第9話クネクネとカブト虫


楽しいと感じる瞬間があるとする。


必ずその裏で何か嫌な事が始まってる気がしてる


波って表現があるけど、楽しければ楽しい程幸せだと感じるほど

後から来る「最悪」な波は高い気がする――。



最近特に






◇◇◇◇



その日はものすごく嫌な暑さの日で

アイスを買いに家から出た事を後悔するレベルで


「さっくん、町子丸焼きになりそう」


「俺も」


スーパーの2割引で買い込んだアイスを持ち

二人で住宅街を歩いていると一人座り込んでる

へんな子供がいた。

嫌な予感がしたので町子の手を引き足早に通り過ぎようとすると子供は何故か立ち上がりこちらに突進して来た。


「助けて俺の家が無くなった!」


子供は町子にしがみつき泣き喚いている。

ほっとけばいいのに町子はしゃがみ込み子供の話を聞き始めてしまった――――――。



「ポケGOしてたら家が無くなって帰れなくなった」

それしか話さない。


「それさ、お前がポケGOしていて迷子になったんだろ?住所は?」


金髪に青い瞳にランドセルの少年はムッとしたのか

朔の足を踏みつけた。



「いってっ!!」


「この俺が迷うはずがない!家が無くなったんだ!」


この少年、ふーんと口を尖らせ腕を組んでいるが

どれだけツンとしても迷子なことは明らかだった。


「ねぇ、住所わかる?お姉ちゃんとお兄ちゃんが連れて行ってあげるよ!パパとママ心配してるかもよ?」


町子が目線を合わせて微笑みかけると

泣き出した。

「住所わからない…」


朔はその光景を見てうわー、めんどくせぇ…と

心底思った。


一度連れ帰り小学校に連絡するかと

町子と話し合い家に連れ帰ることにした。


「おい!ガキ!なんで町子と手繋いでんだよ離せ!」


18歳朔妖怪口裂け女の息子。

小学校低学年にしか見えない子供にめっちゃイラついてる


「さっくん、大人げないよ?まだ小さいし手繋いであげなきゃ!」


「そうだぞ!おっさん!」


町子からは叱られキッズからはおっさんと呼ばれ

朔は叫び出しそうになった。

将来子供が産まれたら女の子がいい、

絶対生意気な男なんか嫌だと強く思った


マンションにつきエレベーターに乗る瞬間も

子供は町子にべったりだ

心が狭くてもいい、こんなガキさっさと親を見つけておさらばしたいと思った朔。


玄関を開けるなり冷凍室に溶け始めたアイスを詰め込みながら少年に話しかける


「おい!お前小学校は!?何組?電話するわ」


「個人情報だから教えるのは嫌だ」


「は?貴様迷子だからな?小学校に連絡しなかったらお前警察に連れて行くからな!!」


朔が少年と喧嘩している間町子は

ランドセルを開けて名前などを確認していた。



「高崎光秀…あっ、電話番号も書いてある…」


町子はその場で電話をした

自宅番号は誰も出なかったので携帯番号にかけた


3コールしたのちに男性が出た


「はい高崎です。」


「はじめましていきなりすみません。私黒澤と申します。先程買い物途中に迷子になっていたお子様を保護したのですが…」


町子がやりとりをしている間に兄さんが

リビングに出てきた。

知らない声がしたからか一応マスクをしている


「ん?なんでお子様が増えてんの?」


朔とつかみ合いの喧嘩をしていた子供をガン見する

兄。


流石の元気なキッズも悪どい顔をした兄には何も言えないみたいで大人しくなった


「ガキンチョさんはなんでうちにいるのかな?」


子供相手に圧をかける兄。


「迷子になってお姉さんに助けてもらいました…」

プルプルと震えている

やっぱり迷子じゃんと朔は思った。


「迷子ね…」


通話を切った町子が急いで兄の元へ駆け寄り

状況を説明した


「お兄さんごめんなさい…勝手に」


「いや、良いよ。で、この子どうするの?」


ジロジロと子供高崎光秀を見る


「お父さん、高崎さんが直ぐに迎えに来るそうです。」


名前を聞いた瞬間ただでさえ人相が悪い兄の顔が険しくなった。


「光秀くん、宿題まだだったらお姉ちゃんとやっちゃう?」


「勉強嫌いだから嫌だ!」


そう強く言ったがそっか…と寂しそうにした町子の様子をみて

特別だからなと慌ててランドセルを自ら持ってくるあたり光秀はいい子なのだとわかる


「町子ちゃん意外だね。めっちゃ手慣れてる」


町子が算数を教える姿を兄はソファーでダラダラしながら眺めている


雑誌の夏のホラー特集のための原稿と今週分の動画を作り終わり視覚的にはわかりにくい顔をしているが頭の中は最高にハイな気分だった。


迷子が何故か家に上がり込む様な予定外の事が起こってもまぁ良いかと思えるくらいに。


「町子、実家に弟と妹いるらしいからなれてんのかも」


朔の話を聞きそういえばあの家に子供他にも居たなと兄は思い出した。口には出せないけど



「うぉー!宿題出来た!やった!明日は怒られないぞ!」


光秀は宿題をしまいながらウキウキとしていた


「宿題もだけど勉強はしっかりしとけよ」


朔は光秀にデコピンした。


「何すんだよ!おっさん!いってぇぇ」


そんなしょうもないやりとりをしているうちに玄関のチャイムが鳴った。


ピンポーーーン


「お父さん来たんじゃないかな?」

町子は忙しそうに玄関へと向かった。

そして後を追いかける光秀。


やっと帰るのかと朔は思わず笑みが溢れる

何故かよそよそしくなりベランダに出る兄


「兄さん…?」





◇◇◇◇


「高崎です。うちの息子がご迷惑をお掛けしました…2日前にこのすぐ裏のマンションに引っ越してきたのですがまだ土地に慣れておらず迷子になったみたいで…」


高崎と名乗ったグレーのスーツの男性は頭を下げて

紙袋を差し出した。

「急ぎで用意しましたのでお口に合うかは分かりませんが…」


町子が受け取った紙袋はネットやテレビで良く高級食パンの紙袋だった。


「え!?こんな高いもの頂けません!大丈夫です。

光秀くんと食べてください!」


町子は紙袋を返そうとした時


「そうですか、なら現金で…」


町子が困っていると光秀が飛び出した


「パパ!さっき宿題教えてもらった!俺宿題全部終わらせた!」

と得意げに伝えると父親は何故か凄く驚いた


「この子に勉強を…尚更受け取ってくださいありがたい…!」

と紙袋と現金を握らせてこようとする


「さっくーん、お兄さーんさっくーん!」


と町子が助けを求めると光秀が


「ん?さっきのおっさん達か?俺が連れてくる!」

と走り出した。


「すみません、うちの子は勉強が嫌いで宿題も塾へやっても絶対に手をつけなかったのでつい…一体どうやって…」


メモを用意しながら町子の返事を待っている


どうしようと町子が困っていると

光秀が朔と兄を無理やり連れてきたその瞬間

父親は「はっ?」と変な声を出した


「お前…ここは黒澤さんの…」


父親は困惑している


気まずそうに兄は高崎に上がる様に促した。

麦茶を出したが空気がなんかおかしい


「ここ。俺の家なのよ町子ちゃんは人間なんだけどさ弟の彼女なんだけど…ちょい訳ありで預かってんの」


「この子の名前高崎って聞いてまさかとは…」

ちらっと光秀を見る


気まずそうだった。


「ふん、黒澤さんには感謝するがお前の家なら遠慮はいらないな!」


とお父さんはさっきとは雰囲気が変わった。


「お父さんはお兄さんとお知り合いなのですか?」

町子は尋ねた。



「同級生的な奴でさ俺が1位コイツが2位

腐れ縁なんだよね幼年からだから…めっちゃ長い」


と言いながらお兄さんはお父さんを見た


「なんでコイツに負けたのか未だに分からない」


とお父さんは麦茶を飲んだ

少し部屋の空気が重くなった気がする

周りが暗いのを見て空気を変えようとしたのか咳払いをしたのちに

お父さんは懐かしい話をしようと口を開いた


「俺がコンビニとサイゼリアで掛け持ちのバイトをしていたらいきなり緊急事態だ!助けてくれ!とメールが来て何かあったのかと駆けつけたらコイツの働いていたホストクラブであと少しでNo1なんだよね!たすかったーと何度も呼ばれたり」


そこはわざわざ行くなよ何度も騙されるなよと町子と朔は内心思ったが突っ込めない雰囲気だった。


「日頃のお礼だといかがわしい店梯子したり…本当に大変だった俺は女性が沢山居る店は苦手だと何度も言ってるのに…」


とお父さんはなんとも言い難い表情で思い出話を次々繰り出した


「ハーッ!だから気まずかったんよ。あのさぁー弟やその彼女やらちびっこがいる前で昔の話するのやめてくんない?気まずいじゃん?何年前だよ!!!」

お兄さんは恥ずかしそうに叫んだ、

しかし

お父さんは咳払いしたのち続けた


「そもそも話されて困る行動をするお前自身の行いを…」

と語り出したのを今度はお兄さんがすかさず説教やめようぜと阻止した


何を見せられているのだろう



「堅物のお前に子供が居るなんて驚きだわ。」


やることやってんねーってもうアラサーだし当たり前かと兄は茶化した。


「そうだな…お前と飲み歩いた時のバ…素敵な女性がいてな」


何かを隠したのを兄は聞き逃さなかった


「はーっ?飲み歩いたっていつのよ、ってかいつ?何?連絡先なんて交換してたわけ?ちょっと聞いてないけど??は?…」


兄の問い詰めにお父さんは視線を泳がせる


「朔!お前らは俺の金で寿司注文してそこに待機な!奢るから!後ワイン出せ!白な」


と言い残しお兄さんはお父さんを連れて仕事部屋で二人で盛り上がっていた


「どうせならめっちゃ高いの頼んでやろ」

そんな事言いながら朔は出前の紙を眺めていた


お兄さんが最初微妙な雰囲気だったのは

照れ臭かったからなんだなと思った。

あんなノリのお兄さんは初めてみた。

家がすごく賑やかで町子はそれを嬉しく感じた

光秀が町子のレゴのジュラシックワールドシリーズに興味を持ったのでレゴで遊びながら

リビングのテレビでレゴのジュラシックワールドのアニメを見せることにした


「これやべー!俺もこれ欲しい!!!」

光秀の叫びが部屋に響いた




◇◇◇◇◇



寿司が届きお父さんとお兄さんの分を運んだ

仕事部屋からは笑いが絶えない。


「さっくんお寿司すきなの?」


「好きかも。」


朔は少し笑った。


「さっくんが笑うと嬉しいね」


「恥ずかしいから笑わない」


そんなやりとりをしていると仕事部屋から

叫び声が聞こえた。


「だれかぁぁぁあ、酒を酒をください!たりません!!酒がたりねぇーぞ!!」


ヒャヒャヒャヒャと変な笑い声まで聞こえる

朔は急いで冷蔵庫とワインセラーを覗くも

ビールは無くワインは1本しかない、朔はワインを1本町子に渡し俺は追加で買ってくる、

多分ああなったら次々要求される!

と慌てて玄関に向かった、何故か光秀も慌ただしく朔について行こうとしていた。


「おっさ…にいちゃんと行く」

「…よし!来い!」


仲がいいのか悪いのかよくわからないなと思いながら町子はダメな大人の部屋にワインとつまみを運んだ


「町子ちゃんこっちおいでこっち!」


ヘラヘラと笑う兄に呼ばれるまま側に行き

持ってきたものを差し出す


「町子ちゃんものむ??お兄さんが口移しでのませてあげよう!ほら舌だしてー…」


酔っ払いは町子に何故かウザ絡みを始めた


「シュウやめろ!相手はJKだ!こわいぞ!あのな!JKに触ったら捕まるからな!!JKだめだ向こうから来てもだめだ!金をとられる!支店長みたいになるぞ!!」


堅物そうなお父さんまでなんかおかしい。


「ええーまちこちゃんは運命だもんねぇ嫌じゃないよねーー」


兄は訳わからないことをいいながら町子にベタベタしている。

「町子華奢だね。沢山食べなきゃ」


あちこち触ってくるのを身を捩らせなんとか逃げる


「よくわからないが黒澤さんは弟の彼女ならばお前はだめだ!!武士じゃない!反するぞ!」


「運命だよー。でぃすてぃにー、俺の視界のなかにいなきゃだめー」 



町子は酔っ払ったお客さんの扱いは慣れていたが

この人達はダメだと本能が悟った


兄の腕から逃れようとした瞬間腕を強く掴まれ

耳元である事を言われた。


「逃げたらお仕置きだからな」


酔っ払ってるから変なテンションなんだなと流した

何故かはわからないけどぞくりとして、変な汗が流れた

仕方なく再び胡座の上に座ると機嫌は元に戻った


訳わからないままダメな大人のグラスに酒を注ぎ続けるしかなかった


兄は普段は嗜む程度しか飲まないので

こんなにベロンベロンな事はない、

楽しくてきっとすごく酔ったんだ。

朔が慌てて酒を買いに走ったのはこの状態を知っていたからだったのねと町子はプルプルと震えた


「いーにおい。全部同じ」


そう言いながら後ろから覆い被さり

指を絡ませて来る


「耳かわいー」


耳に唇で触れてきてぞくりとした

ちぅ…っと耳たぶを口に含まれて泣き出しそうになった。

逃げたいけど逃げれなくて縮こまっていた


(さっくんまだかな…)


「おい!シュウ!黒澤さんはまだ子供だぞ!何をしている!このままじゃお前も

支店長みたいになるからやめてくれ、おれは女子高生こわいよ」


父は何故か泣き出した


ちょくちょく名前が出てくる支店長が少し気になるなと町子は思った


店の女の子も酔うと女の子みんなにキスして回る子や抱きついたり泣き出したり、めっちゃ明るくなったり本当に色んな子が居る

それを普段見ているからこそ酒が入るとお兄さんは

〈だれにでもベタベタしてしまう人〉


お父さんは〈泣き出すタイプ〉なんだなと思った。




酔い方なんだなとわかってはいるけど、

兄の雰囲気はいつもと違って 

男性だと意識させる様な…なんだか変な感じがした。

違和感と怖さがあった。


お酒は怖い




◇◇◇◇



「おい、にいちゃん。カブト虫見たことあるか?」


暗い夜道を朔と酒を買い込み歩いている

金髪のアホの子光秀は

口裂け少年の朔に質問した。


「カブトムシ…あるっちゃある」


「カブトムシ妹に見せたいから捕まえたいんだ」


「あっそ。がんばれー」


カチャン、カチッと瓶が当たる音があたりに響いている


「パパは買えばいいって言ったけど

日曜に妹に会えるから見せたいんだ」


光秀の言葉が妙に気になり朔は立ち止まった


「日曜に会える?」


「光子は双子だけど俺が栄養をとったから小さくって身体が弱いからママと遠くにいる、たまにしか会えない」


「カブトムシの本送ったら見たいって言ったから捕まえたいけどパパは忙しい」


光秀が自分についてきたのは

もしやカブトムシを探しに行って欲しいからなのでは?と朔は思った


町子にべったりするのも母親が近くに居ないからかと思うと小さな頃の自分を少し重ねてしまった。


親は兄さんばかりで自分は放置されていた。

なんだかんだ優しい口裂け少年。


「お前のパパがいいよって言ったら明日…捕まえ行くか?」


「捕まえたこと無いからもし捕まらなかったら買うからな!」


ちらっと光秀を見る


「わかった!もしカブトムシいなかったら俺の小遣いで買う!」


にいちゃんと呼ばれて少しだけ嬉しさを感じた


ガキも悪く無いなとちょっとだけ思った


◇◇◇◇




帰宅すると出来上がった大人と

何故か兄に捕まった町子の姿があった

胡座の上で縮こまっている


「は?」


朔は酒を床に置き町子の腕を思い切り引っ張った

わかっていたとばかりにその瞬間兄は手を離した。そのせいで町子は朔に飛び込む形になったが朔は町子を受け止めた。



「朔夜くん本物の母親は手を真っ先に離すらしいよ。痛がったらかわいそうでしょ?」

 

その言葉に朔はイラッとして殴りかかりたかったが

兄の獲物を狙う蛇のような目が怖くて黙るしかなかった


そしてこいつ酔ってないな。と確信した

本当に酔った兄はやかましいが明るく何もかも楽しくなる

箸が転げて笑いまくるくらいに。


自分へのいつもの嫌がらせかご苦労様と心のうちで唱え口には出さなかった


「さっくんばよばよー」


ドアの隙間から兄が獲物を取られたクマの様な目でいつまでも見ていた事に朔は気づかなかった。


◇◇◇◇




朔はイライラしながら買ってきたビールを一気飲みした。

町子にも八つ当たりしそうな自分が嫌になった

缶を握りつぶし深呼吸した


なんで楽しい気分を毎回ぶち壊すんだよアイツは


水道で顔を洗い、気持ちを入れ替えスマホでカブトムシスポットと捕まえ方を調べる事にした



「成城三丁目緑地…砧公園…緑地が近いか」



深夜から明け方の時間に――とサイトには記載されていた。


「は?明け方!?…」


ビールを一気飲みするんじゃなかったと朔は後悔した。


あの部屋には行きたくなかったが仕方なく

許可を取りに向かうと

ダメな大人が二人倒れていた


「あの、お父さん息子がカブトムシ取りにいきたいって言ってるのですが連れて行っても大丈夫ですか?」



死んだ顔で父親は手を振った


「おっけーです!確認しました。目を通しております」


一応スマホで父親の動画を撮影して何か言われたら見せようと思った。


時計を見ると21時…仕方なく虫取り網を買いにドンキに行く事にした。あればいいけど

微妙に距離あるんだよなと

思いトートに財布を突っ込んでいると町子が

顔をのぞきこんできた。


「お出かけ??」


「明日光秀と朝カブトムシ取りに行くから虫取り網と籠買いに…」


「え!?私も行きたい!!!」

町子ははしゃぎ出した

それを見て光秀も騒ぎ出した。


「明日朝暗いうちに出るし、多分お前のパパもアレ起きないからうちで風呂入って寝とけ」


昼には喧嘩をしていたのに謎の兄貴風だってふかしてしまう。


面倒でも買い物にだって行ってしまう。

そんなもんだ。


「町子もドンキに行きたいー!」


不貞腐れる町子をなだめる。


「だって光秀寝かさないと朝早いぞ…あっ、俺のTシャツ適当に着せて服とか洗濯と乾燥機頼む」


何故だか朔は生き生きしていた


圧倒されたのか町子はわかった!!と返事をして

朔を見送った







◇◇◇◇◇◇




翌朝4時前に起き徒歩で行けないことはない

成城3丁目緑地へと向かった。

兄たちはまだ寝ていた。



朔は白のガーゼロングシャツに黒いスキニー、Drマーチンのブーツ、黒ハットだがどう見ても虫取りに適した服ではない。自然を舐めている


町子はスカラップ半袖トップス短パンのセットアップにツバが広い帽子……まるでプールサイドで夏を満喫するかのような出立ち。


光秀は昨日と同じ赤いシャツにポケモンTシャツ

短パンある意味一番虫取りらしい気がする

あらかじめネットで虫取りスポットを調べておいたのでそこを目指し慎重に歩くが公園の空気が重く気持ちが悪かった


ズリッ…ズリ…ッと変な音が聞こえる


あーこりゃなんか来たなと嫌な予感がした。


どこからだと気配を探っていると

光秀が朔の服を引っ張った


「にぃちゃん、あれカブトムシだ…」


目標地点の近くの木の上におそらくカブトムシが居るのを発見した。


「え!?」


早すぎるしタイミングが最悪だなと辺りを見回しながら

朔は光秀に声を掛けた。

一応聞かなければならない。

兄さんと同級生なら間違いなく何かしらの化け物だとは思うが…



「なぁ、光秀お前のパパは人間?」


「違うぞ!パパは怪人青マント俺は赤マントだ!」


光秀は凄いだろう!と得意げだ。



「なら大丈夫だな。」


朔は地面にトートを投げ町子に帽子を渡して木を駆け上がり

なんとか目的のカブトムシを捕まえた…が木に登ったからこそ見えてしまった。


ゆっくりとゆらゆら揺れながら近寄って来る異物


咄嗟に裸眼はやばいと思い目を逸らした

地面に降り虫取り籠にカブトムシを入れて朔は二人に指示をした。


「すぐ近くに悪意がある怪異が来てる、絶対直視するな町子は特に!光秀と緑地の入り口方面に走れ」


朔は背中のケースから自分の愛刀を取り出した。



「さっくん、逃げないの?」

町子は光秀の手を引き、空いたほうの手を

朔に差し出した


「逃げない、倒すのが仕事だ」







朔はマスクを外した。


「俺、かっこいい?」

毎回言わなきゃいけないコレが恥ずかしいなと思った。


裂けた口に見え隠れする鋭句尖った歯

鋭い爪

赤くギラギラとしている目


戦闘態勢だ。


「さっくんかっこいいー!」

「にいちゃんカッケー!」


さっきよりめっちゃ恥ずかしかった。

やめてほしい穴があったら入りたい


こちらに気づいたのか白く長い触手の様な手を波打たせ怪異は踊る様な動きで向かってくる。


「コイツ…クネクネか?」


近づいて来るたび泣き出しそうな叫び出しそうな

へんな気持ちになる持ってかれそうだ



朔は昨晩ノリで買ったサングラスを思い出し

地面に投げたトートから取り出した。

無いよりはマシなはず


逃げろって言ったのに町子も光秀もにげていない

本当は叱りたかったが時間がもったいないと

二人に背を向けた

「いいか、木の後ろに隠れてぜってぇ目開けんなよ」


朔は全速力で駆け抜けて目を合わさない様に切り掛かり触手を切りにかかったが切っても切ってもまたにゅるりとのびて奇声を発して踊る様に腕を伸ばし攻撃をしてくる


(コイツらははっきりとした意思は無いが精神を破壊して仲間を増やすめんどくさい奴だったはず)


直視したらいけないのもまた地味に面倒で

逃げながら視線を外し斬りつけるしか無い、

再生するのがめんどくさい。

だいたい山や田んぼに出るはずのクネクネが何故ここに?


木に駆け上がり飛び降りクネクネの頭部から刀を刺し真っ二つにしてもすぐにひっついてしまう


(冷静に冷静に)


斬りつけながら気付いた。

コイツの姿を見たらダメなら俺はとっくにおかしくなってるはずしかし未だに無事だ

俺は目を見ない様にしているから無事なのかもしれない――


目を見たらいけないのなら

もしかしたらコイツ本人も。


俺はクネクネの触手の様な腕に飛び乗りクネクネの視界を刃で塞いだ

その瞬間クネクネは奇声を上げのたうち回り出した


鏡は無いが刀が鏡代わりになるかも知れないと思いついたのだ

それがおそらく正解だった、

朔はその瞬間爪でクネクネと視線を合わせないために顔面を爪で切り裂き抉り取り地面に捨て、

そのまま首に食らいつき噛みちぎり飲み込んだ。

鉄の様な嫌な味がした


クネクネはそのまま霧状になり散った


抉り取った顔面は地面でビチビチと動いていたので刀を拾い突き刺した

しばらくすると顔面も霧状になり散った


ピピッと端末から音がして開いてみると


《クネクネ200P》


と表示されていた。


「200....」


朔は刀を地面から引き抜き町子達の元に向かった

町子も光秀もきちんと目を閉じていた。


「終わった、帰るぞ」


気に入っていた白いシャツはクネクネの血で汚れていたのでトートにつっこみ上半身は黒いタンクトップだけになった。

ひょろひょろなのであまり腕は出したく無いのだが仕方がない



「さっくん、さっきのは何?」


「くねくね」


「ええ!!クネクネ!?見たかった!!!クネクネすごく有名な奴だ!勝ったの!?すごいね!!」


町子の目はキラキラ輝いた

町子は恐竜と同じように怪異も大好きだから興奮している


「俺もにいちゃんみたいに戦えるか?大きくなったら」

光秀も興奮している


普段は戦ってもただ黙って家に帰るだけだけれど

今日はなんだか少しだけ照れ臭かった




「うちに帰ろう」


◇◇◇



兄は寝ている友人を無視してスマホを眺めていた。


スマホの液晶はTwitterの画面をうつしだしている


《最近成城3丁目緑地にくねくねが出るらしい》


《あんな場所にクネクネが出るなんて怖い》


《塾の帰りに見ました!友達がはっきりと見てしまって…》


複数垢で沢山書き込まれている

書いたのは兄だ。


兄はわざと朔の元にクネクネを呼び出していた。


噂がある場所に怪異は現れる

虫取りにワクワクしながら出かけたのが気に食わなくて

むしゃくしゃして嫌がらせをしたくなった


「いい気持ちだったのに」


兄は壁にもたれかかり残った酒を飲み干した



「まずっ」




◇◇◇◇


カブト虫を捕まえた3人は上機嫌だった。


「すげーカブト虫って本当にカブト虫じゃん!本と同じだ!!」


光秀がはしゃぐのを見て町子と朔は

穏やかな気持ちになった。


「さっくん…これからもたたかうの?」


「俺が一人前になるためには沢山害があるのを倒さなきゃいけない」


無理はしないでねと町子は朔の手を握った。

朔は握り返し返事をした




◇◇◇







帰宅して光秀はカブト虫を父に見せに仕事部屋に向かったが父は二日酔いで死にかけていた


「よかったな立派なカブト虫…うっ」


「パパァーー!?」




少し休んだのちお父さんは真っ青な顔をして

朔と町子に


「本当にありがとうございました、息子とまた遊んでやってください」と言って頭を下げた。

つられて町子も頭を下げた。



朔は挨拶したのち浴室へと向かった。


光秀の父は「またシュウと無駄話でもしに遊びに来ます」と言い残し帰宅した。


「シュウ??」


町子は疑問に思い聞きなれない名前を口にした。

いつのまにか後ろに来ていた兄に手を引かれてリビングに向かった。


「シュウは俺の名前。

こっちの郵便物とかは秋夜だけど本当は終に夜で終夜変な名前だよね。厨二のHNかよ」


兄は椅子に座らせた町子の目を真っ直ぐ見つめる


「シュウって呼んでみて」


「シュウさん…」

困ったような顔をして町子は名前を口にした。



「名前で呼んでくれたら嬉しいな…昨晩酒のみすぎて記憶無いんだけど俺朔とか町子ちゃんに何もして無いかな、めっちゃ不安だった。ついつい楽しくて…」




申し訳なさそうにごめんと謝った。


やはり酒のせいだったんだと納得した町子は


「大丈夫です何も無いですよ!昨日楽しそうでしたもんね」と笑った





「そうだね、本当に楽しかったよ。」



























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