第2話 冒険者レオンⅠ
冒険者が集う街『フィステル』。多くの冒険者が集い、それに合わせて多くの商人達が集まり、賑わいを見せている。
ここは冒険者ギルド、荒くれ者とさして変わらない風貌の者達がひしめいている。そんな中に私はいる。
「これで登録は完了しました。これからのご活躍をお祈りしておりますレオン様」
一人の女性が頭を下げる。
彼女はエリー、冒険者ギルドの受付である。
そして、今彼女の前に立っているのが、今日より冒険者として一歩を踏み出した男、そう私、レオンである。
この街はセンガイア大陸の南部にあり、未開の土地が多くあり、冒険心がくすぐられる場所でもある。未開の土地、と言う事はまだ未発見の遺跡、通称『ダンジョン』も未発見のモノが見つかるかもしれない。もし見つかれば、いち早くダンジョンを攻略し、名を上げようと野心を抱く冒険者も多い。
だが、私、いや俺にとってはダンジョンというモノには興味があるが、特段名を上げたいとは思わない。折角自由な冒険者となったというのに、不自由な有名人になんてなりたくはない。
さて、とりあえずこれからどうするか。折角冒険者となった以上、これからの方向性を考えねばならない。
冒険者ギルドを出ようとしたところで、自身に影が差した。
「オイオイ、ここはいつからガキが来るとこになったんだ」
ガキ、と俺を称された。
目の前には大柄な男が立っていた。見上げなければならない程のサイズ差がある。自身とのサイズ差で考えれば、成人男性でもガキに見える事だろう。
だが、おそらく目の前の男が俺をガキと称したのは、顔立ちや肌の若さなどを総合して年齢を判断しての事だろう。
まあ、彼の判断方法にさして興味は無いが、侮られるのは好まない。自身にはかつての身分は無いが、今日より冒険者となった身、侮られるのは今後に支障をきたすやもしれない。ならば、やることはただ一つ。
「なんだ、オッサン。ここはオッサンの様なロートルが来るような老人の集いの広場ではないぞ」
煽り返すことだ。やられたらやり返せ、かつては抑えていた我慢、忍耐などはもはや不要。感情のままにあるがままに、心に感じるままに行動しよう。それにどんな結末が待っていようとも‥‥‥‥責任は取ろう。
「っんだと、ガキィィィ!!!」
目の前の男は煽りに耐性がなく、即座に私に掴みかかろうと、右腕を振り下ろす。
やれやれ、体術の心得もまともにないのだな。
右腕が振り下ろされるの動きを見つつ、ゆったりと自身の左腕を前に伸ばす。そして、相手の右腕が自身の左腕に触れそうになった瞬間、瞬時に動かし、左手で右手首を掴む。
そのままであれば動きは止まらない。俺と目の前の男の体格差は一目瞭然だ。ならば、やるべきことは力の流れを変える事。
相手の右腕を掴んだまま、左腕を起点に体を回転させ、勢いを付ける。男の腕を伸ばす速度に、自身の回転速度を加え、相手をそのまま地に叩きつける。
「っぶ!?」
男は顔から地に投げ出された。
受け身の一つも取れないのか、それとも油断か、どちらにしてもこの現状はあまり褒められたものではない。なぜなら、俺を相手に背を向けたままなのは‥‥‥‥
「‥‥‥‥言い残す言葉はあるか?」
「ヒィ!?」
首元にナイフを突き付け、最後の言葉を待った。
「そこまでだ!」
ギルド内に声が響く。奥の方からこれまた大きな男が出てきた。
「そこの二人、その辺りで止めておけ」
「ギ、ギルド長!?」
ギルド長と呼ばれた男が、俺達の前に姿を現す。
大きく、たくましい体つきをしており、その身に修めた覇気は他の冒険者とは一線を画している。だが、些か歳を取っている、年の頃は40を越え50近くと見える。全盛期を過ぎているが、それでもこの身や俺にケンカを売った相手程度では敵わないと理解させられるほどだ。
故に、俺はナイフを収め、手を放す。
「ほう、聞き分けがいいな」
「勝てない相手にケンカを売るほど、命知らずではないので」
「なるほど、ではカーツ相手ならば問題ないと?」
カーツ? ああ、もしかしてこの男のことか。
視線の先と状況から、この男の事だと推察出来た。
「この男程度ならば、さして相手にはなりますまい。力量を見極める能力すらないのであれば、所詮その程度。自分と戦うには値しない相手です。それに今回は自身に振りかかる火の粉を払ったまで、冒険者としてやっていく以上、侮れらるのは今後に支障をきたします。そんな私を処罰なさいますか、ギルド長?」
真っ直ぐにギルド長の目を見て、俺の考えを訴えた。
ギルド長は最初は驚きの表情を浮かべていたが、最後には頷いていた。
「ほう、若人の向こう見ずな行動かと思ったが、存外よく考えられているし、冒険者としての心構えも出来ている。ああ、お前さんの行動に間違いはない。冒険者たる者、自身の行動のツケは自身で払うべきだ。危険な目に遭ったとしても誰も助けてなどくれやしない。だが、流石にこの場での流血沙汰は勘弁してくれ。後で掃除が大変なんだ」
「では‥‥俺はこれで行かせてもらう」
俺は今度こそ、ギルドを出ていった。
side ギルド長
「やれやれ、とんだ新人が来たものだ。そうは思わないか、カーツ」
「‥‥‥‥マジで、死ぬかと思った」
新人が出て行く背を見ながら、倒れているカーツに声を掛ける。だが、カーツの様子は思わしくない、些か怯えていた。
「ベテラン冒険者であるお前が、そこまで怯えるとは、あの新人相当やると見えるが‥‥」
「‥‥相当、とかそんな次元じゃないですぜ。ありゃ、潜ってきた修羅場の数と質が違うとしか思えねえ。俺は確かに、手加減してた。新人ということで、侮りがあったのも事実だ。だが、それでもあそこまでやられるとは思っていなかった。躱されたことに気付けなかった、気づけば俺が地に叩きつられていた。そして‥‥ナイフでトドメを刺されそうだったこと。全部、あっという間にやられていた」
俺はカーツがここまで一方的にやられるとは思っていなかった。
カーツは冒険者としてはCランクだ。非公式のSランクを除けば、A,Bランクに次ぐランクだ。そこらの新人にやられるほどの経験などではない。それが一方的にやられるとは想定外だった。
「‥‥てか、ギルド長。いい加減こういうこと止めましょうよ。なんでいつも俺ばっかり、新人イビリ役やらされるんですか?」
カーツの批難の声に、多少は申し訳ないと思うが、それと同時に自身の風貌を省みて欲しいと思った。
2メートルくらいの身長と130キロ超えの超重量の体格、傷と髭と目つきの悪さが合いまった厳つい顔立ち、更にモヒカンというヘアスタイルに、服はやたらと刺々しい、おまけに武器は斧、総合すると、冒険者よりも盗賊団のボスみたいな出で立ちだ。
「‥‥新人冒険者に冒険者の厳しさを教えるには、やはりベテランからの洗礼は必要な事だ。俺達の時代でも行われてきたことだ。だから、これからも続けていく必要がある。それにこの程度で逃げ出すような奴は冒険者になどならない方が長生きできる」
「でも、おかげで俺、新人たちに怖がられてるし‥‥‥‥そうだ、初仕事とかやっぱり誰か指導役がいると思うんでさ。となると、やっぱりベテランの俺が付いていてやった方が‥‥」
「ああ、そう言うのはまた違う奴に任せるから、お前は当分は新人イビリ役な」
がーん、という表情で落ち込むカーツ。何気にカーツは世話好きな面があり、新人に教えたがるんだが、何分怖がられる風貌のため、新人が近寄ってこない。
まあ、こういうのは適材適所というのが大事だ。組織運営には多少の犠牲は止む無しだ。
さて、カーツの事はひとまず置いておいて、やはり気になるのは先程の新人の事だ。
見かけは年若く、少年と呼ぶに相違ない。おそらく歳は15前後、といったところか。
体型は歳の割には長身といえるほど、カーツとの身長差から見て170あるかどうか、それでいて程よく引き締まった身体つき、将来的には中々偉丈夫に育つことだろう。顔立ちも悪くないし、女にもモテそうだ。
動きに関しては、傍から見ていた俺の目から見ても洗練されていたし、実際に抑え込まれたカーツの口からも何が起こったのか理解する前にナイフを突きつけられていた。ただ純粋に動きが速い、ではなく、動きの無駄がない、というモノだった。相当な場数をこなさなければ、それだけの域には達しない事だろう。
度胸もあった。俺に言い放った言葉も正にその通りだと、思わず感心した。冒険者として侮られてはならない、と言い切った点は非常に評価できた。
まず冒険者としては合格だ。近年まれにみる逸材だと手放しで褒めたいところだ。少々興味が湧いた。
「エリー、さっきの新人‥‥名前は何だった?」
「レオン君ですよ、ギルド長」
「レオン、か。これからの成長に期待したいものだ」
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