story1-21 本当の意味での初デート
「……なんかいつもより視線を感じるな」
それだけ俺とアリサさんのデートが衝撃を与えたのだろう。
実際、ダンジョンでの偶然の接触がなかったら今回のデートは実現しなかったわけだし。
とはいえ、デートはデート。
どんな服装で来てくれるだろうか。
ぶっちゃけアリサさんがジャージでやってきたとしても、俺は全力で褒めちぎってみせるけどな。
ソワソワしながらも頭の中で妄想を繰り広げる。
「お待たせしました」
そうそう、こんな感じで清楚なお嬢さん――
「――天使?」
「いつも思いますが、あなたの目は節穴ではないでしょうか」
「すいません。女神でしたね」
「いえ、上方修正を求めたわけじゃないのですが」
どうやら夢じゃなかったようだ。
この心臓が引き締められる冷たい目ができるのはアリサさんしか知らない。
少し大胆な鎖骨が覗けるほどに首口が広めの白セーター。下は膝下まで伸びたデニムでまとめ、ゆったりとした動きやすそうなコーデ。
清楚な雰囲気が色白なアリサさんにとてもマッチしていた。
今から画家を呼んで、この姿を絵に残したいほどに。
「とても似合ってます」
「ありがとうございます。でも、レイジさんはどんな服を着ていても同じことを言いそうだ」
「なんなら後で提出しましょうか、感想文」
「自分を美化された文章を読むのは、恥ずかしいので遠慮しますよ」
「それは残念だ」
軽口をたたいた俺は肩をすくめると、そのままアリサさんの手を取る。
今まで許可を尋ねては断られていたので、流れに任せて自然にいったが反応はどうだ……!?
「…………」
む、無表情……!
この判定はDIE or DEAD のどっちだ?
あっ、どっち選んでも死んでるじゃん、俺。
「……レイジさん」
「はい、なんでしょうか」
「今日はどういったエスコートをしてくださるのですか?」
「通報だけは勘弁を……って、え? 怒ってないんですか?」
「怒るもなにも、今日はデートをする約束でしたから。私もデートの常識くらいは知っているつもりです」
もちろん出過ぎた行為をしてきたら即座に終了ですが、と付け加えるアリサさん。
つまり……。
「手をつなぐのはセーフ?」
「この程度なら、今日の私は拒絶しません」
「アリサさん……」
「はい、なんですか?」
「好きです」
「知っていますよ、毎日聞いていますから」
クスクスと声を漏らして、微笑むアリサさん。
いつもだったら一刀両断されているのに、今日のアリサさんはすべてを受け入れてくれている。
デートという言葉はここまで人を変えるのか。
それなら毎日、デートしたい。
そのためにもアリサさんに好きになってもらわないと……って無限ループか、これ。
結局いきつく先はにっちもさっちもアリサさんが惚れるような男になることってわけだ。
なら、目いっぱい格好いいところを見せないとな!
「歩きましょうか」
俺はつないだ手を引いて、メインストリートを歩き出す。
アヴァンセではメインストリートにすべての屋台を配置し、一直線に進むことでいろんな屋台を楽しめる構成になっている。
こうしておけば外部からやってきた、初めてお祭りに参加する人たちも迷うことはないだろう。
「自分で言うのもなんですが……まさかあなたとこうして歩く日が来るとは思いませんでした」
「俺の想いが伝わり始めている証拠だ」
「そうですね。飽きるほどあなたの愛情は浴びていますから」
「……その表現エロいですね」
「解散しますか?」
「あそこで飲み物買いましょうか、そうしましょう」
嘆息するアリサさんと並んで、それぞれ飲みたい商品を注文する。
すると、店主のおっちゃんはニヤニヤと俺たちを見比べると、予想通りちょっかいをかけてきた。
「お二人さんはデートかい? 初々しいねえ」
「お似合いだろ?」
「おうともよ。お前さんにはもったいないくらいの別嬪さんだな」
「俺もそう思う。一目ぼれしたからな」
「それで即行動ってか。なんにせよ、めでたいな!」
なかなか性格のいいおっちゃんのようだ。
人を見る目も鍛えられているようで、こちらが不快にならない程度に話題を振ってくれる。
「おっちゃん、この街の人じゃないだろ」
「普段はエルナムで鍛冶師をやってるんだが、わざわざ祭りの日までダンジョンには潜りたくねぇからよ。稼ぎにやってきたんだ」
鍛冶都市・エルナム。世界で冒険者が使用する武具の流通の半分を占める国内で王都の次に重要視されている街だ。
ここが崩壊すれば人類が抵抗するための武器の多くを失ってしまう。
武器の出来具合は冒険者たちの命を大きく左右させる。
世界中の命を預かるエルナムには一定レベルの技術を持つ鍛冶師しか住むことは許可されていなかったはずだ。
ということは、この筋骨隆々としたおっちゃんは繊細な感覚も持ち合わせている鍛冶師ってわけか。
「でも、よくわかったな。俺を知ってる冒険者か?」
「冒険者だが、俺はこの街じゃちょっとした有名人だからな。反応の違いでわかるんだよ」
「ほう。けっこう腕が立つわけだな」
商売相手を見つけたとおっちゃんの目は銭マークに変わる。
大きく身を乗り出したが、それを手で制した。
「そういうのは、またいつか。今はジュース売りのおっちゃんとただの男でいようぜ」
「ガハハッ! それもそうだ。無粋なことをしたな」
「いいってことよ。はい、二人分ちょうどな」
「おう! またエルナムに寄ったら来いよ。ガルチって人に聞けばわかるとおもうぜ」
「そうか。俺はレイジ。その時は世話になるよ。じゃあな」
「まいどあり! 待ってるぜ!」
ガルチから注文したフルーツジュースを受け取ると、俺とアリサさんと再び足を動かす。
「すいません。ちょっと話し込んじゃって」
「いいえ、構いませんよ。今日はレイジさんのための日ですから。あなたが楽しめるように私は付き従うだけです」
その言葉を聞いて、悲しくなった。
俺への態度にではない。
アリサ・ヴェローチェの在り方があまりにも雑すぎることに対して。
たまには遠慮しないでみよう。
自分を顧みないアリサさんに俺はちょっとだけ踏み込んでみることにした。
「……アリサさんってけっこう子供っぽいですよね」
「……今、なんと?」
「アリサさんって頑固で子供っぽいところがあるって言いました」
ダンジョン【鏡の世界】で遭遇した時もそうだけど、彼女は自分が幸せから遠ざけようとしている。
今日も本当に俺が彼女とのデートを望んだから、アリサさんは付き合ってくれているのだ。
そんなのは楽しくない。
誰だって思うに決まっているし、投げ出す男の方が多いんじゃないだろうか。
「あなたの口から、そんな言葉が出るとは思いませんでした」
「俺はアリサさんを楽しませるためのスケジュールを組んできたので、やる前からそんな気分でいられるのは嫌ですから」
「それは私の勝手では?」
「今日は俺のための日なんでしょう?」
そう言い返すと、アリサさんは眉間にしわを寄せた。
しかめっ面の彼女もまたかわいい。
俺は彼女に面と向かって話す。
「一人より二人が幸せの方がいいに決まっているじゃないですか」
ちょっとだけ彼女の手を握る力が強くなる。
揺さぶられているのか。
俺の言葉は彼女の心に届いているのか。
わからないけれど、俺がやるべきことは彼女に出会った日から決まっているのだ。
だから、ありのまま告げた。
「今日はアリサさんが幸せでいれるように俺、頑張りますから。覚悟しておいてください」
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