第12話 見知らぬ天井

隼人が目を覚ます。

身体中が痛い。

見えるのは視界の狭い白い天井。


そして、聞こえる親戚の人たちの声。


「なんだってこんなことを……」


「それよりどうするんだ?

 この先、誰があの子を引き取る?」


「幸い借金をする前に逝ってくれたけど……

 ウチは無理よ?受験を控えている子どもが3人もいるのに……」


「ウチだって無理さ……

 狭いアパート暮らしだからな」


今まで、優しかった親戚たち。

それが、今。

自分を誰が引き取ろうかということで揉めている。

嫌われ者の隼人。

表情が薄い彼は、親戚から好かれてはいなかった。

親戚の子どもたちからも、嫌われ者の隼人と言われていた。

表情が薄いから何を考えているかわからない。

それでも両親は、自分を愛していてくれたし妹のマコは、隼人の気持ちを代弁してくれていた。

それを失った。


「あ、マコはどうなったんだろう?」


隼人が小さな声で呟く。


「でも、マコちゃんまで巻き込んで……

 見たでしょ?あの遺体……

 黒焦げだったじゃないの……

 しかも、喉をおさえていたから焼き死ぬ寸前まで生きていたらしいわよ?」


それを聞いた隼人の鼓動が早くなる。


  マコが死んだ?

  マコが黒焦げ?


隼人が叫ぼうとしたとき、自分のベッドの中で何かが動く。


「え?」


隼人は、ゆっくりと視線を下に向けると見知らぬ女の子が静かに現れる。

そして、その少女は隼人に尋ねる。


「泣くの?」


「え?誰?」


「愛」


「愛……さん?」


「うん。

 ねぇ、泣くの?」


愛が、そう言って隼人の目を見る。


「だって……」


「嫌な言葉が聞こえてくるから?」


「うん」


隼人はうなずいた。


「……じゃ、こうする」


愛は、隼人の耳を押さえた。


「え?」


「こうすれば聞こえない?」


「え?」


「うん。

 聞こえない」


言葉足らずの、呂律の周らない言葉で愛はそう言った。

隼人は、静かに涙を零す。


「あー」


愛は戸惑う。

そして、思い出す。


「ぎゅー」


愛は隼人の体を抱きしめた。

初めて両親以外に抱きしめられた。

隼人にとっては、そんな嬉しい瞬間のはずなのに悲しい。

そして、その悔しさに涙した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る