第3話ぶっ壊れ性能と大鎌



生まれつきの天才と、追いつけない自分

永遠に縮められない差を見た事はあるだろうか


言葉にすらできない圧倒的な差







⭐︎⭐︎⭐︎




梅雨入りをしたせいで長く続く雨に俺はうんざりしていた。



「ねぇさっくーん、素敵なお兄様にアイスを買ってきてくれないかなー」


バカみたいにデカいウザい声が聞こえて来て

それが更に俺をイライラさせた。

室内干しをしようと手に持っていた洗濯物を籠ごと

床に叩きつけ兄さんの部屋へと向かった。


「テメェでいけ!!こんな雨の日に外にお使いなんか行きたくねーよ!」


ブチギレてる俺を見て兄さんはからかってきた。


「あれーそろそろ町子ちゃん迎えに行く時間だよねぇ…じゃあついでに素敵で世界で一番かっこいいお兄様にコンビニで美味しいハーゲンダッツリッチミルクを買ってきてくれてもいいんじゃない??あっ…サーティワンのバラエティパックにしちゃう??町子ちゃん居るしアイスケーキとか?」


俺に財布を渡しながらニヤニヤとしている


「あれれ!まちこ傘忘れちゃった!!こまったな!

あれ?町子ちゃん傘忘れたのかい?お馬鹿だなぁ!この、白馬の王子朔夜様が傘に入れてあげるよ!可愛い子猫ちゃんめ(きゃーまちこちゃんソレ彼氏ー!?)


何故か上機嫌な兄さんは頭が悪そうな寸劇をし始めた。


「うぜー!!湿度高いのにいい加減にしろ!」


声を荒げる俺の姿を見て散々笑い転げたあとスッキリしたのか

兄は少し落ち着きを取り戻した


「せっかくお迎え頼まれて一旦ストーキングからわざわざ帰宅したんだろ??…怪しまれない様に。

いやぁ…努力だねー!ホラホラ!お買い物デートして来なよ。青春は一瞬しかないぞ?」


仕方なく財布を受け取りエコバッグ入れた。


「アイスケーキな。町子に選ばせるから」


靴紐を結ぶ俺に兄さんは竹刀袋に入った俺の刀を投げてよこした


「それなら持ち歩けるだろ?」


「…ありがとう」


前回何も持ってなくて困ったのを思い出した

また俺は同じことを繰り返そうとしていた。


学習能力のなさが恥ずかしい――


しばらく歩くと町子の通う高校が視界に入った。

沢山の生徒が色とりどりの傘の花を咲かせながら

流れ出てくる


その中に傘をさしてない憂鬱な顔をした探し人を見つけた。


「あっ!!さっくんだー!!」


俺に気付いたのか笑顔で駆け寄ってくる。


人がジロジロと嫌な視線を向けてくるが町子は何も気付かないのか抱きついて子犬の様にはしゃぐ。


「傘忘れちゃってさ、お迎え頼んでごめんね」


照れ笑いをする町子を周りの生徒は良くは思わないみたいでガン見されるので真っ直ぐ俺が見つめ返すと気不味いのか視線を足元に落とす奴ばかりだった。


周りの視線を傘で遮りそそさと目的地へと移動する為に歩き出した


雨の日腹嫌なことがあると普段の倍落ち込んだり不快になる気がした



「さっくんどこ行くの?夕飯の買い物?」


「兄さんがアイス食いたいから俺と町子にサーティワンのアイスケーキ買ってきてだってさ」


宙ぶらりんになっていた町子の手をさりげなく握り

黙って歩いた。


暫くすると町子が口を開いた


「さっくん、私ねさっくんと手繋ぐの好きよ。仲良くなってまだちょっとだけど、凄く落ち着くの」


激しさを増した雨の音が煩くて

繋ぐ手から伝わる体温が熱くて

返事が思い浮かばなくて、

軽く繋いでいただけの手を、恐る恐る指を絡ませ強く繋ぎ直した。


雨じゃなかったら顔が赤いのが見られていたかもしれない

雨じゃなかったら心臓の音が聞こえていたかもしれない。


二人でただ手を握り返したりしながら歩いていると

背後から鈍器で背中を殴られたみたいな衝撃が襲ってきた。


「いっ…」


ゆっくり振り向くと目を合わせてはいけないモノが居た――


脂汗が出てきそうになる



「チョーダイ…チョーダイ…、」

かろうじて人の形をしているモノは

何かを引きずっている


無視して歩き出すと向こうも歩き出す

保健室の奴や公園のとは明らかに違う


ズルズルズルッ…と何かを引きずりながら

俺たちの後をついてくる


「町子先にアイスケーキ選んでて。すぐ行くから」

町子に傘と財布を無理やり渡した。


「なんか不審者いるから、後ろ見ずに先に店舗に」


驚いている町子の背中を押した


「急げ!!」


俺が叫んだ瞬間町子が走り出した。

それと同時に化け物も走り出そうとした

そうはさせてたまるかと化け物に蹴りを入れ吹っ飛ばしたがすぐにまた起き上がり近づいてくる


マスクを外したが勝てる気がしなかった


「俺、かっこいいだろ」


絶対に言わないといけないこのセリフも間抜けにしか聞こえない。


オレ達はマスクを外す事で本来の力を使える様になる。逃げたらポイントが入らないし、下手したら減点。

やるしかない


「ごの…変えて、アレかえて」


バケモノは大きな塊を投げつけて来た


もの凄い勢いでぶん投げられた塊は

人間だった。

擦り切れて肉が所々削がれ落ち骨が見えている部分もある。


 

死体を捨てたからか化け物は動きが早くなった


隙を見つけ背後から斬りかかるも全くダメージが入らず化け物はニタリと笑い

俺の腕を掴みものすごい勢いで地面に叩きつけた



「ってぇ…お前なんなんだよ…」


起き上がるのがやっとなくらいのダメージが入ったがなんとか手を伸ばし手から落ちた刀を拾えた。

いくら考えても上手く戦える気がしなかった



「…さっきまで手ぇ繋いでたのによ、なんなんだよお前」


よろよろと起き上がり深呼吸をしたのち一気に走り抜け切りつけたつもりだったが

雨のせいで足が滑り上手く速度が上がらず叩き落とされ地べたに這いつくばってしまった。

瞬間、奴に脚を掴まれた


ニッと笑い化け物は走り出した、俺をさっきの死体の代わりにしようとしているのだろう


「くっそ、なんなんだよ」

もがくしかできない自分が情けなくなった








雨音と化け物の笑い声しか音がない中、

良く知っている声が聞こえた――



「ありゃー、やってんねー!さっくんボロボロじゃん!」


笑いながらそんな事を言っている内に一瞬兄さんが動いただけで

化け物の両腕は地に落ちた。


「え…」


兄さんの手元には見たことの無い真っ黒な大鎌があった。


兄さんの身長より長い


「さっくん…端末ある?」


俺のポケットから端末を取り出し鎌を近づけると

電子音が鳴った。そのまま兄さんはポケットに

端末を入れ



「人の恋路を邪魔する奴は死ね!」



と叫びながら重そうな鎌を振り回して

バケモノを細切れにして俺の口に一切れねじ込んだ


何が起こったか全くわからない。


兄さんは返すわ!と言いながら端末を投げて来た

液晶には


《ヒキコ亜種  500P》



亜種は噂によってできた理性のないただの噂をなぞるだけの空っぽの化け物。


「ちょーっとズルしちゃったけどばれないっしょ」


兄さんは巨大な鎌をバラしながら

「俺の行動範囲内でよかったわ。こんな事二度とないからな」

と俺を一瞬睨んだ。


溜息を吐いたあと兄さんは近寄って来て

俺の頭を叩いた。


「ホラホラ!刀は兄さんが運んどいてやるからさ!

お前は町子ちゃんとアイス買って来いよ。そこに車置いてるから」



兄さんは俺に向かってヒラヒラと手を振った。

俺は顔についた泥を服でぬぐい町子に会いにくいなと少し思った。


強くなりたい



町子には変質者を警察に突き出したと嘘ついた。

その日食べたアイスは何も味がしなかった

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