第96話 火と地の召喚獣と女の子チーム

「この鑑定水晶壊れてます。俺、3級海賊を倒したんです。絶対壊れてます」

「うーん、それは無いと思うよ。この水晶は私が作った物で、身体の魔素量も分かるから、間違いなくルディの実力は5級だよ」


 苦情を言ったら、まさかの自家製水晶とは思わなかった。もう黙るしかない。

 これ以上苦情を言ったら、水晶じゃなくて、アリスへの文句になってしまう。

 でも、絶対に壊れている。


「ほら、嘘吐くからだよ。海賊の船長は死んでなかったし、マイクさんは生きているでしょう。ルディは誰も倒してないじゃん!」

「……でも、強敵と戦ったのは事実だよ」


 何故か急にエイミーが強気になったので、一応反論してみた。

 でも、火に油だった。さらに勢いを増してしまった。


「強敵なら私も父さん達と何百回も稽古で戦ってるよ。魔物を倒さないと魔素は手に入らないんだから! そんなの常識だよ!」


 確かにタイタスの腕は俺が切ったけど、首を切ったのは風竜になったマイクだ。

 つまり俺は寝ていて、胸を揉まれただけのエイミー達と同じ役立たずだ。


 でも、胸を揉んで俺はやる気になれたし、エイミー達は俺にやる気を出させてくれた。

 同じ役立たず同士で支え合えば、社会の役に立つ人間になれるという事だ。

 これからも揉みつ揉まれつ、支え合うしかない。


「まあまあ、皆んなでこれから強くなればいいから。じゃあ、三人の戦闘力を見るね」

「「「はい」」」


 アリスは俺とエイミーを宥めているけど、別に喧嘩するつもりはない。

 むしろ、お互いが必要な存在だと再認識したところだ。

 それに俺は実戦に強いタイプだから、手作り水晶如きでは、真の実力は評価できないのだ。


(何だろう? 魔法でも使うのかな?)


 鑑定水晶で三人の実力を調べたので、これから実戦テストだ。

 早速、アリスが呪文を唱え始めると、アリスの身体が赤く光り出した。


「〝火の精霊よ、雄々しき者に姿を変えて、我が前に現れ出でよ、《イフリート》〟」


 地面に直径百五十センチ程の赤く輝く円と文字が浮かび上がる。

 そして、その赤い円から赤い何かが、猛獣の雄叫びを上げながら飛び出して来た。


『ヴオオオオオ!』

「なっ⁉︎ 魔物!」


 急いで、プロテスとシェルを自分とエイミー達の三人にかけた。

 赤い円から飛び出して来たのは、身長二メートル以上の牛の頭を持つ筋骨隆々な人型の魔物だった。

 全身が炎のようにメラメラと燃えていて、手には炎の大斧を持っている。


 どこから呼び出したのか知らないけど、アリスはエイミーのように魔物を操れるようだ。


「〝地の精霊よ、堅固なる者に姿を変えて、我が前に現れ出でよ、《ノーム》〟」


 でも、呼び出すのは一匹だけじゃないようだ。すぐに同じような呪文を唱え始めた。

 そして、茶色く輝く円から金属を引き裂くような雄叫びが上がった。


『ヴイイイイイ!』

「今度は岩巨人か」

 

 牛巨人の次は身長二メートル以上の岩巨人だった。

 頭は丸く、胴体も腕も足も太い。まるで岩の丸太に頭や手足を付けたようだ。

 こっちは武器は持っていないけど、全身がゴツゴツした硬そうな茶色い岩で出来ている。


「じゃあ、まずは女の子達から『炎のミノタウロス』と『地のゴーレム』、どっちと戦いたいか選んで」

「へぇっ?」「いや、これは」


 簡単に選ばせようとするけど、俺なら筋骨隆々な牛人間も岩巨人のどっちも選ばない。

 アリスに聞かれて、エイミーもメリッサも困った感じに固まってしまっている。


 だけど、見掛け倒しの場合もあるから、とりあえず二人にはぶつかってほしい。

 やられても、キチンと仇は取ってやるから、少しぐらい魔物の実力を見せてほしい。

 でも、二人が戦ってやられる前に一応聞いてみた。


「すみません。この魔物は何ですか?」


 見た感じだと、骨に取り憑く死霊骨と同じように、炎や岩に取り憑いているように見える。

 エリアス先輩じゃないけど、会話と説明は重要だ。とくに倒し方は念入りに教えてほしい。


「これは召喚獣だよ。異界の精霊に魔力の身体を与えて、こっちの世界に呼び寄せる魔法かな」

「へぇー……エイミーは分かるよね?」


 聞いても全然分からなかったので、隣のエイミーに聞いてみた。

 魔物に詳しいし、さっきから頭良い人間の仲間になりたいみたいだから、答えられるはずだ。


「えーっと、精霊は絵本で聞いた事があるけど、召喚獣と異界は聞いた事がないよ」

「ふぅーん、そうなんだ。もっと勉強した方がいいよ。アリス、エイミーの為に教えてください」

「はぅっ! むぅ~~!」


 こんな事を言うと、また好きな女の子をイジメていると思われるかもしれないけど、別にいい。

 お馬鹿なエイミーの為に頭を下げて、お願いした。これで教えてくれるはずだ。


「うーん、簡単に説明すると、天国みたいな所から魂だけを呼び寄せる魔法かな? でも、丈夫な肉体が無いと、すぐに魂は元の場所に帰って行くよ」

「つまり肉体を壊せば倒せるんですね?」

「まぁ、そうだね。二体とも弱い5級クラスだから安心して戦っていいよ」


 アリスはのんびりした口調だけど、時々、ドス黒い部分が出てしまっている。

 俺はその弱い5級冒険者の一人です。

 そして、弱いという言葉で安心したのか、エイミー達はどちらと戦うか選び始めた。


「う~ん、茶色い方でお願いします」

「私も茶色い方がいいわ」

「はい。じゃあ、女の子チームはゴーレムで、ルディはミノタウロスとゴーレムね」

「なっ!」


 色々と言いたい事があるけど、決定事項のようだ。

 この場合は流れで、ミノタウロスと俺が戦うはずなのに、サービスでゴーレムまで付いてきた。

 俺も女の子チームに混ぜてほしい。しっかりとサポートしてあげる。


「私が引き付けるから、メリッサは攻撃できそうなら攻撃して」

「ま、任せて! 岩を切る自信はないけど頑張るわよ!」


 当然、そんな事が許されないのは分かっている。

 エイミーは銅板を張った木の丸盾、メリッサは海賊の剣を持って、ゴーレムと戦うようだ。

 二人が負けるという結果は分かっているけど、ゴーレムの実力をちょっとぐらいは知りたい。


「ゆっくりと動いて攻撃は当てたら駄目だから。虫を殺さないように優しく追い払って」

『ヴイイ』


 アリスの命令を受けて、ゴーレムがエイミー達に向かって動き出した。

 ノロノロと歩いていくけど、エイミー達は死ぬ覚悟を決めたような必死な顔をしている。

 俺はゴーレムよりも二人の本気度の方が怖い。


「行くよ! やあああああっ!」


 メリッサに突撃の合図を出すと、まずはエイミーが走り出した。

 化け猫の時に見た、丸盾を身体の正面に構えた全力体当たりだ。

 この体格差と重量差で、この選択は正直ないけど、歩く壁にぶつかりたいのだろう。


「きゃああッ!」

「うわぁー、痛そう」


 壁に全力でぶつかって、跳ね返されて、エイミーは可愛い悲鳴を上げて地面に倒れた。

 予想通りの結果だ。誰も助け起こさないから早く立ち上がった方がいい。


「よぉーし! 次は私が相手だぁ! やあああああっ!」

「あぁー、行っちゃった」


 倒れたエイミーを助けようと、メリッサは勇敢に剣を振り上げて、ゴーレムに向かっていく。

 エイミーの作戦は攻撃できそうな時に攻撃しろだ。攻撃したい時に攻撃しろじゃない。


「やあッ! やあッ!」

「はああッ! ヤァッ!」


 剣を振り回して、ゴーレムの足を切っているけど、全然切れてない。

 立ち上がったエイミーも加わって、左右の足を二人で攻撃している。

 足を破壊して動けなくしたいようだ。

 狙いは悪くないけど、二人の力が足りなさ過ぎる。


「二人を優しく捕まえて」

『ヴイイ』

「ひゃあっ⁉︎」「うわああっっ⁉︎」


 これ以上は見るだけ時間の無駄なんだろう。アリスがゴーレムに命令した。

 この戦いで分かったのは、二人のやる気と愚かさと弱さだけだ。

 ゴーレムの太い手に胴体を掴まれた二人が、収穫された野菜のように持ち上げられている。


「二人とも凄いよ! こんなに大きな相手に立ち向かえるなんて、普通の女の子には出来ないよ!」


 アリスはゴーレムに近づいて行くと、収穫された二人を見上げながら褒め始めた。

 手塩に育てた野菜は確かに可愛いけど、その二人は他の野菜の成長を邪魔しないように、間引きされる野菜の葉だ。

 捨てるのが可哀想なら、小さな鉢植えにでも入れて、観賞用に育てた方がいい。


「うぅぅ。でも、全然歯が立ちませんでした」

「私の剣も刃が欠けちゃったわ」

「気にする必要ないよ。5級のゴーレムに8級冒険者が勝てないのは分かっていたから。今のは二人の戦い方を見てただけ」


 落ち込んでいるエイミーとメリッサを、アリスは優しく慰めている。

 お父さんと違って、褒めて伸ばすタイプらしい。

 確かにエイミーの劣等感は、お父さんの厳しい稽古が原因な気がする。


「とりあえず二人は能力が低いから、弱い魔物をここに連れて来て、倒しまくった方がいいかな。次はルディの出番だよ」

「はい。いつでもいいですよ」


 やっと俺の出番がやって来た。

 二人には悪いけど、本物の戦いというものを見せてあげる。

 

「今度は本気で戦っていいからね。殺すつもりでやって」

『ヴオオ』『ヴイイ』


 アリスの命令にミノタウロスとゴーレムは返事している。

 ちょうどいい。5級なら死霊骨と同じ雑魚魔物だ。

 風竜と戦った事もある俺には、5級魔物は物足りない相手だと証明してやろう。


 ♢

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る