第13話 涙は流れない

隼人はいつの間にか眠っていた。

気づけば、女の子はそこにはいなかった。

夢だったんだなと思った。


「でも、マコが死んだことは夢じゃないんだよね……」


夢であって欲しいと思った。

現実は優しくはなく、誰にも冷たかった。

隼人はベッドから降りようとした。

するとその場で倒れる。

左目に違和感がある。

隼人が左手で自分の左目に手を当ててみる。

そしてそのとき初めて気づいた。


「左目見えない……」


すると部屋の扉が開く。

看護師の千春だ。


「あ、起きた?」


千春がそう言うと隼人が尋ねる。


「あの父さんと母さん、あとマコは?」


千春は、悲しい目で言った。

わかっていることだった。

千春もごまかそうと思えばごまかせる。

でも、いずれ知るのだから今の方がいい。

そう思い言った。


「亡くなったよ」


わかっていること。

知っていること。

覚悟出来たこと。


だけど涙が溢れた。


千春は、隼人の頭を優しくなでた。

隼人が落ち着くまで千春の頭を撫で続けた。


隼人は、それから暫く個室で安静にすることになった。

テレビや新聞、雑誌記者……

色んなマスメディアが病院に訪れては、隼人からの言葉を貰おうとしていた。

しかし、それは隼人の心の傷をさらに深くなることを意味している。

病院として人としてはそれは避けたかった。

なので、個室にいるように千春に言われた隼人は、妹が残したゲームの電源をつけてはその画面を眺めた。


そのゲームのタイトルは、バスケットモンスター。

通称バケモン。


妹のマコのバケモンの中には隼人があげたポケモンも入っていた。


そのバケモンを見ては、隼人の目には涙が溢れそうになった。

しかし、流れない。


「もう、涙も流れないや……」


隼人は、小さく笑った。

すると病室に医師である銘と千春が入ってきた。


「あ、銘さんと千春さん」


隼人は小さな声を上げるとふたりは、ニッコリと笑った。


「たこ焼き持ってきたよ」


千春がそう言ってたこ焼きが入ったパックを3つ持ってきた。


「……たこ焼き?」


「うん。

 たこ焼きおじさんの自慢のたこ焼きだよ」


「ふーん」


隼人が、そう言うと銘がたこ焼きのタッパを開け隼人に渡した。


「ちょっと冷めちゃったけどきっと美味しいはずよ」


銘から隼人はパックを受け取ると隼人はうなづいた。


「たこ焼きか……

 マコが大好きで、よくみんなで作っていたんだ……」


隼人の目は少し淋しげだった。

そして、ひとつつまようじで摘むと口の中に入れた。


「どう?」


千春が、尋ねると隼人はうなずく。


「美味しい」


隼人の表情が少し和らぐ。

すると若い男の声が隼人の耳に入る。


「あの……

 たこ焼きを持ってきたんですけど」


そして部屋の扉が開かれる。

大輔だった。

すると千春と銘は慌てて、大輔を病室に入れると部屋の鍵を閉めた。


「え?」


大輔は、驚き目を丸くさせる。

隼人は、初めてみる男のはずなのになぜか、安心感が生まれる。


隼人と大輔が、初めて出逢った瞬間だった。

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