嫁くんと旦那ちゃん①

僕らは夫婦だ。Vtuberを生業としている旦那ちゃんと、主夫の嫁くん。

現代社会においてはかなり珍しい夫婦の形となるだろう。僕は嫁、だから嫁くん。彼女は旦那、だから旦那ちゃん。稼ぎの殆どは旦那ちゃんである電脳 海美で、僕こと宮本 晴(ミヤモト ハル)は軽いバイトこそすれ殆ど専業主夫だ。

不安定極まりない生活を送る海美を支えるのが僕の役割で生き方だ。


「ん、んんん~~~」


体力の限界を感じる声を発しながら、僕がまだ寝ているベッドの中にもぞもぞと何かが潜り込んできたところで、僕はまどろみから目を覚ました。


「にゃに?」


寝ぼけ声の寝ぼけ眼で布団をめくる。


「―――(寝息)」


そこには下着姿で静かに寝息を立てながら僕の胸の上に覆いかぶさっている海美の姿があった。


「ブフっ!!」


「お、氷魔法……――――(寝息)」


「殿中でござりますよ!?」


「んにゅ~、もこのまま寝るぅ~~~。おやすみ……」


海美はまた眠りにつき、僕は余りに刺激的な目覚めのせいで完全に目が覚めてしまった。時計を確認すると、朝6時を指そうとしている所だった。


「~~~! 僕って男なんだからね? あんまり誘惑すると知らないからね! ん~~~! ちょっと早いけど、もう起きちゃお~」


1つ伸びをして、海美の寝ている体勢を整えて、枕を頭に敷き、布団をキレイにかけ、僕は部屋を出た。朝の準備も終えてリビングへ。キッチンへ向かい冷蔵庫からペットボトルのコーヒーを取り出し、コップに注いでゆっくりと飲んだ。


(海美、こんな時間まで配信してたのかな? それとも寝れなくなっちゃって眠くなるまで起きてたとか? しばらくは昼夜逆転生活かもな~)


彼女の生活は不安定そのものだ。昼夜逆転、料理は出来なくもないが、レパートリーなどから考えて、栄養の偏りも懸念される。それに料理する気力なんて湧かずに、コンビニやスーパーのお惣菜や弁当、配食サービスなんかに頼り切ってしまう事もあるだろう。


(まぁ、お惣菜やお弁当に救われる時も多いけどね。料理って基本的には面倒臭いし、高く付いちゃう時もあるから、家庭料理=正義ってわけじゃ一概に言っちゃいけないんだよね~)


これは料理をする身だからこそ分かるありがたみだ。感謝感謝。世界は優しさと感謝で廻っている。といいなぁ~と思う。


「さて、僕には朝ごはんを、あなたには多分……お昼過ぎに起きてくるかな? うん、お昼ご飯を」


こうして僕、Vtuberの嫁くんは動き出す。


宮本 晴。年齢は28。職業(?)専業主夫、Vtuberの嫁くん。人生山あり山あり山あり谷あり、いくつもの苦境を乗り越え紆余曲折、ちゃんと暮らしています。


今現在2階で寝ている彼女は宮本 空。旧姓:佐々木 空。年齢は27。業界4大箱の1つ、V2WINビートゥインに所属するVtuber。

Vtuberとしての名前は電脳 海美。愛称はウミミ。電脳世界の情報の海より生じた少女で、形成される時にヲタ知識を取り込み過ぎた為、完全にヲタライバーとして生まれたという設定……いや、経歴らしい。好きなものはゲーム、アニメ、マンガや小説、あと可愛い女性ライバーで、現在のチャンネル登録者数は43.2万人。今箱内でも勢いのある女性ライバーとして注目されている。

ライバーとしての性格は殆ど空本人の性格のままであり、彼女自身ヲタク丸出しの性格の為、ある意味では裏表が無いという事になるだろう。


そして、そんな僕ら夫婦は、結婚してまだ3ヶ月の新婚……ちょっともう新婚とか言えないくらいの夫婦であり、この家は彼女の両親が住んでいた家だったりする。彼女の両親については語る時が来たら語るとして、僕ら夫婦は特殊な呼び方で生活をしている。

僕は彼女からは嫁くんと呼ばれており、僕は彼女を空とは呼ばない。旦那ちゃんもしくは海美、もしくはウミミだ。これは主にネット上で生活している彼女に合わせる為にそう言った呼び方をしている。

それが僕らの夫婦の形。ヘンテコかもしれないけど、それはとても居心地が良くて、とても幸せなのだ。

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