story1-3 初めてのクエスト!
本日も快晴。絶好のお出かけ日和だ。
こんな日にアリサさんとデートをできれば、どんなに幸せだろうか。
爽快な風が吹く平原で、彼女の手作り弁当を頬張るのだ。
麦わら帽子に水色のワンピースを着てもらって、笑顔を振りまいてもらいたい。
コンディションだけでなく、妄想でも今日の俺は絶好調。
胸に素晴らしい光景を浮かべてドアをくぐる。
むさくるしい男どもが立ち並ぶ中に一人だけ神々しく輝く場所があった。
あまりの眩しさに一般人は近寄ることすら阻まれるのか、人っ子一人いない。
俺は迷うことなく、その窓口を使う。
「こんにちは、アリサさん。あなたの顔を今日も見に来ました」
「こんにちは、変態さん。本日のクエストはどれにしますか?」
「じゃあ、報酬でアリサさんをもらえるクエストを一つ」
「…………」
「報酬でアリサさんをもらえるクエストを」
「しつこい男性は嫌いです」
「昨日頼んでおいたフィナと一緒に受けれるクエストでお願いします」
「最初からそう言ってください。こちらが事前に獲得しておいたクエストです」
あの後、翌日からパーティーの活動をスタートさせることが決まった俺はアリサさんに頼んでフィナが経験を積めるクエストを事前に確保しておいてほしいとお願いしていた。
普段なら拒否される行いだが、そこは俺の冒険者ランクがものを言う。
ギルド長にも話を通しており、今回は許可をもらっている。どうやらフィナも将来が有望な新人らしい。
アリサさんが担当になったのも俺とスムーズに組ませるためだったとか。
先日、アリサさんが室長室に赴いたのは俺のセクハラを訴えるためではなくフィナについて呼び出されただけだったらしい。
「どうでしょう? 彼女は魔法を得意とするようですし、まずは成功体験を得るためにも野良ゴブリンでいいのではないかと」
「同じ意見です。なにより彼女には自信をつけて欲しい。少し話しただけですが、どうも自分を卑下する癖があるので」
「ええ。彼女には自分の実力を正確に認識してもらわねばなりません」
「もし天狗になってしまっても俺なら矯正できます。過去に経験済みですから」
「そういえばいましたね。魔法を覚えて調子に乗って、私に怒られたバカな子が」
「ははっ、立派に成長して愛と夢に生きてます」
「私は教育方法を間違えてしまったかもしれません。あの時の子供の告白がここまで続くとは……」
ジトっとこちらを見つめると、アリサさんにこめかみを指でグリグリとされる。
ああ、懐かしい。あの頃はこうやって生意気するたびにアリサさんに怒られたっけ。
……あの事件さえなければ、彼女とこんなやりとりをする日常があり得たのだろうか。
アリサさんが冒険者を引退することになった魔王軍との戦いによるパーティー全滅さえなければ……。
「……どうかしましたか? 珍しく大人しいですね」
「……いえ、どうやったらアリサさんが振り向いてくださるか口説き文句を考えていまして」
「一生来ない未来に時間をかけないで、もっと違うことをしなさい。あなたならば王都でも活躍できるでしょうに」
「お断りします。俺は諦めませんよ、アリサさん。あなたを幸せにするのは俺の夢ですから」
「……そう、ですか」
彼女は彼女で譲らない想いがある。
俺は事件の概要を知っただけで、自ら引退という選択肢を選んだ彼女の気持ちはわからない。
アリサさんの口から聞けるまでは俺が適当に語るべきではないことだ。
それと同時に俺にも意地がある。
この想いは助けてもらった恩だとかではない。
一目惚れし、共に過ごした時間で想いを深め、ずっと育ててきた。
互いに視線を逸らさず、無言の空気が流れようとしたがそれはもう一人の来訪者によって破られた。
「おはようございます、師匠! アリサさん!」
弾む天真爛漫な笑顔。見ているこちらまでほんわかとさせる。
重く沈みかけていた雰囲気も霧散して、俺もアリサさんも微笑みを浮かべた。
「おはようございます、フィナさん」
「おはよう、フィナ。待ち合わせよりちょっと早かったんじゃないか?」
「えへへ、楽しみでなかなか寝付けなくて……お二人はどんな話をしていたんですか?」
「ああ、アリサさんと俺の将来設計について話し込んでたところさ」
「息をするように嘘をつかないでください」
「アリサさんは照れ屋さんだなぁ」
「なるほど……これがソロでもやっていける図太い神経。勉強になります!」
煽ってるのだろうか。いや、これが彼女の素の性格なのだろう。
ただただ純粋なだけなのだ。どんな生き方をすれば、こんなきれいなままに育つのか疑問を持つほどには。
「もう雑談は終わりです。気をつけていってらっしゃいませ」
そう言ってアリサさんは頭を下げる。
これ以上ここに張り付いていても好感度が下がるだけなので、ちゃんと離れよう。
しつこくアタックするだけではダメ。時には引くことが大切なのだと本で読んだ記憶がある。
「よし。それじゃあ、さっそくクエストにでも行ってみるか」
「はい、師匠!!」
元気いっぱいの返事がギルドに響く。
「おいおい、次はロリコンでも目指すのか?」
「年端もいかない女の子に手を出すなんて……」
「さすが変態。えげつねぇぜ」
となれば注目を浴びて、また俺の悪評が流れるわけだ。
「……フィナ。返事は普通にしてくれていいからな」
「わかりました!」
「何もわかってねぇだろ、お前」
「す、すみません。大きな声じゃないとクラスメイトに気づいてもらえなくて……。つい癖でやっちゃいました」
「すまん、俺が悪かった。これからはどんな時でも反応するからな」
「えへへ……ありがとうございます」
この子には優しく接してあげよう。
【ぼっちウイッチ】とか二つ名考えていてごめんな。
心の中で謝罪した俺は彼女とパーティーをやっていくうえで、もっとフィナのことを知る必要があるみたいだ。
「フィナは魔法学院生だったんだよな?」
「そうです! そこで冒険者になった先輩である師匠の噂を聞いて、私も冒険者を目指しました!」
「だいたいでいいから学院時代の成績を教えてくれ」
「い、一応、首席です。勉強しか取り柄がないので……ど、どうでしょうか?」
「……フィナ。魔法はどのレベルまで使える?」
「えっと……雷系が得意で第三節まで。他は第一節ならカバーしている感じです」
「そうか。凄まじいな……」
「そ、そうでしょうか」
「ああ、誇っていいことだ。その年齢で出来る芸当じゃない」
この世界の魔法は第一節、第二節、第三節……と詠唱に必要な節の数だけ、必要な魔力量も魔力制御の技術が必要になる。
節が多ければ威力もけた違いに変わるのだが当然、詠唱の難易度も難しくなる。
第三節ともなればCランク冒険者でも自由に扱える人数は少ない。
たとえ一属性だとしても第三節階級の魔法を使えると断言できるのは、それだけで凄まじい才能だ。
ギルド長が自ら期待していると話すだけのことはある。
思わぬ才能との出会いに感動を覚えていると、フィナは褒められて頬をほころばせていた。
「努力が実って嬉しいです。友達と遊ぶこともなかったので、ずっとお家で勉強していた甲斐がありました!」
「今度、一緒にご飯食べに行こうな! 買い物とかもしよう! 遊びに行くのもありだな!」
「本当ですか!? 嬉しいです!!」
俺の提案にフィナは瞳を輝かせて何度もうなずく。
なにはともあれ、方針は決まった。
「フィナ。冒険の準備はできているか?」
「ちゃんとバッグに入れて持ってきました!」
そう言って彼女は背負っているリュックサックを見せてくれる。
それなら特に言うことはない。
俺たちはパーティーとして初めてのクエストに赴くことにした。
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