幕間 リッタの日記『天印と人間実習における定め』

 3月17日。


 天印のこと。それと人間実習のルールを曖昧に覚えてたのがバレて、黒髭の博奕打ばくちうちに捕まる。


 実習までに絶対覚えろ。

 文面を目で追うだけじゃお前には覚えられないだろうから、繰り返しノートに書いて覚えろ。

 で、書いたらちゃんと俺に見せろよ。


 しつこく迫られたから、仕方なく言う通りにすることにした。

 わざわざそのためだけにノートを用意するのも面倒だし、たまにつけるこの日記に書けばいいや――――。




【天印の機能】


 ◆壱。特別に使用が許可された魔法を扱うための魔力供給。

 →天印からの魔力供給により『護身魔法』と『治癒魔法』が使用可能になる。尚、供給される魔力の量は一定。また、これらの魔法は実習生間で同一規格となっており、どの実習生も詠唱なし、最大魔力効率で扱うことが可能となっている。


 ◇一。『護身魔法』

 →護身魔法は、使用することで対象を気絶させることが可能。対象が実習生に対し、物理的に危害を加える意図があった場合にしか使用してはいけないが、緊急性を考慮し、天印によるその意図の有無の判別は魔法を使用した後に行われる。


 ◇二。『治癒魔法』

 →治癒魔法は、生命に危機が及ぶような疾患や外傷にのみ使用可能。風邪や擦過傷などの軽度な疾患や外傷に効力を発揮することはない。

    

 ◆弐。実習の定めに抵触したかどうかの判別。また、抵触した場合の強制送還魔法の展開。

 →実習生が人間実習における定めに抵触したかどうかを判別。違反と判別した場合には魔法を展開し、実習生を天界に強制送還する。


 ◆参。移界先の第一言語への適応化。

 →適応化により移界先の第一言語を、普段より天界で扱っている言語と同等の習熟度で使用可能にする。


【実習生の人体に関する覚書おぼえがき


 ◆壱。実習が終了するまではその身体が天使のものに戻ることはない。

 →天印を介し魔法を使用している際に限り、その身体は天使のものとして機能するが、基本的にはその身体は人間のものである。


 ※特記事項

 →使。そのため、人間に天使と感知される可能性があることに変わりはない。


 ◆弐。許可された魔法以外の魔法を使用することは出来ない。

 →『護身魔法』『治癒魔法』以外の魔法は使用不可。


 ◆参。人間との間に子を成すことは出来ない。

 →人間との性交渉をもってして、相手、または実習生自身が受胎することはない。


【人間実習における定め】


 ◆壱。人間界に送られた実習生のうち、誰かひとりでも人間に天使がいると感知されてはならない。


 ◆弐。暴行、窃盗など、故意に人間に危害を加えるようなことをしてはならない。


 ◆参。『護身魔法』を、実習生に物理的に危害を加えようとする人間以外に使用してはならない。


 ◆肆。『治癒魔法』を、人間に使用してはならない。


 ◆伍。学生として実習に臨むものは、学校での試験において落第点をとってはならない。また、停学や退学の処分を受けてはならない。


 ◆陸。人間界に存在する宗教に入信してはならない。


 ◆漆。人間に恋をしてはならない。


 以上の定めに抵触した場合、魔法が展開され天界へと強制送還される。




 ――――。


 ――ふぅ、やっと一回書き終わった〜。


 にしてもこれを繰り返し書くのは面倒だな……。


 ……ま、もういっか!


 そう言って、日記を勢いよく閉じようとして、やめる。

 もう一度、人間実習における定めの欄、その一番下に目を止めた。


 ◆漆。人間に恋をしてはならない。


「………………」


 まあ大丈夫でしょ、わたしは。


 ただ、ミーアとシャロはちょっと心配。


 特にミーアは気にしてなさそうだから、尚更。


 ……実習前に、どこかで釘を刺しといた方がいいかもね。


 パタンと、日記を閉じた。

 椅子に座ったままめいっぱい伸びをして、二人の顔を思い浮かべる――。


 うん。


 絶対みんなで実習を乗り切って、三人で一緒に帰ってこよう。

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