女神の祝福のあらんことを

 こんこん、がちゃっ。

 小狼を倒したままのテンションで、私とスラリアは小屋の中に転がり込む。


「倒してきましたっ、まものー!」


「ぷにゅにゅー!」


 がたがたがたんっ、椅子に座っていたのだろう、男の人がそこから転げ落ちた。

 どうして驚くの、この人NPCなんじゃないの?


 急に入ってきた――ノックはしたけどね?――私たちが悪いのだけれど。

 図らずも驚かせる形になってしまったが、ちゃんと魔物は倒してきたから、許してほしいものだ。


「えっ、もう退治してくれたのですか?」


「はい、えっと、これを渡せばいいのかな……?」


「おおっ! これはまさしく、銀狼の牙!」


 男の人は、両手で牙を掲げながら叫んだ。

 ちょっと芝居がかっている動きだったので、笑いそうになってしまう。


「狂暴な銀狼を単独で、しかもこんな短時間に……貴女は、いったい……?」


「ふふっ」


 男の人の言い草を聞いて、思わず笑っちゃった。

 いや、確かに強かったけど、見た目は小型犬ぐらいの可愛い狼だったし。


「こほん、えっと、笑っちゃってごめんなさい。あと、独りではなくてこの子もいたので」


「ぷにゅっにゅ」


 腕に抱いたスラリアを見せびらかすように、左右に揺らした。

 その揺れに合わせて、スラリアがぷにぷに喋る。


「……そうでしたね。リリア様、そしてスライム様も、本当にありがとうございました」


「ぷにぷにゅっ」


 頭を下げる男の人に対して、スラリアは鷹揚に返事をする。

 その態度がなんだかおかしくて、また私は笑ってしまった。


「そうだ! もしよろしければ、これを持っていってください」


 男の人は、テーブルの上に置いてあったガラスの小瓶を三つ、私に手渡してくる。


「これは……?」


「うちの自慢のお茶は美味しいだけではなく回復作用もあって、それを瓶に詰めたものです。ちょっとした怪我でしたら、これを飲めば一瞬で治りますよ」


 おー、ゲームっぽいな。

 ん? うちの自慢のお茶に回復作用がある、ということは。


「これって、魔物にも効果がありますか?」


「ええ、もちろんです。もしスライム様が怪我をしたときは、飲ませてあげれば回復します」


 なるほど。

 小狼に噛まれたスラリアが突然に元気になったのは、このお茶を事前にあげていたからだったのか。


「ぷにゅぷにゅ?」


「いまは元気だから、いらないでしょ?」


「ぷにゅぅ……」


 しょんぼりとぷにゅるスラリアが可愛かったから、あとでひと瓶だけあげようかな。


「――ところで」


 私とスラリアのやり取りを微笑ましく見ていた男の人が、改まって言う。


「はい?」


「リリア様たちは、これからどちらに向かうおつもりですか?」


「どちら? えっと、特に決めていないのですが……」


「それでしたら、森を抜けた先にある街の冒険者ギルドを訪ねてみてはいかがでしょうか。銀狼を倒すほどの腕があれば、きっと大活躍なさるでしょう」


 あっ、ゲームの進行的な質問だったのか。

 街の冒険者ギルド? そこに向かえばいいということね。


「わかりました、街に行ってみることにします」


 私の返事に、男の人は満足そうに頷いた。

 これで、ここでのイベントは終わり、ということかな?


「また気が向きましたら、ここにお越しください」


 お茶をお出しします、と男の人は微笑む。

 NPCに対する印象として正しいかはわからないけど、気が弱いんじゃなくて優しい人だったのか、と思った。


「はい、また来ますね」


「ぷにゅぷにっ」


 私は――スラリアもそうかも?――男の人に会釈をして、小屋の扉を開けて外に出ていく。


 そして、ぎぃと扉を閉める直前に。


「貴女たちの物語に、女神リリアの祝福があらんことを――」


 静かな響きの祈りが、私の耳に微かに届くのだった。


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【名前】リリア

【レベル】3

【ジョブ】テイマー

【使用武器】スライム:習熟度2


【ステータス】

物理攻撃:5 物理防御:25 

魔力:20 敏捷:5 幸運:15

【スキル】スライム強化、なつき度強化

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