険者ライセンスに収まった。
最初はびっくりしたけど、もう慣れたものだ。
「ううんっ、別にぃ」
「ぷにゅにゅー」
「……それなら、さっさと行きな」
私たちを追い払うように、オージちゃんはしっしっと手を振る。
元気よく手を振り返すと、ちょっと嬉しそうにしたのがわかった。
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