第3話
ある日僕は街で同僚に出くわした。彼は随分と雰囲気が変わったような気がした。僕達は会社に勤めていた時に2人でよく飲んだ居酒屋へ行った。僕は金もないので最初は気が進まなかったが、同僚が全て出すと言ったので渋々了解した。
同僚は枝豆と手羽先と、それから会社が倒産した僕の身の上話を酒のつまみにして生ビールを飲み、起業してからの自伝を悠々と語った。何故だかその日の酒はひどく不味く感じた。
同僚と別れると僕は街をふらついた。仕事終わりで意気揚々と歩くスーツの集団や、これから出勤するのであろう派手な髪色をした女性を横目に見ながら歩いた。
腹が減った。先程まで居酒屋にいたはずなのだが、同僚の金で飯を食うのがなんとなく癪でほとんど食事には手をつけなかった。
道端に財布が落ちていたので僕はそれを迷う事なく拾い上げ、まるで自分の財布であるかのようにポケットにしまった。
それから常連客しか立ち寄らないような細い路地にあるラーメン屋に入った。僕が店に入ると店主は「いらっしゃい、空いてるとこ掛けな」とぶっきらぼうに言った。僕は壁にかかっているメニューの中から醤油ラーメンを頼んだ。
「お客さん随分青白い顔してんな。大丈夫けぇ」
注文をすると店主が言った。会社が倒産になった事、会社を辞めた同僚は事業に成功して金持ちになっていた事を話すと店主は言った。
「オレも昔働いてた会社の上司殴ってクビになった事あるよ。人生そんなもんだって。ほらよ。このラーメンはオレの糞みたいな人生かけて作った糞みたいなラーメンだよ。これ食って元気出せ。」
そう言われて出された醤油ラーメンは別段何が美味いというわけでもなかったが、何故だか僕の体には深く沁みた。先程拾った財布の中身がからになるほど瓶ビールとギョーザとラーメンを注文して食した。僕が店を出たのは明け方近くになってからだった。
久しぶりに碌な物を食べたからか、急にお腹が下った。僕は一番近い駅のトイレへと駆け込む。しかし大便用のトイレは明け方にも関わらず施錠されていた。ドンドンドン、と激しくドアを叩いてみても全く反応はなかった。堪えきれず僕は駅を後にした。どこかコンビニにでも入って用を足そう。そう思って大通りを歩いた。便意を堪えてヨタヨタと歩いているうちに朝日が登った。自分の正面から差す朝日が随分と美しかったので、どうしてわざわざトイレで用を足す必要があるのかと考えるようになった。その考えに至ると僕は徐にズボンを下ろしその場でしゃがみ込んで用を足した。思ったよりも下痢っぽくなくてするりと良い形のものが道端に落ちた。拭くものが無かったのでそのままズボンを上げて立ち上がると、ふぅと息をついた。
その時、僕は1人のスーツ姿の若者と目があったのであった。
うんち 上海公司 @kosi-syanghai
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