第6話
ダルマの体は上下に割れているような形になっていた。
そのため、レンジからの位置からでも内部が微かに見ることができた。
「っえ、嘘だろ?」
彼がダルマの中をみていると、何かと目が合った。
しかし、ダルマの顔は明後日の方向を向いている。
つまり、ダルマの中に何かがいるのだ。
「……これは、まさか」
美玲奈も中にいる何かをとらえた。
それは、ゆっくりとダルマの体から、外へと出てきた。
質感は先ほどのダルマと似ている。
しかし、絵柄や性別がかなり異なっている。
さらに、全体的に細長い形態をしていた。
つるっとしたそれもまた、2人は人生で見たことがあった。
少女の顔をした、海外のメジャーな人間型の置物だ。
「どうやら、今度はマトリョーシカね」
マトリョーシカ。ロシアの伝統的な人形だ。
それが、先ほどのダルマと同じように、巨大な姿で出現したのだ。
「なんで、こんなばっかなんだ」
レンジにとっては予想外な展開だったようだ。
獣のようなものを想像していたらダルマが現れ、さら倒したと思ったら海外の人形があらわれた。
目まぐるしく変わる戦場の状況に、レンジはついていくので精一杯だ。
「つまり、あの人形屋さんにあったのは、日本の物だけではなったようね」
この柄音商店街は、基本的には日本の伝統的な工芸品や食事が売ってある。海外の観光客が多いからだ。
しかし、国内からの観光客ももちろんいるため、メジャーなお土産品を揃えているお店も多々ある。
ダルマの体を抜け出し、直立で立っているマトリョーシカのイヴィルズ。
しばらくレンジと睨み合い、先に動いたのはイヴィルズの方だった。
先ほどの形態と同じように、今回も胴体から人間の腕のようなものが生えてくる。色合いは、赤と黄色をメインとしたカラフルなもので、だいぶ派手な二本腕となっていた。
レンジ目掛けて伸び進む腕。しかし、スピードはそれほど速くなく、簡単に目で追うことができる。
「なーんだ、さっきと変わんねぇじゃん」
見た目や柄は大幅に変化したものの、ダルマ姿の時となんら変わらない攻撃を確認して、レンジは余裕の表情で刀を構える。
そして、流れるような剣さばきで、両腕を切断した。
「このまま行くぜ!」
斬り飛ばしたことにより本体との距離が離れてしまったので、再度詰めようとした。
しかし、それを美玲奈が止めることとなった。
「まだよ! 腕はまだ動いている!」
ダルマの時は切断すれば、電力を失った機械のように、パタリと地面に落ちていった。
だが、マトリョーシカの腕はいまだに宙にあった。
「っえ?」
美玲奈の言葉を聞いた瞬間、マトリョーシカの腕が不気味に振動し始める。
そして、腕の細胞がボコボコと動き出し、なんと再生し始めたのだ。
手の部分を再生した両腕は、再びレンジに襲い掛かった。
「嘘だろ!?」
不意を突かれたレンジ。しかし、美玲奈の注意喚起が速かったおかげで、なんとか攻撃に対応することができた。
またも両腕の切断に成功したが、腕の再生が止まることはなかった。
「戦葉くん、下がりなさい!」
斬っても復活し続けるそれをみて、美玲奈は危険を感じた。
本体に近づいて攻撃をしたくても、再生する腕の猛追によって、足止めを喰らっていた。
「さ、下がれっていったって」
攻撃事態は速くなくても、再生スピードの方は凄まじかった。
腕を斬り落として逃げようとしても、いつの間にか再生して、レンジを逃がそうとしなかった。
「片方ずつでは、相手に生成の隙を与えてしまう。両腕を同時に切断するのよ」
左腕を斬り落とし、次に右に斬撃をお見舞いすると、すでに左腕が復活している。というのが今の状態だった。
そのため、同時に切ることができれば、僅かながら逃げる時間を稼ぐことができる、と美玲奈は考えたようだ。
「りょ、了解」
自分の実力で出来るかは分からない。しかし、今はやるしかなかった。
レンジは全ての攻撃を斬ることで対応していたが、今度は攻撃を避けはじめた。
こうすることで、相手の攻撃が同時に来るタイミングを計ろうとしているようだ。
そしてその瞬間は、すぐに訪れる。
「……」
片腕では捉えることができないと判断したのか、こちらの思惑通りにイヴィルズは、腕を同時にけしかけてきた。
「待ってました!」
頭上から迫るそれを、レンジは力を思いっきり込めた切り上げで迎撃する。
タイミングは完璧で、ほぼ同時にマトリョーシカの腕を斬り落とすことに成功した。
「今よ、後退しなさい」
これから腕が再生するのに、僅かながら時間を要する。
レンジは急いで振り返って走り出そうとした。
しかし、振り返る前にマトリョーシカと目が合い、驚くべき光景をまのあたりにした。
マトリョーシカの胴体から、さらに2本の腕が生え始めたのだ。
それも同じように急成長していき、レンジの方へ向かってきた。
それと同時に、先発していた腕も再生をしはじめる。
「化け物かよ」
レンジの本音がふと漏れた。
見たことのある見た目に、対処できなくない攻撃。
だから油断していたのだ。
しかしここで、自分が相手をしていたのが「宇宙生物 イヴィルズ」だったことを再確認させられた。
「よ、避けなさい!」
驚いているのは美玲奈も同様だった。彼女の場合は油断していたわけではないが、再生する腕の対策に頭を使っていたので、この展開は予想していなかったようだ。
レンジは指示通り、体を捻じ曲げて回避をしようとした。
しかし、4方向からの攻撃を避けれるほど、レンジの体は俊敏に動くことができなかった。
「っぐは」
レンジの腹に、強烈な拳が4発も叩き込まれた。
バトルスーツを着ているとはいえ、イヴィルズの攻撃を受ければ、ダメージはもちろん受ける。
強烈な痛みと衝撃に耐えられず、レンジは軽く吐血していた。
攻撃を受けたレンジの体は、蹴り飛ばされた空き缶のように、いとも簡単に後方へと吹っ飛ばされた。
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