第3話 運命の出会い 

フェレス卿の大きな館に到着すると、お母様とリリアは私を置いてさっさと中へ入って行ってしまった。どうせ、いち早く良い殿方を探しに行ったんだ。


「大丈夫かい? マルゼラ。 無理しなくて良いからな」


「はい、お父様。無理しないようにします」


相変わらずお父様は優しい。私は密かに決めていることがある。婚約するならお父様みたいなおおらかで優しい人。あっ お父様!


「大丈夫ですか お父様!」

お父様が突然左腕を押さえた。あそこは昔大怪我した部位だ。 落馬した時に負った傷だと聞いていた。 


「ありがとうマルゼラ。 昔の古傷が疼いただけだよ。 ほら、もう大丈夫」


それを見たお母様は何か言いたげな顔をしたが、口に出すことは無かった。



会場の中には豪華なドレスを着た貴婦人、殿方は正装を着て楽しそうに交流を楽しんでいた。

人前に出るのが苦手な私は、お父様の言いつけで社交界に参加する機会は以前からあったけど、今夜の社交界は今までとは比べられない程豪華で大人数の貴族が参加していた。

いかにフェレス卿が影響力のある貴族か見せつけられた気持ちになった。


お父様は周りの貴族の接待の為、ここからは単独行動になった。


「お嬢さん、素敵な格好だね」


突然、殿方に馴れ馴れしく話しかけられた。

背が高く整った顔で、私と同じくらいの年齢に見える。


「あっ・・・ ファウスト家長女のマルゼラと申します」


すると、彼は突然私のベールを手で持ち上げた。


「ちょ・・・ ちょっと!」


手を振り払って急いでベールで顔を隠した。


「・・・・」 

殿方はじっと私を見つめてなにも言わない。


「な・・・なんでしょうか?」


「・・・いや マルゼラ嬢、ベールを取ってその素敵な素顔を見せたらどうだい? 胸は・・・ まぁ 及第点かな」

そう言うと、殿方は私の身体をジロジロと見てきた。 


「さっきからジロジロと見て失礼じゃないですか! それに名前ぐらい名乗ったらどうですか?」 


「私は・・・ おっと 失礼。私を呼ぶ者が居るようだ」


彼は何かを言いかけた所で足早に去っていった。


何て失礼で下品な殿方なの! 

あ~  もう・・・ 目眩がする・・・ 突然殿方に声を掛けられてしまったから・・・


周りに大勢の貴族がいるので、気を遣いすぎてしまったらしい。ふらふらと会場の隅の方へ向かい休憩していると、周りの婦人達から殿方の噂話が聞こえてきた。


「ゲストとして招待されているチュリッヒ家のご令息は独身らしいわよ? 狙うなら絶対今夜がチャンスよ!」


「えーそうでしたの?でも、変人だとお聞きしましたわ?  私はやっぱりこの社交界の主催者エルメール様狙いよ。何とかお近づきになられないかしら」


「私は王族と貴族の殿方に興味ないわ。やっぱり男は強くなくちゃ。デンプル王国将軍のバイオレット様が良いわ!女性の様に美しいのにとても強く、グイグイ引っ張ってくれそう。あー、どうか、かごの中の私を外へ連れ出して!」


「あー、ずるい! あの方は私のお気にいりなのにー!」


貴婦人達が殿方の話で盛り上がり、わーわー きゃー きゃー 騒ぐのを冷めた目で見ていた。

殿方の事であんなに楽しそうに喋れるなんて・・・ いえ、私が殿方に興味が無さすぎるのも問題か・・・ 


「おすすめのワインです、如何ですか?」


「ありがとう」


給仕に声をかけられ、聞くとそんなに強くないワインと言うので緊張を解こうと頂くことにし、一気に小グラスのワインを飲んだ。


このお酒美味しい。初めて飲む味。 


あれ? 頭がくらくらする・・・ 余計に・・・目眩がして・・・ 


もしかして・・・ お酒の・・・ せい? 一杯で酔ったことなんか・・・なかったのに


足元がおぼつかなくなりふらふらと会場の中央の方へ歩いていってしまった。


あれ? ダメダメ そっちへ行ったら人にぶつかっってしまう。


見ると貴婦人達が誰かを囲むようにして一際ひときわ集まっていたが、彼女達を押し退けるようにして中央まで行くと、1人の殿方がこっちを見ていた。


あっ! 


背中を押された感じがしたかと思ったら、前につんのめってしまった。


ガシッ!


「大丈夫ですか?」


気付くと殿方が私が倒れないようにしっかりと抱き抱えてくれていた。力強い2本の腕が私の身体を包み込み服の上からでもしっかりと感じる感触が私を刺激した。


「あっ・・・ えっと・・・ だ・・・大丈夫です・・・ ありがとうございます」


「良かった。頭は打ってないね? 私はこの社交界の主催者エルメールです。体調が悪そうに見える。直ぐに休まれた方が良いですね。休める場所を手配しましょう」


「エルメール様。わ・・・私はファウスト家長女のマルゼラです。もう大丈夫です。 し・・・失礼しました!」


そう言って急いで彼の手から離れて立ち上がろうとした。しかし、彼の2本の手は私を力強く抱き締め続け、二つの目が私を見つめ続けた。

私の鼓動は早くなり、今まで感じた事が無い程胸が高鳴った。


「マルゼラ? もしかして・・・あの時助けた・・・誕生日に贈った花は君に届いていたかな?」


えっ? 白馬の王子様はエルメール様だったの? これが、私とエルメール様との運命の出会いだった。


数ヵ月後、信じられないことに私は彼と婚約し、結婚式の日取りもトントン拍子に決まってしまった。

私は自信をもって前向きに生きようとした。そう・・・あの日までは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マルゼラ・ファウストは愛を知らない  ~追放された女神は占色術師として恋の相談承ります~ 表うら @hodopita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ