第8話 狂気
女はそのたびに悲鳴を上げる。
しかし、悲鳴をあげる元気がなくなると次の苦しみを女に与える。
ナイフを女の視界に差し出す。
「あ……」
薄れゆく意識のなか女は再び意識を取り戻す。
「どこ刺されたい?」
女は首を横にふる。
「死にたくない」
その言葉しか出ない。
男はナイフで女の胸を突く。
「胸?」
女は首を横に振る。
「お腹?」
女は首を横に振る。
「股?」
女は首を横に振る。
「足?」
女は首を横に振る。
男はため息をつく。
「あれもいや。
これもいや。
わがままだな。
じゃ、ライターで焼かれる?」
女は首を横に振る。
男は無表情で液体を女の体にかける。
「焼くよ?
油をまいたから一気に燃えるよ」
男のその表情は嬉しそうだった。
「10.9.8.7……」
男のカウントダウンがはじまる。
女には長い長いカウントダウン。
「3.2.1」
そして終わりをとげる。
「はい、ゼロ」
男はマッチをゆっくりと投げる。
マッチが地面に付く。
「あ、残念。
火をつけるの忘れてた」
女は死ぬと思った。
でも今は生きている。
「今度は火をつけるね」
「10.9.8.7……」
またカウントダウンをはじめる。
「3.2.1」
そしてゼロといった瞬間火のついたマッチが女の隣に落ちる。
でも、燃えていない。
マッチが女に当たらなかったから……
そういう行為を男は何度も何度も繰り返した。
マッチが一箱空になるまで……
女は、何も考えれなくなった。
「じゃじゃーん。
もう一箱あります!」
男は嬉しそうに言った。
「あ……」
男のカウントダウンはまだ続く。
「10.9.8.7.6.5.4.3.2.1」
男は素早くカウントダウンを数えた。
「2.3.4.5.6.7」
男はそういって数を増やして遊んでみた。
「あ……あ……あ……」
女の顔が恐怖に満ちる。
女は体を震わせる。
「熱い!」
男はそういってマッチを女の方に向けて落とした。
女は死を受け入れようとした。
この火が落ちた瞬間自分は死ぬんだ。
そう思った。
思った瞬間火が女の全身を包み込んだ。
「あーあー。
燃えちゃった」
熱い。
女はそう思った。
でも、熱いだけだった。
「あ、死ねる思った?
この油は特殊でね。
燃えることはないんだ」
女の頭がパニックになる。
「あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。」
女は失禁し顔を歪ませガクガクと震えた。
「今度はどんなことしたい?
油を飲んで口の中に火を入れるとか?
想像するだけでヨダレが出る」
男の言葉は女の耳に入らない。
「あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ」
「あ、もう壊れたのか。つまんないな」
男は嬉しそうに女にキスをするとそっと女の頭を撫でたあとスタンガンを当てて電気を流す。
「あーあーあーあー」
女は言葉を放てない。
もう放つことはない。
体を痙攣させる。
「このビリビリいいねぇ。
電気が走るようなキスだよ。
あ、スタンガン当ててるからそんなもんか」
男が笑う。
女から離れるとそのままその場を去った。
女は動かない。
命はある。
でも意識がない。
女はそのまま動こうとしなかった。
死の恐怖はない。
すべての感情がないから……
すべての感情が消えていく。
「あーあーあーあーあーあーあーあー」
女は意味のない言葉を放つ。
ただただ虚しく響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます