第2話 白馬の王子様

はぁ~


今日は私の大嫌いな社交界。

フェレス公爵令息のエルメール様が主催したとの事。 確か同年代で未だ独身だとか。

成人になると子供の時の様に駄々をこねて逃げるわけにはいかない。お父様に迷惑をかけてしまうから。


社交界とはいえ外出時はずっとベールをまとったまま。人見知りの私にとっては逆に相手の顔をまともに見なくて良いので気が楽だった。


妹のリリアはフェレス公爵令息にお会い出来るのを喜んでいる。この娘は地位や顔が良い殿方だと直ぐに飛び付いては飽きてと殿方を取っ替え引っ替えしていた。

とても私の妹だとは思えない積極性。少しでも私に分けて欲しいくらい。

でもしょうがないと思う。リリアは目を引く美人で殿方も釣られてるんだから。


「マルゼラお嬢様、どうかお気をつけて」


「ありがとう、行ってくるわね」

執事のゼイスに声を掛けられ、迎えの馬車に家族4人で乗り込むと、フェレス卿の館に向けて出発した。


「お姉様は意中の方はいらっしゃらないの?」

道中でリリアが唐突に聞いてきた。


「えっ? ・・・うん。特にいないわ」


「未だに、幼い頃に会った白馬の王子様の事をお慕いしているの?」


「別にそう言うわけじゃ・・・」 


「お姉様、私知っているのよ? 毎年お姉様の誕生日に贈られてくる差出人不明からの綺麗なお花、あれは白馬の王子様ではなくて? もういい加減に忘れて、今夜の社交界で白馬の王子様に負けないくらいの意中の殿方を見つけましょう? ねぇ、お母様?」


「・・・そうね」


リリアはそんな事本気で思っていないくせに・・・ 

それに、お母様の適当な返事。相変わらず私に対して興味が無いのね。


リリアの言葉で白馬の王子様の事を思い出した。 

白馬の王子様か・・・ 



************



あれは確か私が10歳の時に街へ外出した時だった。その時期はとても暑くて、街の人達は軽装していた。だけど私は火傷をしないようにベールを被って肌を隠す服装だから、周りからみたら異様に見えたと思う。


運悪く、執事のゼイスとはぐれてしまって入ってはいけない路地裏へ迷い混んでしまった事があった。すると、数人の知らない人達が子犬を笑いながら蹴っているのが見えた。


キャイン! キャイン!


悲痛な声が子犬から聞こえた。


助けなくちゃ!私は子犬に駆け寄り抱きしめて男達からかばった。


「もうやめてください!子犬が死んじゃう!」


「あー?ガキじゃねぇーか? 邪魔だ!」


「ちょっと待て!このガキの身なりを見てみろ!貴族の娘だ!」もう一人の男が叫んだ。


「ほー、俺達ついてるじゃねぇか」


そう言うと、男はナイフを持って私を脅し、ベールを剥ぎ取って更に押し倒てきた。私の身なりをみて貴族の人間だと直ぐに分かったんだと思う・・・


「何だこいつ、魔族の女かよ。 醜い姿を見せるんじゃねぇよ! 早く金目の物を出さねぇと殺すぞ!」 そう言うと奪われたベールを投げつけてきた。


「誰か・・・誰か助けて!」 

このままでは殺される。幼いながらも、身の危険を感じた私は必死に声を振り絞って叫んだ。 


チャリン チャリン


男達の後ろに何かが投げつけられた。見ると、金貨だった。 それを見た男達は脇目もふらずに金貨へ駆け寄っていった。


「こっちだ!」 年は私と同じ位の男の子が私の手を引っ張り大通りまで連れて行ってくれた。


「怪我は無いか?」 


「は・・・はい ありがとう・・・ございました。私はファウスト家長女のマルゼラと言います。お礼をさせてください」


「お礼なんて要らないよ。それより怪我がなくて良かった。その格好で路地裏に入るなんて、狂暴な肉食獣の檻の中へ肉を持って入るようなものだよ」


「あ、 あの子犬は!」


「大丈夫。君が命懸けで守った子犬なら上手く逃げて行ったよ。君は優しいんだな、自分の事より子犬を気にするなんて。なぁ、付き人が居るんだろ? 一緒に探してあげるよ」 


そう言うと私の手を繋いで街中に居るゼイスを探してくれたのだった。探している途中で露店で買ってくれたパンを一緒に噛りながら歩いたこと。彼との会話もとても楽しかった事を覚えている。 その間、彼はずっと私の手を繋いでいてくれ、私も不思議とこのまま手を離したくない気持ちが強かった。 


「また会えますか?」


「どうだろう? 難しいかもしれないな」 


「そうよね・・・ 私、こんな顔だし・・・ 呪われた娘だって陰で言われてるし••• 嫌ですよね?」


「そういう意味じゃない! 俺には君がとても綺麗・・・に見える。呪われた娘なんて言う奴なんて気にするな! それに・・・君は長女と言った。俺が近くに居ると君の婚期に悪い影響を与えるんじゃないかと思ったんだよ」


「ふふふ・・・私、まだ子供よ? そんな事気にしなくても」


「マルゼラ、貴族とはそういうものなんだよ。でも・・・お互い成人した時にもし・・・君に意中の男が居ない時は・・・その・・・舞踏会で俺と一緒に踊ってくれないか?」


「はい! 私なんかでよければ」


「じゃあ、誓いとして僕の大切なブレスレットを君に預けるよ。成人しても君が僕のブレスレット着けていたら、僕は君を誘うよ」そう言うと、彼は私の手首に付けてくれた。それは、見た事のない材質のブレスレットで光に当てると虹色に輝いた。 


「綺麗・・・ ありがとう」 


「マルゼラお嬢様! ご無事で! 直ぐに館に戻りましょう!」ゼイスと数名の衛兵が私に駆け寄って来て連れ出されてしまった。 


「あっ・・・ 待って! 貴方の名前は?」


「私はXXX」 




**************




あの時から、私は彼に一度も会っていない。何処の誰かもわからず、名前も上手く聞き取れなかった。 ただ、リリカの言う通り、18の時から私の誕生日になると花が贈られてくるのは事実。それが彼からの贈り物なのか確証できないけど。

ブレスレットは何故だか分からないけどお父様から公で身に付けないようにと強く言われ、お父様と私だけの秘密となり、お母様もリリカもブレスレットの存在は知らなかった。 


本当は、ブレスレットを身に付けて今夜の社交界に出たかった。もしかしたら彼に出会えるかもと期待して。

でも・・・お父様からあれほど強く言われてしまったから着ける事を諦めた。 

大体、そんな昔の事彼も忘れてしまってるはずだから・・・   私一人が浮かれて身に付けていたら彼もひいてしまうのではないかって。


馬車の中で今夜の社交界の事が頭によみがえり、憂鬱な気分のままフェレス公爵卿の館へ向かうのだった。

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