第8話

「あれに対抗できる武器を考える。それまで、これで時間稼ぎして。

 あまり近すぎてはダメよ。

 おそらく、一定の距離を保てば腕の攻撃は対応できるはず」


 そう言って刀と交換で転送したのは、大型のアサルトライフルだった。

 これであれば、イヴィルズの注意を引きながら戦えるとふんだようだ。


「やってやるぜ。待ってますよ」


 半ば無理やり体を動かすレンジ。大ダメージを受けても、走り出すことができたのはバトルスーツのおかげと、彼の精神力によるものだろう。


 アサルトライフルを両手で持ち、マトリョーシカに近づいていく。

 そして銃の射程圏内に入ると、引き金を引いて射撃を開始した。


 レンジが打ち始めた場所は、ライフルの射程圏内ギリギリであった。

 普通なら持ったばかりの銃の適正距離など理解できるはずもないが、武魏術を継承している彼は既に把握している。


 放たれた銃弾はマトリョーシカの背中に数発ヒットした。

 相変わらず効いているか分かりづらい手応えだが、打たれたことによってレンジの存在を再認識したようで、彼の方を振り返る。


 そして、今度はいきなり4本の腕を生やして伸ばしはじめた。


 レンジは標的を本体ではなく、腕に変更して打ち続ける。

 撃たれたマトリョーシカの腕は蜂の巣のように穴が大量に空いた。

 しかし、すぐに再生して、レンジへの攻撃を再開する。


「マジで効かねぇな」


 再生すると分かっていても敵の注意を引くために、撃つのをやめるわけにはいかなかった。

 時には、左右に体を動かし攻撃を避けながら、応戦する。


 アサルトライフルを撃ち続ければ当然、弾切れを起こす。

 銃を扱うガンナーにとって、リロードの時間というのは命取りだ。


 しかし、レンジは何十発、何百発と撃っているのにもかかわらず、ライフルが弾切れを起こすことはない。


 アビリティアの最先端技術により、武器の転送が可能になっている。

 つまり、銃だけではなく銃弾も転送することができるのだ。


 なので、銃弾が亡くなる直前に、武器庫から弾を移動させて装填させているのだ。


 それを行っているのは、オペレーターである美玲奈だ。

 イヴィルズに有効的な武器を探しながら、銃弾の転送装填も行っているのだ。


 異なる作業を同時に行うこともオペレーターの基本ではあるが、そうやすやすと出来るものではない。

 それだけ、美玲奈の技術が優れているということだ。


「相手は驚異的な再生能力を持っている。このまま戦い続けては、いずれあなたの体力がつきしてしまう。

 それにまだ、腕が増えないとも言い切れない」


 相手の分析をしながら、それをレンジに共有する。

 美玲奈のパソコン画面には、武器庫に保管されている武器の一覧が映っている。

 使用していた刀、凡庸的な銃。

 他にも槍や斧など、多種多様な武器がある。


「こ、これ以上増えたら、さすがに距離保っててもきついっすよ」


 4本腕を撃ち落とすのに、レンジは精一杯だ。

 しかも、少しでも気を抜けば、手痛いダメージを受けてしまうだろう。


「やっぱり、どうにかしてあいつに近づくしかないんじゃないっすか?」


「それも一つの案だけれど、問題なのはその後よ。

 もし、近づくことに成功して攻撃を与えられたとしても、もう一度中から別の個体が出てきたら?」


「う、嘘だろ!?」


 レンジは、マトリョーシカの割れた体から、別の人形が出てくるのを想像して、ゾッとした。


「あれが、どれだけマトリョーシカの要素を含んでいるのか定かではないから断定はできない。けれど、中にいくつもの体が収納されている可能性は高い。

 だから、うかつには手を出せない」


「っくそ。厄介な能力してるぜ」


「……能力。そうか、腕に伸縮限界があるように、個体を生み出すのにも制約があるかもしれない」


 美玲奈はこれまで見てきた、ダルマ、そしてマトリョーシカイヴィルズの情報を整理しだした。

 そして、一番疑問に思っていたことについて考察しだした。


 それは、ダルマをレンジが斬りつけた時だ。

 あの時、ダルマは不自然に飛んで体を横にした。

 そこに、何が意図があるのではないか、と美玲奈は考えた。


「なるほど、そういう事ね。敵の弱点が分かったかもしれない。

 今から武器を生成するから、もう少しだけ耐えて」


 作戦と武器を考え出した美玲奈は、パソコンの画面を変えて、高速でタイピングしていった。


「っえ、今から作るんですか!?」


「ええ。アビリティアには超高性能な3Ⅾプリンターがある。それを使えば、すぐに武器を作ることなんて簡単よ」


 美玲奈がパソコンを使って製作しだしたのは、新しい武器の設計図だった。

 そしてそれを、アビリティアにある武器開発室へと送信した。

 これにより、すぐに3Ⅾプリンターを使って武器が作られることだろう。


「なるほど。っく、それまで持ちこたえてみせます!」


 商店街に発砲音が響き渡る。


 レンジは、イヴィルズの腕の動きに慣れてきて射撃しやすくなっていたが、それは相手も同じだった。

 時間が経つにつれて、敵の攻撃性能は徐々に鋭くなってきていた。


 レンジがもろに攻撃を喰らうことはなかったが、腕の攻撃がバトルスーツにかすり始めてきた。

 彼の体力は無限ではない。それどころか、一般バスターに比べれば少ない方だ。


 それでも、美玲奈が生み出した武器を待つために、引き金を引き続けた。


 そして数分もしないうちに、美玲奈のデスク画面に「生成完了」の文字が表示された。

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