第97話 戦闘終了とお部屋案内

(よし、右爪も十五センチぐらいまでは伸ばせる。これで防御魔法を使えば完璧だ)


 切られた右手の爪は、意外と回復に時間がかかっている。まぁ、ちょうどいいハンデだ。

 黒い死霊骨が5級でも強かったから少し不安だけど、あの時と違って魔法が使える。

 デカイだけの召喚獣程度では、もう俺の相手にはならない。


「はああああっ‼︎」


 ゴーレムがエイミーとメリッサを手から降したので突撃した。

 二人の攻撃でビクともしなかった岩巨人を両手の爪で切り刻む。

 二人は俺の勇姿を見届けて、尊敬し崇拝するだけでいい。

 それ以上は何も求めない。


 でも、どうしてもと言うなら仕方ない。

 傷口が塞がってきたので、船上で出来なかったマッサージをしてもらう。

 今なら揉まれても痛くはない。


『ヴイイッ‼︎ ヴィッ、ヴィッ、ヴイイッッ‼︎』

「チッ! 速すぎ!」


 突撃して来た俺に対して、ゴーレムが右拳を力強く突き出してきた。

 それを姿勢を素早く低くして、しゃがんで躱す。

 でも、簡単には懐に入らせてくれないようだ。

 エイミー達の時よりも十倍は速い動きで、連続で左右の拳を振り回してくる。

 二人の遅い戦いをしっかり見ていたけど、全然参考にならない。


 だけど、この程度が本気なら問題ない。

 スピードは風竜の四分の一程度だ。十分に反応できる。

 ゴーレムの左拳を右横に回避すると、伸びきった左腕の前腕に向かって、左手の爪を振り上げた。


「ハァァッ‼︎」

『ギビィィッ!』


 やはり、ただの動く岩壁だ。

 力強く振り上げた左手の爪は、ゴーレムの左腕の前腕を楽々と切り裂いた。

 ゴーレムの左腕から岩の塊がドスンと下に落ちていき、左腕の長さが四十センチ程短くなった。


『ヴイイッ!』

「よっと。フッ。これが3級の実力だ」


 ゴーレムの右拳を楽々回避すると、応援してないエイミー達を得意げに見た。

 やはり出来損ないの手作り鑑定水晶では、俺の真の実力までは鑑定できなかったようだ。


「何やってるの? 二人掛かりでやるんだよ」

『ヴオオ』


 アリスの応援で様子見していたミノタウロスがやって来た。

 さっきの二人なら、ゴーレムだけでも楽勝だけど、俺は違う。

 二体まとめて掛かって来い。


『ヴオオッ、ヴオッッ!』

『ヴイイイイイ!』


(腕は再生しないみたいだ)


 振り回される炎の片刃大斧を躱しながら、ゴーレムの左腕を確認した。

 これで再生能力有りなら、面倒な事になっている。

 とくに切り落とした左手を前腕に、くっ付けるだけで回復されたら最悪だ。


 さてと、そろそろ終わらせてやる。

 死霊骨と同じなら、頭と背骨を破壊すれば動かなくなる。

 骨だけの骸骨と違って、二体とも身長が三十センチ以上も高くて、肉厚だけどやるしかない。

 

 ミノタウロスが攻撃できないように、ゴーレムの身体に隠れるように動いていく。

 二対一なら脅威だけど、一対一になるように位置取りをしっかり考えれば大丈夫だ。

 エイミー達のように正面からぶつかって、捕まったりしない。


「はああッ! オラァッ!」

『ギギイイッ! ギビィィ!』


 ゴーレムの背後に回り込んで飛び上がると、空中で伸ばした右足の爪を背中に蹴り込んだ。

 続けて右腕を振り回して、右爪を右肩に突き刺す。

 そして、トドメに左腕爪を振り回して、ゴーレムの太い丸頭を左から右に切断した。


「せいやあぁっ‼︎」

『ギビイイッッッ‼︎』

「フッ。もう終わりか」


 頭部を失ったゴーレムの身体がボロボロと崩れていく。

 身体に突き刺した右手と右足が抜け落ちていく。

 これで5級相当の魔物だとしたら、弱過ぎる。

 いや、俺が強くなり過ぎただけか。


「やりますね。でも、ミノタウロスは身体に触るだけで火傷しちゃいますからね」

『ヴオオオオ!』


 ゴーレムを瞬殺すると、アリスが警告するように言ってきた。

 確かにメラメラ燃えている牛人間の身体は熱そうだ。

 エイミー達も触ると熱いと思ったから、ゴーレムを選んだのだろう。

 

 だけど、3級の炎の矢でも俺の身体は少ししか貫けなかった。

 5級如きの火力で焼き切れるなら、やってみればいい。


「うおおおおっ! 牛野郎! 細切れにして出荷してやる!」


 一対一だ。何も考えずに炎の大斧を持ったミノタウロスに向かっていく。

 大斧との戦いはタイタスで経験済みだ。

 両腕切り落として、今度こそ頭も切り裂いてやる。


『ヴオオ……』


(ん? なるほど、そう来るか)


 ミノタウロスは炎の大斧を右脇に構えて、突撃して来る俺の身体を真横に切断したいようだ。

 水平に薙ぎ払われる大斧を受け止めても、躱してもいいけど、受け止めきれないとヤバイ事になる。

 でも、ビビって大斧を避けまくって、隙が出来るのを待つつもりはない。

 この場合に俺がやるべき攻撃は飛び蹴りだ。


「ハァッ——うおおおりゃ!」


 構えていた大斧が振り回される前に硬い岩の地面を蹴った。

 そして、四メートル先のミノタウロスの胸に、右足を向けて矢のように飛んでいく。


『ブゥモォッ!』


 右足の足裏がミノタウロスの胸に直撃すると、巨体が大きく揺れた。

 だけど、これで終わりじゃない。


「ハァッ‼︎」

『ブゥオオオオッ!』


 空中で左腕に力を込めて、ミノタウロスの右肩を貫くように左腕を振り抜いた。

 左手の爪が肩裏まで軽々と貫通した。

 炎の身体で痛みを感じるのか知らないけど、ミノタウロスは苦痛を感じさせる声を上げた。

 でも、この程度で痛がってもらったら困る。まだ右腕が残っている。


「こいつも喰らいやがれッ!」

『ブゥモォォッ——‼︎』


 左手一本で右肩にぶら下がり、右腕に力を入れて、首を狙って大きく振り回した。

 右手の爪はミノタウロスの喉を引き裂く。だが、まだ足りない。

 素早く振り回したばかりの右手の爪を縮めて、右拳の甲による裏拳を、渾身の力で牛頭に打ち込んだ。


「吹き飛べッ!」

『ブゥモォ……⁉︎』


 渾身の裏拳が直撃すると、ミノタウロスの身体から牛頭が千切れて宙を飛んでいく。

 こっちは身体にくっ付いたまま、頭だけ四回転させるつもりだったのに残念だ。


(さっさとトドメを刺してやるか)


 右肩に貫通させた左手の爪を引き抜き、地面に着地した。

 そして、頭部を失って隙だらけの胴体を、左手の爪で水平に思いっきり切り裂いた。


『——‼︎』


 頭を失った所為か、ミノタウロスは声も上げずに消えていく。

 今度、出て来る時は美少女の姿になった方がいい。

 そうすれば、優しく倒してあげる。


「やっぱり5級じゃ物足りないですね。俺、3級相当の実力を持っているので」


 見れば分かると思うけど、興味なさそうなエイミー達に結果を報告してあげた。

 驚いたり、凄いと褒めてもいいのに、二人とも天井の偽物の星空を眺めている。

 確かに綺麗だけど、見るのは今じゃないよね?


「うんうん、そうだね。身体能力だけじゃなくて、戦闘能力も5級ぐらいはあるね。じゃあ、お楽しみの三人のお部屋に案内するね。ベッドと棚ぐらいしかないけど、一人部屋だから安心して改造していいよ」

「本当に! 船だと一人部屋なんて船長ぐらいで、個室も空きがある時だけしか使わせてもらえなかったのよ」

「私は明るくて、鍵が付いている部屋なら狭くてもいいかな」


 俺への興味は誰も持ってないようだ。

 軽い戦闘を済ませた俺よりも、部屋の方に興味津々だ。

 アリスに続いて、エイミー達も普通に俺を置いて、洞窟から出て行こうとしている。

 まぁ、俺も部屋には興味があるから付いて行くけどね。


 ♢


(また、同じ姿勢だ。逆に疲れるんじゃないのか?)


 机に足を乗せて休んでいる、エリアスの横を恐る恐る通過して、別の通路に入った。

 さっきの悪口大会は聞こえてなかったようだ。

 そして、これで六本ある通路の四つも入ってしまった。

 この先に女子部屋しかないなら、残り二本のうち一本は男部屋になる。


「基本的に調査部は各自で判断して動いているから、ほとんどこの場所にはいないんだ。だから、部屋は空き部屋が沢山余っているから助かるよ。お風呂とトイレもあるから好きな時に使っていいからね」

「お風呂まであるなんて、ここはまるで天国ね」

「ふっふ。このぐらいは普通にあるよ。騎士団の方には食堂だってあるんだから」


 白い通路を先頭に歩くエリアスが、時々振り返りながら教えてくれる。

 いちいち大袈裟な反応なメリッサは放っておこう。

 過酷な環境で働いていたから仕方ない。


 部屋は男部屋も女部屋もこの通路にあるそうだ。

 でも、風呂とトイレは男女別々らしい。まあ、当たり前と言えば当たり前だ。

 だけど、人が少ないなら一緒に入っても問題ないと思う。

 俺は美少年と二人っきりで入るよりも、美少女達と入りたい。


「はい、到着。今日からここがあなた達の部屋よ。全部同じ広さだから、狭いとか喧嘩しないでね」

「「はぁーい」」


 通路の左右の白い壁に、鉄扉が十メートル程の等間隔で一つずつ埋め込まれている。

 鉄扉を開けて、ベッドと本棚が置かれた白い部屋の中を確認した。

 広さは縦六メートル、横八メートル、高さ二メートル以上はありそうだ。


「凄い凄い! このベッド、ふかふかだわ!」

「まだ寝るには早過ぎじゃない? これからお昼ご飯でしょう? とりあえず今日一日は自由時間にするから、必要な物があったら街で買い物して来てね。明日からは忙しくなるから」


 部屋の案内が終わり、これから自由時間のようだ。

 今にもベッドに寝転がったメリッサが眠りそうだったけど、食事という言葉で何とか起きた。

 俺は買い物よりも怪我の回復が最優先だ。

 アリスの手料理が食べられるそうなので、食べた後に部屋のベッドで横になろう。


「えっ、でも、外は危なくないですか?」

「大丈夫、大丈夫! 怪しい人間がいたら港で捕まえるから。はい、入団祝いね」

「えーっと、ありがとうございます」


 エイミーは敵の攻撃を警戒して、買い物には行かない方がいいと思っているようだ。

 でも、アリスから強引に入団祝いとして、三万ギルを渡されてしまった。

 一人一万ギルで楽しんで来いという事なんだろう。

 未だに白い船員の制服を着ているメリッサと一緒に、遠慮せずに服を買いに行けばいい。


 ♢

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