第4話
「イヴィルズが出現したようね」
「マ、マジっすか!?」
イヴィルズ出現のアナウンスを聞いて、2人は対照的な反応をした。
聞きなれているであろう美玲奈は顔色を変えることはない。
しかし、今日がここに来て初日なレンジは分かりやすいぐらい動揺していた。
「……対象は1体ね。それなら、初陣としては悪くない」
美玲奈はスマホを取り出すと、指令室から送られてきた情報を確認していた。
イヴィルズ討伐の流れは、発見→本部が確認→そこからアナウンスと共に出勤中のオペレーターとバスターに情報が送られてくる。
その後は、出動可能なバスターが申請をして、指令室にいる本部長の許可が出れば出動ということになる。
事務作業的なので、ほとんどはオペレーターの仕事である。
「今、初陣って聞こえたんすけど……」
「その通りよ」
「いやいや、嘘でしょ!? 俺、今バトルスーツ来たんですよ! 練習もなしに……って、あ」
レンジは自分で言いながら気づいた。自分のことは自分がよく分かっている。
これまでレンジは、練習というものをほとんど経験したことがない。
「バトルスーツが上手く機能するかを確認はしたかった。けど、戦闘に関しては訓練の必要はない。アビリティアの武器に慣れる必要もない。
あと、必要なのはそうね……戦う意志ってところね」
美玲奈はレンジをじっと見つめた。
オペレーターは通信システムを使って戦いの補助や戦略を考える。
しかし、実際に戦うのはバスターだけだ。
「そういうことか。ぶっつけ本番、考えてみればいつも通りっす。相手が化け物なだけ。
ここに来た時点で覚悟は決まってたんだ」
焦りが表情に出ていたレンジだったが、今は美玲奈の瞳を見返していた。
すでにバトルスーツを装着していた、というのも気合いが入った理由の一つかもしれない。
今のレンジは、負け続けて自暴自棄になっていた男ではない。
正式に認可されたバスターなのだ。
「上出来ね。ま、もう申請は送っているのだけれど……、どうやら上もそう判断してくれたみたいね」
美玲奈のスマホには、【出動許可】の文字が映し出されていた。
それをレンジにも見えるように、画面を向けた。
こうして、レンジは本部についてすぐに、初任務をこなすことになったのだ。
◇◇◇
それもあって観光客も多く、普段は外国人も多く見られる。
その中でも一番有名なのは、お土産屋やかき氷のような軽食やお菓子を売っているお店で賑わっている
夜中になると飾られている提灯がライトアップされて、年がら年中夏祭りといった具合の場所だ。
しかし今は、その伝統的な輝かしさが失われていた。
昼間というのに人の影形がない。
お店のシャッターは上がっているのだが、店員もお客も姿は確認することができない。
店によってはひどく荒らされている形跡があった。
伝統工芸品などを販売しているお土産屋のようだ。
「ここにイヴィルズが」
新人バスター 戦葉レンジは商店街の南口に来ていた。
人がいないために、見た目の華やかさに反して異様な静寂さだ。
付近の交通網もストップしているのか、車の走行音なども聞こえてこない。
「ターゲットは1体。だけど、油断はしないで」
レンジが被っている簡易ヘルメットから、美玲奈の透き通った声が聞こえてくる。
現場に来るバスターに対し、オペレーターは訓練室にあるOPルームにて指示を出す。
OP室には主にパソコンなどの電子機器が置いてあり、その前で美玲奈はインカムをつけている。
「了解。けど、敵が見当たらないような」
「どこかに身を潜めているのかもしれない。くまなく探すのよ」
ここがイヴィルズを補足した場所なのは間違いないのだが、その姿を確認することはできていなかった。
レンジは目を細めて、商店街を注視する。
美玲奈には現場の映像は、ヘルメットやバトルスーツに取り付けられた高性能カメラでリアルタイムで送られている。
「あそこのお土産屋さん、微かに物が動いたかもしれない」
ヘルメットにつけられた透明なアイシールドは内側が液晶画面になっていて、オペレーターはそこに文字やマークを出すことができる。
美玲奈はその画面に円型のカーソルを出すと、それを奥にある土産屋に移動させる。
レンジはそれに気がつき、そこに目をやる。
確かに、彼女の言った通り古い日本人形や西洋的なデザインの人形などが揺れて地面に落ちていっている。
ここは、人形や飾り物を扱っているお店のようだ。
「どうやら、中にいるようね」
レンジはそれを聞いて生唾を飲み込んだ。
自らの意志でここに来たわけだが、まだイヴィルズとは対面したことがない。
緊張感が彼の体を蝕んでいく。
そして、ついにその全貌を目の当たりにすることとなる。
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