誕生日と海とヒーロー

八坂終夜は《秋月末期》という名前で動画配信をしたり、作家をしたり色々としている。

この度数年振りに出したホラーでは無い、

普通の小説がそれはそれは大層な賞を受賞した。

そのお陰で今日1日24時間は受賞式やらなんやらがあるし…と異界の頭でっかちな人達から外出を許可されたので俺は上機嫌だった。


顔出しはNGなので、テレビや紙面には載らないけれど現地で挨拶したりがあるので朝から

いい感じに髪を切って、数年振りにいいスーツを新調した

なんなら眼鏡も新調した。

いつもは限られた場所でしか走る機会が無い愛車も喜んでいる気がした。


そして何より町子ちゃんが昨晩のニュースで

俺の名前が出た瞬間とてもとても喜びはしゃいでいたのだ、抱きしめたいくらい嬉しかったけど

俺は正体を伝えて無いし知らないふりをした。



朔はその光景をみて面白くなさそうにコーヒーを飲んでいた。


いいタイミングだと

前から気になっていた朔の今後を少し話した。


「朔夜さ、音楽やりたいの?ずっと?」

「…まぁ…」


気まずそうにカップを見つめている。


「専門行けば。学費くらいなら出すし山ちゃんみたいに怪談師とかホラーめっちゃ好きみたいな何かしら設定つけたら許可降りるし」


いくら姿形が人と変わらなくても自分達は化け物でしかなくて、人の恐怖心や語り継がれるうわさが無ければ生きては行けないのだ。

現に消えていった種族も沢山居る。

逆にネットの掲示板から生まれる新しい怪異も

沢山居る。

新しい怪異の調査やこの世に存在していいか、いけないかのジャッジは俺の仕分けに掛かっていたりする。

もし、朔夜が俺の桁外れなスコアを抜くか俺が死ねば多分朔夜の仕事になるだろう…なかなかメンタルに来る仕事内容だから心配だったりはする。

高崎は《感情を読み取る、自白させる》ような変わった加護があり警察やらそちらに行けと上に言われていたが何故か銀行員になった。

確かにある意味重要ではあるが何故かは俺も知らない。


自分達のような人では無い妖怪やら怪異の子は17.18で進路を物凄く悩む。

これは人の子も同じか…



最初は駒としか思ってなかったけど、弟は弟だ。

昔の自分に似てる分身のような


「専門、必要かな。」


「じゃね?ギター教室とかでもいいし…でも学校って無駄では無いと思うよ。ギターは自力でやりたいけど他にとりあえず生きるための資格取りたいのならなんか取れよ。後車な、車は必要」


「たしかに…機材運んだりも車じゃ無いと…」

朔は車は取りたいと少し興味を示した。



そんな昨晩の会話まで思い出したが

このままだと話の内容が大幅にズレてしまうので一先ず朔夜のこれからは置いておこう。


ホラー系に関わる何かをやりたい場合

は嫌な話割と俺たちはコネみたいなもので

有名になりやすかったりはするけど

ホラー要素が無い純粋な書き物は協力はしてもらえないから自分のみの力だ。

だからこそ尚更受賞は嬉しかった



式は12時からスタートなので微妙に時間があるなと思いながら駐車場でコーヒーを飲みながら町子ちゃんのTwitterを見ていたら最新が2分前だった。


《受賞のお祝い何を送ったらいいかわからなくて前と同じようにお手紙あと、サイズがわからなかったけど素敵な指輪を送った!!先生の好みならいいけど…》


とjustindavisのショップの画像が載っていた。


町子ちゃんの普段の節約ぶりを見ていたからこそ涙が出そうになった。町子ちゃんからしたら大金じゃないか…

せめてTwitterに載せてあげよう…と

思いつつ昨晩のツイートを見ると気になる文があった


《私の誕生日はいつもなんで生まれたのだろうって苦しいものだったけど、今年は先生が受賞したからきっと書店も受賞作を並べたりするだろうしみて回るのが楽しみ!》

それに鍵垢がリプしている。

町子ちゃんはこれに数分前に返事をしていて


「12日!学校休みだし家で本読んでるからよかったら遊びに来てください( ´∀`)」と書いてある


明日じゃん。は?明日誕生日?聞いてないんですが?と俺はパニックになった


そして恐らく鍵垢の持ち主から着信が来た


「もしもし…あんたTwitterみた?」


歳上に向かっていきなりのタメ口である


「みた…誕生日?」


「私今から収録なの、とりあえず朔にラインしといたから明日なんかお祝いしましょ!」


と言い残し一方的に通話を切られた

とりあえず高崎に連絡だけ入れて俺も授賞式へと向かった。


写真は撮らないがお偉いさんに紹介されたらサインは書かなきゃいけないし、ずっとヘラヘラしていないといけないし疲れたけれど

物書きを続けてよかったなと思えた。


この空間に来れて本当に良かった


式や挨拶も終わり車内で明日のことを考えていた。

プレゼント…

年頃の女の子が喜びそうな物…


町子ちゃんならレゴのジュラシックワールドの持ってない奴とか…服やカバンもいいかな…と

悩んでいたら一つ思いついたものがあった。

ある意味賭けではあるけれど


結構前のツイートに好きだと書いていたし…

とイメージに合うものを探しに行くことにした。

外出のタイミングで助かった


ハイブラからチープなものまでひたすら見たけど

結局justin davisでぴったりなものを見つけたのはいいけれど、現物在庫が無くて近場の在庫がある店舗に向かったり我ながら手際が悪かったが理想の物が手に入った。

一応冷静になってこれ渡せないわって事も想定して

町子ちゃんらしいレトロな可愛らしい文庫カバーも買った。


りっちゃんに飾る花も少し奮発した。


その時朔から連絡が来た。


「さっくんどうしたん?通話珍しいね」


「兄さん、明日町子の誕生日なんだけど一緒に祝ってくれる?」


おせーよと思ったけど「当たり前じゃん」

と即答した



「兄さん、受賞おめでとう。今日だっけ」


「今からお偉いさんとご飯だよ。めんどくさ」

と少しだけ嘘をついた。


「俺今日スタジオ夜からで次のライヴのミーティングもやるから多分帰り朝になるし町子流石に怒るかな…」


悩めるギター少年。


んー…と少しだけ間をおいた。

「明日お祝いをきちんとしよう。朔がプレゼントとケーキを持って帰ってきたら町子ちゃん喜ぶんじゃないかな。」


「ケーキ…わかった。プレゼントは決めてるし…俺あとケーキ買うわ!」


満足したようで朔は練習に行くと言い残して通話を切った。



今の時間19時。高崎呼んでどっか飲み行くか

と思ったけど町子ちゃんバイトならみっくんの世話があるか…と誘うのをやめた。

朔が練習ならバレないかなーといたずら心が

芽生え

新宿の駐車場に車を置いて町子ちゃんのバイト先付近に行ってみたけど妙に恥ずかしくて

メイドかー…入るのは無理だなーとそわそわして

帰ろうとしたらちょうど町子ちゃんと、

数人の女の子が出てきて料金表を持って呼び込みを始めた。


新宿の街にメイド…中々シュールだなと思った。

他の子はパッとお客さんを捕まえて中に戻るけど町子ちゃんだけは一人で苦戦していた


「町子ちゃん」

結局我慢できず町子ちゃんの元に行き声をかけてしまった


「え!?シュウさん?ここ新宿ですよ!?」

町子ちゃんは慌てている


「実は俺も今日賞を取ってね。品川で表彰だったのよ。24時間は自由なんだよねだから…会いにきた」


「あ、えっと…おめでとうございます!知らなくてごめんなさい」

「言ってないからね、いいんだよ」

何度も頭を下げるのを必死に止めた

反応がやっぱり可愛らしかった



「今日何時まで?」

「今日は22時です!早番なので」

「じゃあ一緒に帰ろう。それまで町子ちゃんのお店にいてもいい?」


何故か町子ちゃんの頬が赤くなる

「いいの?でも、町子のお店…楽しいかな…」


「授業参観みたいなものだよ」

と言って頭を撫でると「授業参観!!」

とにっこり笑った。


狭いエレベーターに乗り込み

町子ちゃんは5階を押した


「シュウさん…髪の毛切ったのですね似合ってます」


「伸びまくりだったからね、サッパリしてきたよ」


妙に…何故か緊張する。


「いまの髪型…前のも似合ってたけどもっと好きです!」


そう言って振り返らずエレベーターを降りる

せっかく計画の日まで

優しい家族で、いいお兄さんでいたかったのに

自信がなくなる


案内されシステムの説明を受ける

「町子ちゃん、指名とかボトルバックあんの?」


「今日は町子と入店したから町子が担当で、他の子が良ければ担当変えたりもできて1000円かかります。今日は一応指名扱いだから…バックは入ります!どうしたの?シュウさん…気になった子いたの?」


町子ちゃんは寂しそうな顔をして首を傾げている


「メニュー表にあるけどアルマンドあるー?」

「アルマンド?聞いてきます!」

と町子はカウンターの中に消えた。


周りの女の子が自分をジロジロとみていてなんか居心地が悪いなと思った。

(ジジィ若造とか思われてんのかな…。)


どの子よりもうちの子というか町子ちゃんが一番可愛いなと思った。

「シュウさん、あのねアルマンドあったけど高いですよ!やめましょう!町子震えました」


町子ちゃんの顔は真っ青だった

多分この子が稼げないのはこの真面目さだろうなと思った。


「大丈夫大丈夫、俺遊び歩いてた時めっちゃ金使ってたから」

青ざめた町子ちゃんをみて少し笑いが込み上げてきた


「もし、ロゼがあればロゼ。…ボトル何色があったかわかる?」


「ピンクと…ゴールドがあって他は系列にあるみたいです!」


心配そうな顔をしながらメモを読み上げた


「ああ!ピンク…それがロゼだね。じゃあ町子ちゃんにロゼ入れちゃお!飲むふりでいいから乾杯してね」


町子ちゃんにオーダーすると

「ひっ!30ま…」

ガタガタと震え出してロボットみたいに歩き伝票と共に奥に消えた


キャバとかクラブと同じ感覚だけど違うのかなここ…と周りの反応を見て場違いな視線を感じた


しばらくすると町子ちゃんは震えながら

アルマンドロゼを運んできた。

店長が何度も確認をして栓を抜き

二人分のグラスに注いだ。


「町子ちゃん、明日誕生日だよね?おめでとう」


俺がそう言ってグラスを一気に飲み干すと町子ちゃんは赤面した


「なんで?なんで?あれ?」


パニックになり町子ちゃんまでグラスのシャンパンを飲み干した

未成年飲酒、ダメ、絶対


「やまちゃんに聞いたんだよ」


「あっ、、怒られるからフライングでお祝いしたのは内緒ね」


町子ちゃんは俺にシャンパンを注ぎながら

ゆっくり頷いた。


「店長さんケーキ…買ってきていただけますか?

新宿ありましたよね?ホスト看板あたりに深夜ケーキの店…」


お兄さんは上機嫌で店長にケーキを買いに行かせ

た。


「本当にいいのに、町子なんて」


何故か落ち込む町子をしばらく見つめて

シュウは口を開いた。


「なんで?誕生日は祝うものだよ。

俺が祝いたくて祝ってる、ズルしたけどさ。

明日はもっとお祝いしてもらえるんじゃない?」


シャンパンを飲みながらシュウは左手で町子のほっぺをぷにぷにとした。


「俺にとってはこの授業参観も、シャンパンも、ケーキも町子ちゃんをお祝いする為に必要と思ったんだから受け取ったらいいんだよ」


「今日は可愛い笑顔の町子からのありがとうございますご主人様♡以外は聞きたくないなー。俺めっちゃわがままだからさ」


次々シャンパンを流し込みながら

シュウは町子をただ見つめた。


「あ…ありがとうございますご主人さま…」


町子は赤面しながらお礼を言って顔を隠した


「そうそう、女の子は笑わないとね」


そんなやりとりをしているうちに

ケーキが到着して蝋燭を消した後、切り分けた町子の分以外は皆さんでどうぞ〜

と店長にケーキをあげてしまった。


「あれ?シュウさんのは?」

「ケーキは女の子が食べた方が絵になるよ」

と町子にスマホを向けた。


 町子はいちごをフォークで突き刺しシュウにあげると言ったが受け取ったシュウはそれを町子に

そのまま差し出した。


「あーんしてごらん、ほら」


酔ってるのかなと思いながら諦めて

町子は口を開く。


「よくできましたー!町子ちゃんえらいねー!」


子供扱いするシュウに町子は怒る真似をしてみる

珍しく店の子も笑い出して

なんかちょっと楽しいなと町子は思った。


町子の上がり時間になり、店から出る時に店の子達からおめでとうと言ってもらえた。

言われ慣れてない町子はお辞儀をして店を後にした。


エレベーターで降りる間

「誕生日はね、アピールしていこうね。

知らないとお祝いしたい人が困っちゃうからね」

と言いながらシュウは町子の手を一瞬繋いだ。

ぎゅっと握り返され

このまま時とまんねーかなと柄にもないことを思った

駐車場までそのまま歩いた。

シュウは家族家族家族と口に出さず頭で唱え続けた


「あー!シュウさん悪いんだー!お酒飲んで運転ダメなんですよー!」

と町子は助手席で笑い転げている


「おにーさんはあれくらいじゃ酔わないから大丈夫ですよー」

と言いながら車を走らせる

自由時間が終わるまであと数時間自由が名残惜しいなと

流れる景色を眺めていたら急に魔が刺した。


「俺今から町子ちゃん誘拐するわ⭐︎」

「え!?」


車内は町子ちゃんの慌てた声だけが聞こえる

それがおかしくて笑いながら

進行方向を変え目的地へと向かう

昔を思い出して少しチクリと傷んだ。


「シュウさん、どこ行くのシュウさん!」


必死さが面白くてつい笑ってしまう。


「知りたい?じゃあ流れる景色を見ていたらわかるよ」


素直な性格だからか真剣に外を眺めている

本当に不思議と似るんだなと目頭が熱くなった

さっくんにちょっと申し訳ないかなと

思いはするけど、俺にはあと1年しかないし

その間に自由に動けるのはもう2度と無い。

朔がこの子と過ごす気の長くなる一生を考えたら

数時間くらい…


そんな事を考えながら運転していると町子ちゃんが

騒ぎ出した。

「あっ!シュウさん!葛西臨海公園と書いてありますよ!」


「夜に公園いくの?楽しそう!」


はしゃぎ出した姿を見て少し安心した


「海に行きたくなってさ、きっともう2度と

行けないから。」


目的地へ着いて車から降りて

深呼吸をする――


やっぱなんか気分が違うなと浸っていたら

町子ちゃんが降りて来てない事に気付き車内を覗き込んだ。


膝を抱えて俯いている姿があった

ドアを開けしゃがみ込み声をかけた


「町子ちゃん、どうしたのかな?」


5分位だろうか、過ぎた頃にゆっくり目を腫らした顔を上げてくれた


「なんで!?何で泣いてるの?」


「2度とって言ったから…」


恨めしそうに、口を尖らせてこちらを見ている


「俺は自由が無いからさ…今日みたいに自由に動ける日って奇跡なんだ。でも、言葉は選ぶべきだったね…」



「泣かせたい訳じゃなかった…」


落ち込むシュウを見て

町子はそっと、シュウの頭を抱きしめた。


「そんな貴重な日を町子に使ったらだめですよ…」


車のラジオは0時を伝え

海辺は冷えて

生きている音だけが聞こえた


「その価値がある程大切なんだよ」


と腕の中で言った。

町子は少しだけ、またまたーと笑った


「誰より大切だよ」



腕から抜け出し、町子を外に連れ出すと

後ろの席から黒い小さな袋を取り出した。


少し歩いて、暗い海に漂う光を眺めた


「海、本物初めて来ました。夜空みたい、光がキラキラして…クラゲみたいに浮かべたら空にいるのか海に居るのかわからなくなりそう!」


「海坊主はいるかな?」


「この海にモササウルスも居たのかな」


境界線はどこかなと暗い海を撮影しながら

はしゃいで居る



町子ちゃんが自分に姉がいた事を知らなくても

りっちゃんが好きだった場所に連れて来たかった。

見せてあげたかった。


俺がいなくなっても

夜空を映す水面を忘れないでいてくれたら

それだけでいいと思う。記憶のどこかに残れたら幸せだ


真っ暗な場所で生を受けても、生きていたら光はちゃんと灯る。

それを知って欲しかった


「町子ちゃん、来たのが夜中でごめんね夕方や明け方はもっと素敵なんだよ」


「なんで?町子は此処好きになりましたよ!

暗い海には妖怪も恐竜も居そうだし光を集めてキラキラしているし…初めて来た海が夜でよかった!」


全力ではしゃぐ姿に安堵した


冷たい風と

海の匂い


はしゃぐ姿。


どうするべきかの判断が揺らぐ。


用意した物を持って来たは良いけれど

物が物なだけに渡すのをまだ悩んでいた


本当にこのまま誘拐できたらいいのに。

沢山色々な場所に俺が連れて行きたかった


さっき抱きしめられた時に見えてしまった

首の痣も首から微かに漂う血の香りで

察してしまった


連れされたら良かったのに。

俺は――

あの時に守ることもできなかった


今度は連れ去る事も出来ない。


「町子ちゃん、身体冷えちゃうから車行こう」

俺の声に「はい!」と明るく返事をする

手を引き海や水面に輝く星や銀河鉄道の夜の話をしながら歩いた




車に町子ちゃんを乗せた。

二人きり。



「町子ちゃん、少しだけお話を聞いてくれるかな」

声が震える



「はい!」

「お話が終わるまで目開けたらだめだよ?」


目を閉じながらもニコニコとするまだ幼さが残る町子を眺めて小さな黒い袋から、黒い四角い箱をとりだした。

蓋を開けて

中身を取り出し、町子の左手を自分の掌に乗せた



「いつもひとりぼっちだった女の子にある日

不思議なお友達が出来ました。

声はするし…手を叩けば音もします。

女の子の掌に小さなお花を一輪乗せてくれたりもします。

走れば草を踏む音も聞こえましたし

寒い日には姿は見えなくても暖かな体温は感じられました。

姿は見えなくても不思議と女の子にはお友達がどこに居るかわかりました

夏には川の水を掛け合い笑いました

春には綺麗な花を摘み冠を作りました

秋には落ち葉を踏み遊びました。


ずっと…女の子はお友達と永遠に遊べたらいいなと思っていましたが、ある日女の子がお昼寝から目を覚ますとお友達はもう会えなくなってしまうと伝えました。

〈僕は妖怪で君以外の人にも存在が知られてしまったからもう一緒に遊べないんだ〉

とお友達の妖怪さんは言いました。


女の子は妖怪さんと一緒に居たいよと

泣きましたがお別れの時間が来ました

妖怪さんは居なくなり、いつのまにか女の子の左手の小指に見たことがない綺麗な赤い糸がちょうちょの様な形で結ばれていました。

何をしても解けない糸を見ていると一人じゃないと思えて女の子は安心しました。

女の子が暮らす山にある日沢山の人間がきて女の子を人間の村に連れてゆきました。

慣れない生活は大変でしたが小指の糸を見ていると幸せな気持ちになりましたなぜなら…妖怪さんと一緒にいる様な気がしたからです。」


「まだ続きはあるけど…

今日はここまで。町子ちゃん17歳のお誕生日おめでとう目を開けて」


ゆっくり目を開くと町子は

左手の小指に小さなリボンの形をした指輪が飾られているのに気付いた


「蝶々の指輪より…町子ちゃんにはリボンかなって探した」


「さっきのお話…私が大切にしている絵本なんです。擦り切れてテープで…秋月先生の…もうずいぶん昔に絶版で…」


町子ちゃんは驚いた顔でシュウを見つめる。


「偶然だね…俺も好きなんだあの話気に入ってる」


「指輪で少しは…寂しくなくなるかな」


鼓動が速くなるのがわかった


「こんなに素敵なもの……大切にしますわたしにはもったいない…」


町子はリボンを指でなぞった 

しばらく指輪とシュウを交互にみて

深呼吸をした――



「私秋月先生に…プレゼントを送りました。明日届くみたいです出版のところに…指輪…気に入ってくれるかな…初めてプレゼントを買ったし…不安で」


潤む瞳は星をうつした水面の様に綺麗だった


シュウの手のひらの上にある

町子の左手は震えていた。

そっと震える手を包みシュウは笑った



「俺なら君から貰ったものは死ぬまで外さない」


潤んだ瞳には、顔を覗き込んでいるシュウが映り込んだ。




「良かった…」



町子ちゃんは震えながら俺のメガネを外し、

ダッシュボードにそっと置いた



俺は

星の夜に

服の下の秘密を知り

彼女が恐れている物を知り


秘密を持った。







◇◇◇◇


朝5時過ぎてタイムアップギリギリに家に帰りつき、朔が帰ってないことを確認して

眠たそうな町子ちゃんを浴室に連れて行き

放置していたスマホを開いた


「明日の話があるんだけどー」

「おーい!ぶっ殺すわよ」

「兄弟揃って未読無視かよ死ね」

「朝ロケ6時に終わるから寄るわ。成城のハウススタジオロケだからすぐ着くと思う町子の為にサインちょうだい」


やまちゃんから鬼の様な量のラインが36通

友達居ないのかよとゲンナリした


流し読みしながら朔も未読無視だと知り少し安心した。

きっと盛り上がっているのだろう…


「え!?6時?時間ないじゃん…」


シャワー浴びて時間あるかな…と気不味い気持ちになった


今頃になりやらかした事に頭を抱えた


ピロンと音が鳴り液晶を見ると

「既読無視しないでよ死ねクソメガにぃ」

と悪口が表示された


「今起きたばっかだから少し遅らせてくれたら助かるかなー」

と返事をした。


浴室からは町子ちゃんが髪の毛を乾かす音が聞こえて来た


その瞬間ピンポーンと玄関のチャイムがなった

何も知らない町子ちゃんは生乾きの髪の毛のまま

玄関に向かった


「あれ?やまちゃん?」


「おはよーまちこ!!起きてシャワー?うんうん!女の子〜って感じね♪」


何故か嬉しそうにニコニコと笑うやまちゃん

そしてリビングにやってきて、まだレザージャケットを着たままの俺の姿を見て


「あれ?寝てた人がそーんなキメキメな服着てるなんておかしくなーい?」


とニヤニヤした顔で見てきた


「たまたま今羽織っただけだよ、本当」


タイミング悪いなこいつ…


「まっダメガネに興味はないわ!

今日本借りに来たの。東北怪談と動物の呪いの書籍借りたいの」


「あっ、あるよ。何冊かあるし中身みる?」


やまちゃんを仕事部屋に押し込み頼まれた本を棚から出した。


やまちゃんはカバンから俺の本を出した


「今更必要無さそうだけど?サイン書いてくれる?」


じろーっとこちらを見ている


「別に俺がそうとは名乗ってないよ」


「言ってなくてもわかる様な行動したんじゃないの?あんたから町子の匂いがぷんぷんするのよ何もなきゃ…ねぇ?」


カンが鋭い嫌なガキ


「まっ!昼に町子迎えに来るから夕方迄に誕生日会の準備しといてね!」


とアイドルスマイルをして慌ただしく部屋から出た

たった数分、されど数分ドッと疲れた。


部屋から出ると町子ちゃんが見送りからから丁度帰ってきた。


「シュウさん!」と言いながら町子ちゃんは背中に抱きついてきた


「あれーどうしたのかなー?」

わざと明るく茶化す様に声をかける


「…おやすみなさい。」

一瞬強く俺を抱きしめてから

朔の部屋に行こうとした町子ちゃんの手を掴んだ


「シュウさ…」


「起きた君は朔のだから、あと少し…」



ああ…もう後には戻れないし

沼みたいだと思った。

俺はわかってたのに自ら優しいお兄さんを捨て沼に突っ込んだ






◇◇◇◇女の子だもの。◇◇◇◇




昼になり朔が戻ってきて

朔からは女の子の香水の匂いがして

メンバーの仲良い女の子が来てたからーと言いながら

町子ちゃんにケーキを差し出した。


町子を迎えに来ていたやまちゃんは

何か言いたそうだけど言葉を飲み込んだ

町子ちゃんはケーキ嬉しいー!おかえりーと

笑っていた。


朔が着替えに行くと町子ちゃんは

やまちゃんにケーキを渡し

冷蔵庫に入れててくださいと、洗濯物を干しにベランダへ向かった



「…誕生日会なのに、こんな小さい箱。せめてホールケーキ買ってきなさいよ。だからだめなのよ…」


小さな小さなケーキの箱。


「町子と買い物行くついでにホール買ってくるわ」

とやまちゃんは苦い顔をした。高崎の家族も来るでしょ?と言いながら冷蔵庫にケーキを仕舞った


「あんたは…昨日何してあげたの。」

コソコソとやまちゃんは詮索してきた


「大したことないよ別に。町子ちゃんの店にいってアルマンドあけて、ホールケーキ買ってきてもらって二人で葛西臨海公園で

夜景みて…いろんな話しただけ」


迷ったけど正直に話した


「金額じゃないけどさー…私なら小さなケーキより夜景デートがいいわ。女だもの」


そんな話をしていたら慌ただしく朔が部屋から飛び出してきて


「ちょっと出てくる、本当に重要な用事!飾り付けとか兄さん頼める?」

と言われ家を出て行った


思わずシュウとやまちゃんは顔を見合わせた


「なんて言うかさ…そりゃあんたが横からちょっかい出したのは一般的には良くはないわよ?昼ドラよ?まるで。金曜深夜のドラマとか…

でも…彼女の誕生日以外に大切な用事ってなくない?何あれ」


やまちゃんは冷たい表情でドアを睨んだ


「さっくんはさ、勉強とギターしかやってきてなくて。いきなり世界が広がってさ…楽しくてたまらないんだろうね。」


「ガキだから仕方ないけど、あと1年でちゃんと大人になれるかはわからないね」


とシュウは苦笑いをして町子を手伝いにベランダへ向かった



「だから…あんたが本気出せばいいじゃない。

誕生日に夜景やドライブって誰が彼氏かわからないじゃん。手出すんなら本気で取りなさいよムカつく」


やまちゃんは小さな声で独り言を呟き

スマホを開きどこかに電話をしていた。


シュウがベランダに向かうとそこには死んだ目をして干し終わった洗濯物をちょこんと座りただ眺めている町子が居た


「何か見える?」

シュウが声をかけて横に座った。


「シュウさんが来てくれました」


「そうだよ、大切なお姫様を連れに来た」

その言葉を聞いてやっと町子は笑った


町子の手を引きやまちゃんに引き渡した。


「あー!町子あんたしけた顔すんのやめてよね!!主役よ?今日は時間無理やり作ったんだから楽しむわよ!」


「もしあんたが喜ぶなら男性アイドルや男性モデルとかの合コンもセッティングしてあげる」


スマホの中の顔がいい男の写真を次々見せながら

やまちゃんはニヤニヤとしていた。


「やまちゃん、合コンとかはやめようね…

俺にもダメ入るわ…」

とシュウは怯えた



やまちゃんはマンション下に待たせた兄の車に

町子を乗せて行き先を指示した。


「町子、これ私の双子のお兄ちゃん宗一よ。

よろしくね」


ミラー越しに町子を見て

やる気がなさそうな気怠い雰囲気の宗一は

軽く挨拶をした。



「お誕生日おめでとうございます、あなたが厄介な口裂け兄弟に取り憑かれた被害者なんですね。お可哀想に…」


涙を拭く真似をしながらヴェルファイアを乗り回す宗一


「まずヘアメしに行くわよ!!そんで服!!洋服洋服!!」


行き先メモを宗一に渡してやまちゃんは

テンション高く町子に絡んでいた


「口裂け兄弟だけでもメンタルがやばそうなのに

友達がうちの妹しかいないなんて町子さん前世は毛沢東かヒットラーが何かですか?」


宗一とやまちゃんの強いキャラに押されて町子は震えていた


「町子さんはどっちが好きなんですか?

あの兄弟どっちもクセが強すぎて俺が女の子ならセフレにすらしたくないめんどくさい種類の男だと思うのですが…男を見る目は鍛えた方が良いですよ。妖怪で構わないなら良い男紹介できますよ」


なかなかキツイ評価を下す宗一

彼女は歳上の24歳、アイドル上がりのモデル

ノリで付き合ったがぶっちゃけ後悔しているらしい


「さっくんの彼女です…」


「へぇ!あの厨二に彼女が!いやぁ…びっくりですね!町子さんあの厨二は誰よりも自分が大好きですからね!」


「お兄ちゃん、言い過ぎよ」


目的地につきヘアメをしてもらいキラキラとした町子を見てやまちゃんは写真を撮りまくった。


「やっぱね!メイクや髪型ちゃんとしたら町子可愛いのにと思ってたのよ」


満足そうにやまちゃんが語った後3人で色んな服屋を回った

宗一に時々意見をもらいながら何パターンかの服を買い今は口裂け兄弟を殺す服を選んでいる最中だ


「兄はなんか派手だし多分品がない胸元が開いた服とか?…いや意外と白いワンピースに麦わら帽子とかに弱そう。弟は背中ボタンとかの手が掛かるのが好きそういや、違うな…」


と宗一はぶつぶつと独り言を言っていた


たまには甘ロリ着ましょう!と町子を引っ張ってきたアンジェリックプリティでやまちゃんは

ある悩みにぶつかった


「ちょっとお兄ちゃん来て、兄と弟どっちに寄せるべき?」


少しだけ現状の説明をしつつ宗一に意見を求めた


「俺なら…めちゃくちゃ喜びそうなロリコンスケベメガネかな…厨二はなんかさらっとして派手に褒めそうにないし…プレゼントする側からしたら喜んでほしいじゃん17の誕生日でしょ?」



そんな話をしていると町子がある服を眺めている姿が目に入った


「あら綺麗ね!私もこれ欲しいわ」


「なんだかお嫁さんみたいだよね可愛い素敵」


その言葉を聞きやまちゃんはハッとした


「すみませんこのClassicalバレリーナビスチェと同じシリーズのスカートとパニエと合うブラウス、足物類や頭物もお願いします」


「あれ?なんか意外な服だね妹よ」


「朔は頭を冷やしたら良いのよ少し。これでなにが大切かわからなかったら見限るわ…」


やまちゃんは試着の時に首の痣や傷に気付いてしまっていた。


町子が試着した服は本当にウエディングドレスのようだった。


「良いじゃない!良いじゃない!あのメガネの正装も白だし今日着て貰えば?白可愛いじゃない!」


「正装?」


「私達はちゃんとした時にこれを着るって、服が決まっててだいたい身長伸びたとか着れなくなるまではそれね。私は着物うちは代々決まってて自由が無いの」


と説明を終えたとこで町子の指に見慣れないものを発見した。

「あれ?町子可愛いわねこれ!服にぴったりじゃない♡」


「これは…」

少し困った顔をした様子を見て察した。


「なるほど。朔に言わないわよ。良いじゃない可愛い!」


「私も似た雰囲気の買っちゃお!」

そう言って

アクセサリーコーナーにあった似た雰囲気の指輪を手に取りこれもお願いします!と店員に渡した。


(私もなんか似たのつけてたら怪しまれないっしょ。)


(前行っちゃえ!とか焚き付けた責任があるしこれくらいは…ね。)


(指輪とはガチじゃない…朔どうすんだろ)


女の子だもの…指輪なんて渡されたら

そっちにいっちゃうじゃん。




◇◇◇誕生日とリング◇◇◇



シュウは町子達を見送った後自分の担当者に

自分宛の手紙や小包が来てないか調べろと電話をかけた。


「いやぁ…手紙まで入れると量がありすぎて…」

担当者の伊藤は遠回しに無理っすよと言った


「大丈夫君は散々僕のわがまま聞いてきたでしょう?やれるやれる。ホラ、黒い紙袋かショップの発送箱。送り主が黒澤町子。ほら!探せ探せ!今日来たやつだ!今なかったら届いた瞬間すぐもってこい」



シュウは伊藤に毎回無理難題を押し付けてばかりだった。

しかし案外有能な伊藤は大体叶えてしまうすごい奴だったりする


「もう、喜んでもらえる方法なんてこれしかないもんな…」


自分の左手をじっと見つめる



ぼんやり考えていると玄関のチャイムが鳴り響いた


急いで玄関を開くと高崎が大荷物で

立っていた。


「飾り付けやるぞ」


高崎、マジ頼りになる好きと

シュウは友情に感謝した。


高崎と飾り付けをしながら

高崎に昨晩の話を軽く話した。


「みっくんは?」

「ミツは宿題をしてる」


高崎は書道道具まで担いで持ってきていた


《祝黒澤町子さん生誕17周年誕生記念食事会》

と書いてある


「もう少しさぁ…おめでとう♡くらい軽くできない?なんか謎の重さがあるよコレ…」



「そうか?…」


一生懸命書いているし…まぁ仕方ないかと

このまま飾る事にした。


「なぁ、高崎。俺やっぱ町子ちゃんがいいわ」


高崎が作ってきた飾りを画鋲で壁に付けながら

呟いた。


「そうか…」


「どうしても、好きなんだわ。色々考えてくれたのにごめんな」


高崎は黙って聞いていた。


シュウはただ

鼻歌を歌いながら部屋を飾って行く

楽しそうに


「最近の朔は…あれ信じるの博打すぎないか?」


高崎は言いにくそうに口を開いた。


「そうだね…そろそろ一旦また叩きのめさないと調子乗ってきた頃かな」

笑って誤魔化す


「まぁ朔は何考えてるかわからないけど…町子ちゃんを

大切にしてくれるとは思ってる。性癖は不安だけどさ…」


もう弟リンチとかできればやりたくないんだけどねーと笑いながら

椅子から降りると丁度伊藤から着信が来た。


「おう!見つかった??…良くやった!家に居るから頼むよ」


通話を切り再び飾り付けに戻った。


高崎と料理をどうするかと話し合い、出前も微妙だよねーとなり結局高崎が買い出しに行く事になった。


使う食器類を出し、酒の本数を確認して

とりあえず今はやる事ないなと寝室へ向かった

ベッドにごろりと横になった



どのくらい寝ただろうか、電話の着信と玄関のチャイムで目が覚めた。


「はーい…」

寝ぼけて玄関に向かうと伊藤が泣きそうな顔で立っていた。



「先生ー30分は待ちましたよー」


流石に悪いなと思い上がってもらいお茶を出した。

「ごめんねちょっと疲れ溜まってたみたいだわ」


「先生最近張り切ってますもんね」

と伊藤は町子ちゃんからのプレゼントと

手土産を渡してくれた。



少し雑談したあと

伊藤を玄関まで見送り、寝室へ町子ちゃんからのプレゼントを運び開封した。


丁寧に書かれた自分には勿体ない素敵な手紙

こんな手紙を貰ったらどんな人でも

書いた人を好きになってしまうのではないだろうか…

《私の最愛の神様です。》

《私は先生がどんな方かは存じません…でも

書くもの作り出す作品から人柄や考えや心が読み取れる気がして…きっとこの先私が誰と付き合う縁があっても

先生以上になる事は無いと断言できる程お慕いしております――。》


3枚の便箋に綴られた恋文は

俺の心を満たし引っ掻き回した

朔になりたかったと思った事もあった


でも俺は俺でよかった。


しかしこの小さな指輪を装着したら

本当に後に戻れなくなる。

読むまではよっしゃ!つけてアピールだ!と

考えていたけれど、

昨晩の一連の流れを思い出し、

これで付けてしまったらもう朔と戦争ではないのか?と無駄に悩んでしまった


スクリーンの俳優や少女小説に憧れる少女特有の病の様な物だと流すには

真っ直ぐで繊細で重くて。




潤んだ瞳に

甘い香り、

微かに聞こえたあの祈りに似た言葉




店頭で売っているものだ、誤魔化しはどうにかなると

指輪を左手の小指につけた

サイズは大丈夫そうだった。


左手の小指のペアリングの意味は秘密。


まぁ…デザインは違うからペアでは無いけれど





◇◇絶縁ロックヒーロー◇◇


夕方から夜へと変わる18時

買い物部隊の高崎&光秀くんが最初に帰りつき

3人で皿に盛り付けをした。

次に派手なケーキとウエディングドレスみたいな

お姫様の様な服を着た町子ちゃんを

エスコートして連れてきた

ヤマノケの双子。


「ちょっと、そちらのメガネのお兄さん。

準備は俺はがするのでアホみたいに目立つお前さんの正装を引っ張り出して袖を通せよ」


双子の片割れ兄の宗一はおかしな話し方で

俺に指図してきた。


「なんでまた正装なんて…」


高崎に視線をやると何故かカバンから高そうなカメラとチェキを取り出し並べた。


「…一瞬だけ着てこいよ」


変な期待をされながら死装束と決めていた正装を

クローゼットから出し袖を通した


「老けたな…」

鏡の中の俺は衣装を作った20歳の時と比べて

老けていた。

当たり前だけどさ


嫌だなと思いながらリビングに行くと

白いふわふわの町子ちゃんが横に立ち

写真撮影会が始まった。なんだこれ


この時は意味がわからなかったけど

この写真は後に俺の遺影となった。

高崎の、親友の優しさだった


まだ先の話だけど


このなんちゃってウエディングごっこを胸に忍ばせ俺は1年後散るのだけどまた別の話


撮り飽きたのか周りにそろそろもう良いよと言われてハイハイと自室で着替えを済ませリビングに戻るとみんなが朔を待ち微妙な雰囲気になっていた。

しかし夜も20時になり光秀くんがお腹を空かせたので遅れてきたやつが悪いと

食事を始めた。



なんとなくみんながそろそろデザートにするかと

言い出した頃ベランダからありえない物音がした


なんだ!?と高崎が包丁を持ちベランダに向かうと

何故か正装を着た朔がよろよろと立ち上がる所だった


「あれ?朔夜新しい正装まだ出来てないんじゃ…」

やまちゃんはズレたツッコミをした。


履いていたラバーソールをベランダに脱ぎ捨て

朔はいつも愛用している好きなバンドのトートバッグから書類一式を取り出し町子ちゃんに差し出した。


「町子、俺は一日実家に行ってきた!

絶縁された!そんなことはいい、

なんとか書類一式と仕上がってた衣装パクッ…貰ってきた!

俺が来年絶対トップスコア取るからその日に八坂町子になれ!」


「俺の苗字が誕生日プレゼントだ!」


みんなポカーンとした。


「何故か朔は俺を睨み、同じ苗字だけど俺のだからな!」

と朔に指をさされた


ほらねさっくんは町子ちゃんをきっと

大切にする。歪んではいるけれど


町子ちゃんは書類を受け取りただ頷いた


「おっしゃー!頑張ってトップスコアとって

かっこいいバンドマンになるからな!」


と厨二ヒーローはみんなに宣言した。



「なんで絶縁されたの…」

町子ちゃんは手をあげて質問をした


「え?母さんと父さんと叔母さんに

俺向こうにいる人間の彼女と結婚するから許可してくれ

プロポーズするから正装くれって言ったらシュウにそっくり!そんなとこまで似るなんて!これだから

あいつの家にやるべきじゃなかった!って喧嘩になって掴み合いになった、クソメガネをバカにするなって父さんを殴ったら絶縁だ出て行けって言われたから

棚蹴り倒して俺の書類と一緒にあった兄さんのIDと壁に掛かってた衣装パクってきた」


朔は自分に酔っていた

そして俺にIDを投げつけてきた。


俺の卒業式それ無いと兄さん来れないじゃん。

と出来の悪い弟は笑った。


そして光秀と唐揚げの取り合いを始めた


「さっくん、ありがとう」


町子は泣きそうになりながらも笑った


「やまちゃんも、高崎さんもみっくんも

宗一さんもシュウさんも…本当にありがとうございます。誕生日ってこんな楽しい日だったんですね」


撮影班が今度はさっくんと町子ちゃんの撮影タイムを始めた。



こうして町子ちゃんの誕生日は無事おわった


異界の女性の17歳は結婚ができる歳で

一番求愛を受ける年齢。



だからあいつは規則ぶち破って実家に行ったんだ。


本当に昔の自分みたいだと思った。

町子ちゃんはやまちゃんが買った派手なケーキと、朔が買った

小さなシュークリームをニコニコしながら食べた。


「朔、町子ちゃんの服どう?」

やまちゃんは朔に話しかけた。


「来年も着てほしいね。俺に嫁ぐ花嫁衣装として」





やまちゃんは少しだけ朔を見直したらしい。

高崎は何故かずっと俺と朔を見て爆笑していた


「本当に昔のシュウそのままだな!」


終わりはみんなで笑えてよかった。


























 







































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