第7話 建て替え
ゴレフス商会の建物が建っている土地は、ニエンニムがまだ開拓時代だった時からの区割りがそのまま残っていて、裏手にはかなり広い空き地がある。普段はキンバが剣の稽古で飛んだり跳ねたりするくらいにしか使っていない。
商会の建物の大きさ、壮麗さと言うのはそのまま商会の信用力である。
とっくに建て替えていても良かったのだが、ツェランがそうしなかったのは、そこに転移門を設置していたからだ。これを撤去すると、また歩きで王都まで行かなければならない。
しかし別途にティルスが二点転移門設置の
まず小売を一時休業して、仮事務所となる小さな家をツェランは借りた。4人が寝泊まりするにはかなり小さいが、実際には王都の事務所も使えるので、広さと言う点では不便はない。
その事務所では薪買いと、人参の卸売りだけをやって、その事務所の中に、まずティルスが転移門を設置、元の家の転移門からツェランとティルスが王都に移動して、ティルスが王都の事務所に転移門を設置、そのうえでツェランが元の転移門を撤去した。
そしてゴレフス商会の建物の撤去作業が始まった。
跡地には、使用人が30人程度は住めそうな大邸宅・大店舗が出来る予定である。
ツェランも姓持ちになったのだから見た目がこれくらいの商会を営まないと格好がつかないと言うこともある。
「元気にしてますか、ヒブロンさん。久しぶりですね」
「おまえ、口調もすっかり変わったな。まあ、勉強してるってことだな」
「えへへ。今日は新しい奴隷を買おうと思いまして」
店番はキンバに任せて、ティルスとファラーナを伴って、ツェランはヒブロンの元に訪れていた。新しく建て替えられる商会の建物は今までの売り場面積の20倍以上になる予定である。
よろず屋、すなわち総合商会にするつもりだった。衣服から食料品、小間物から武器防具まで扱う総合デパートである。ニエンニムでの商会の運営は今後はファラーナが主軸になって運営してゆくことになった。彼女の部下、になれる者たちを購入しに来たのである。
「うーん、条件は獣人で、15歳以上、読み書き計算が出来るもの、商会で働いた経験がある者ならばなおよし、か」
「それが10人程度ですね。後は家事労働が出来る奴隷を3人ほど。こちらも獣人で15歳以上、読み書きはできたほうがいいですね」
「今すぐか?」
「今すぐなら何人揃えられます?」
「今ならざっと見て、家事労働担当なら3人は揃えられる。ただ、この3人は読み書きは出来ないな。そもそも読み書きが出来る獣人奴隷自体が稀だからな」
「1ヶ月くらいで揃えられますか?」
「2ヶ月待ってくれるなら、広範囲から集められると思う。ただな、声をかけたからには、カネを出して引き取らないというわけにはいかないんだ。つまり必ず買って貰わないと」
「買うとして価格見積もりはどれくらいになりますか?」
「その人数なら3億エキュくらいだな。相当な額になるが、大丈夫か?」
「6億エキュ出します」
「!」
「残額は、ヒブロンさんの取分でいいですよ。その代わり、全員を引き取るとは限りません。今いるキンバたちと上手くやっていけそうな者じゃないと後が困りますからね。2ヶ月なら待ちます。家事労働用の3人については、見せてもらっていいですか?」
その3人は、いずれも20代の女性獣人で、家事労働に長けたファラーナや、かなり用心深いティルスがいろいろ質問してもきちんと返答できていた。
「読み書きは出来ないようですけど、能力と性格的には問題ないようですね」
とティルスが言う。
ツェランはこの3人を引き取り、6億エキュを手付金として置いて来た。ちなみにこの3人の値段は合計で1200万エキュである。読み書きが出来ず、戦闘能力も低い獣人奴隷の値段はそんなものである。
実は引き取ったのはもう1人いる。これはどうだ?と提示されたのは、9歳の男の子で、戦闘奴隷になる意欲があると言う。債務奴隷で、親から売られた子、レイノスと言う男の子だった。
ティルスが言うにはちょうどいいと言うことだった。
「どのみち本当に
「怖いことを言うな、おまえー」
ツェランだけじゃない、ファラーナもどんびきだった。
「ツェラン様はお人よしですからね。こういうことは僕が担当しますよ」
そう言う理由で、レイノスも引き取った。レイノスの価格は300万エキュだった。
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「うっめー!うっめーぞ!」
「レイノス、言葉遣い!」
すかさず、パルマが注意する。パルマと言うのは今回引き取った家事担当奴隷の1人で、20歳の獣人女性だ。この女、かなりの料理上手だった。
以前の所有者が、かなりの美食家で、その下でパルマは料理を鍛えられたのだが、その人が亡くなって、遺産整理の一環として売られた。当人的にはその美食家の環境しか知らなかったので「普通に料理は出来ます」程度の認識だったのだが、その普通、のレヴェルがものすごく高かった。
パルマは料理専従になるのが決定である。
残りの2人はそれぞれ掃除担当、洗濯担当になる。彼らとレイノスは、今の仮事務所の隣に借りた家にとりあえず住んでいるのだが、食事は仮事務所でとる。
「だってうめーんだもん!こんだけうめーと言葉遣いになんて構ってられないよなっ!なっ!ツェラン様!」
「ああ、そうだね」
ツェランは苦笑する。考えたら、ツェランとレイノスは2歳も離れていない。普通に遊び仲間の範疇だ。
「いけませんよ、ツェラン様」
そう言ってティルスが睨むと、レイノスはしゅんとなった。
レイノスは生得奴隷ではないので、奴隷としての態度がなっていない。逆に言えば普通の男子の天真爛漫さがある。
キンバに言わせれば、意欲もある、才能も多分ある、性格も悪くない、ツェラン様にも好意を持っているみたいだ、と言うレイノス評である。今はキンバがレイノスを森へ連れて行き、稽古をつけている。
今後の家政振り分けとして、ニエンニムでの事業はファラーナが統括することが決まった。新しい要員が入れば、帳簿付けもファラーナが行い、ツェランは人参を補充するだけ、になる。
ティルスは、秘書兼執事になる。位置づけとしては№2だ。
護衛部門はキンバが統括し、キンバとレイノスがここに所属して、ちょこまかと誰かについて回ることになる。
ファラーナも含めて、直接店舗に立つこともなくなるだろう。
ここまできたんだなあ、と毎日、新しい商会の建設現場に見学に行って、ツェランは思う。新しい奴隷たちが揃うまではすることが無い。
新しい奴隷には転移門のことはまだ秘密にしてあるが、パルマにだけは打ち明けた。彼女を王都に連れてゆく必要があるからだ。
さすがに食材の豊富さは王都の方が多種多彩だ。食材を選ばせ、調味料を選ばせ、そして合間合間にロイドから紹介された高級レストランにツェランは、ティルスとパルマも連れて行き、味の研究をさせた。
将来的には王都でのレストランを、パルマにニエンニムで再現させてもいいかと思うツェランだった。
春まだ浅い頃に新商会の建物は完成し、その頃には10人の店員奴隷が揃った。
ツェランたちは新しい家に移動して、新オープンまで1ヶ月、準備に忙しかった。
そして春の盛りの頃に、ゴレフス商会は新装開店をした。ニエンニムでは初めてとなる総合商会である。
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