勝利を紡ぐのは心通わせる者です

 小狼は唸り声を漏らしながら、スラリアに噛みつく力を増していく。

 スラリアが半透明の青色ぷにボディだから、小狼の牙の食い込み具合がよくわかるのだ。


「ちょっと、離しなさいよっ!」


 突然の襲撃によるショックから我に返り、私は小狼を蹴っ飛ばそうとした。

 しかし、小狼はスラリアに噛みついたまま、上手く身体をひねって私の蹴りを躱す。


「っ! すばしっこいな、もうっ……!」


 この間にも、スラリアがぷにぃと潰されていっているのに。

 すでにスキルの効果も切れているのだろうか。

 ふっくら大福だったスラリアの見た目がでろんちょ大福になっちゃって――思いついた、試してみよう。


「スラリア、膨らんでっ!」


「ぷにゅっ!」


 私の呼びかけに応じて、スラリアは、ぶよんと身体を膨張させた。


「ガルァ!?」


 急に顎を大きく開かせられた小狼。

 その動きに堪えきれなかったのか、スラリアから口を離す。


 そして、グルグルグゥと唸りつつ頭をぶんぶんと振っている隙に。


「よくも私のパートナーをっ!」


 今度こそ、私は小狼のどてっ腹に蹴りをぶち込んだ。

 可哀想かもと一瞬だけ頭をよぎったが、スラリアを傷つけたのだ。

 いくら美味しそうだからって、噛みつくなんて感心しない。


 一匹目と同じように、二匹目の小狼が宙を舞って消えていく。


「ふぅ……スラリア、大丈夫?」


「ぷにゅぅ……」


 小狼の牙で空いていた穴は見当たらなかったが、なんだか元気がなさそうにダレている。


「ふふっ、なんか可愛い――ぁっ!?」


 ふいに、腰に違和感。

 痛いというより熱いという感覚が、腰から頭に伝わっていく。


「ぅくっ……!」


 腰の辺りに手をやると、もふもふの感触がした。

 それを堪能する暇も無く、力いっぱい引き剥がす。


 私たちから距離を取るように、地面を転がった銀色の小狼がこちらを睨む。

 三匹目がいたのだった。


「グルルルルゥ」


「……なるほど、私はバカかな。同じ手に何度もかかって」


 小狼を睨み返しながら、もう一度腰に手を当てる。

 意外にも、血とかは出ていないようだ。

 しかし、確実に噛みつかれていたからダメージは受けているはず。

 ゲームだから痛みも弱められているし、血も出ていないと考えるのがいいだろう。

 

「ぷにゅ……」


 つまり、私もスラリアも、満身創痍ということだ。

 次に飛びかかられたら、防ぐことができなくてやられてしまうかもしれない。


 どうしたものか、考えを巡らせようとした。

 そのとき、スラリアが淡く光り輝きはじめた。


「えっ?」


 もしかして、死んじゃう?

 いや、ダメージは受けていたけど、さっきまで大丈夫だった。

 たぶん、それは違うと思う。


「ぷにっぷにぷにゅっ!」


 光が収まると、スラリアは元気そうに何度か跳ねた。

 ダメージが回復した……?

 でも、いったいどうして?


「ガルルァッ!」


「ぷぷにっ!」


 考えている暇はなさそう。

 小狼の攻撃をスラリアが防いでくれたが、やはり素の状態では力負けしてしまうようだ。


「スラリア、頑張って!」


 スライム強化のスキルを使うと、スラリアがぷにゅっと強くなる。

 しかし、それを察したのか、小狼はバックステップでスラリアから距離を取るために跳躍した。


 まずい、スキルの効果がどのくらい続くのか、あと何度使えるのかがわからない。

 早く勝負を決めなければ。


「スラリアっ、追って!」


「ぷにっ!」


 小狼の着地に合わせて、スラリアが突っ込んでいく。

 小狼は慌てたようにスラリアに噛みつこうとするが、むだだった。

 開いた顎を粉砕するかのごとく、スラリアの体当たりが小狼を吹っ飛ばす。

 一匹目と二匹目と同じように銀色の軌跡を描きながら、三匹目の小狼は消えていった。


 スラリアを褒める前に、注意深く周囲を見渡す。

 四匹目、五匹目がいないとも限らないからね。


「ひゃっ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【レベル】が、3になりました!

【ステータス】を10ポイント付与します!


【イベントアイテム】銀狼の小牙を取得しました!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 警戒していた目の前に、唐突に黒い画面が現れた。

 これ、慣れないと驚かされてばかりになっちゃって恥ずかしいな。


 いつの間にか、私の手の中に狼の牙らしきアイテムが握られている。


「ということは……これで、終わり?」


「ぷにぷにゅにゅぅっ」


 私のもとに戻ってきたスラリアが、楽しそうに周りを跳ね回る。

 やった、勝ったんだ。

 小さいとはいっても、狼に勝てるなんて。


「スラリア、あなたは強いねー!」


「ぷにゅぷにゅ」


「そんなことない、あなたのおかげだよっ」


 スラリアを抱きかかえて、私は男の人がいた小屋に戻っていくのだった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【名前】リリア

【レベル】3

【ジョブ】テイマー

【使用武器】スライム:習熟度2


【ステータス】

物理攻撃:5 物理防御:25 

魔力:20 敏捷:5 幸運:15

【スキル】スライム強化、なつき度強化

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 ステータス画面をよく見たら、スライムの習熟度が2に上がっていた。

 スラリアの言いたいことがなんとなくわかるようになったことに、関係があるかもしれないね。

 あと、スキルが強力だとわかったので魔力に5ポイント。

 痛いのは嫌だから、物理防御に5ポイントを振ってみた。

 これからの様子を見て、物理攻撃とか敏捷も上げていこうかな。

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