第4話天才アイドルと恐竜オタク


ベキベキにへし折れても

傷ついても


俺のために笑ってくれる人が居るなら

何とかなる気がした






⭐︎⭐︎⭐︎



その日も朝から雨だった。

雨の日はついこの間ボロ負けして兄さんに

ポイントを貰う屈辱的な流れを思い出すからか気が重い――


今後どうしたらいいかを考えるも

頭が痛い恐らく兄さんは学生時代

高ポイントを何体も倒していたのだろう

俺は自分の知る限りの学生の中では成績も良く

強かった。

教師も親も俺に期待をして

俺は町子にまた会うためだけに必死に勉強をして

異界からこちらの世界に来た。


俺は兄さんがあんなに重い大鎌を軽々振り回し

あんなに強い敵を瞬殺する程強いとは知らなかった


「俺はね魔術も呪いも、何もかも読んで実践して頭の中だよ知識は鎧であり生きていく為の生命線。本を沢山読めよ」


「同じ位の強さの妖怪が2人居るとしたら勝つのは沢山勉強している頭がいい方だよ。だから身体と同じく頭も鍛えなよ」



俺が入学する時に兄さんから言われた言葉

今になって何となくわかった

兄さんは本当に物凄く強かった。

経験の差もあるかも知れないが動きも武器の扱い方も自分が恥ずかしくなるほど差が激しかった。


現役では無い状態であれなら現役時代は…?と考え出したらキリがなかった。


コンコンッ


部屋をノックする音が部屋に響いた。


「さっくんおはよ!…学校ね、サボタージュしちゃった」


ニコッと微笑む町子が何だかおかしくて

少し気持ちが楽になった気がした。

「朝食は?食べた?」


俺の問いに対して首を左右にブンブンと振る


「兄さんも起こして来て、なんか作るわ」


俺は洗面台に行き顔を洗い歯を磨き

兄さんにもらった薬を1錠口に含んだ。


食事の時だけは隠しようがない、テーブルを一蘭みたいに改造するか?と悩んでいたのをみかねて兄さんが

3シート分くれたものだ。


1回飲んだら十二時間は口元を隠せる。

でもその間に戦闘になったらマスクをしてるのと同じ程度しか力が出ない――。


だから今日はお休みって日にだけ使うといいよと説明された。

兄さんは仕事の取材が来たり、仕事絡みの知り合いと会う時に仕方なく飲むと言っていた。

実験的な感じで使ってみようと思った


とりあえずマスクを再びして

朝食の準備をしていたら兄さんが悩ましげな顔して台所に顔を出した。


「兄さん…何なんか変な顔して…」


何だかいいたげな顔をしているが

何もないよとソファーに腰を下ろし新聞を読み始めた。


町子は慣れた様子でテレビをつけると子供向け情報番組をつけた。

賑やかなBGMが部屋を明るくする


画面の中に見知った顔が映ったが俺は知らないフリをして卵焼きを無言で作った。


「さっくん、お兄さんこの天崎天ってアイドル可愛いいの。可愛いと思うけどこの間恐竜何も詳しくないのに恐竜大好き!とか、恐竜博士だよ!とかテレビで言ってたの。何だか嫌だったな…でもこんなに可愛かったら素敵な恋人居たり…モテたり…人に嫌われたりも

ないのかも…お顔好きだけどもやもやする可愛くなりたかったなー」


とテレビ画面を指差しながら町子は唸っていた。


「町子ちゃんはモテたいの?」


兄さんは新聞を見ながら町子に質問をした


「モテたいとかじゃないの、ただ可愛く生まれていたら好きな人に好きと言えたり学校で嫌われたりもないかなとか思って…ごめんなさい」



「町子ちゃんの良いところは明るくて

素直なとこだよ。その悩みは年頃の女の子はみんな抱えているんじゃないかなー…大丈夫だよ町子ちゃんには町子ちゃんの事をすいてくれる人が現れるからさ」

と町子の頭を撫でながら兄さんはこちらをチラ見した。



おれは町子を呼び味噌汁と白米昨晩の残りの煮物を運ぶように頼んだ。

町子はいつもの調子ではしゃぎ台所とリビングを往復した、そして俺は恐る恐るマスクをずらして手鏡で口元がどうなってるか確認して

マスクを外した。


どこからどう見ても俺はただの「人」だった。


兄さんも薬を飲んでいたみたいで俺の後にマスクを外しテーブルを囲んだ。


しかし町子の様子が何故かおかしかった。



「町子どうしたの?お前の卵焼きはちゃんと甘いぞ」


町子の卵焼きを指指すも町子は挙動不審だ



「私前に助けてもらって、良くしてもらってこのお家に何ヶ月も遊びに来てるでしょ?ほぼ毎日…でも私初めてマスクない顔見て…なんか緊張してごめんなさい」


いただきます!と手を合わせて町子は

黙々と美味しそうに俺が作った朝食を口に運ぶ


もしかしたら俺の顔好みじゃないのかなと不安になりながら箸をすすめた。


兄さんは何故か俺と町子を見て笑いを堪えている

めっっちゃ不快だ。


「いやー、若いね。俺は仕事してくるからあとはお若い2人でごゆっくり」


と食器も下げずに仕事部屋へと兄さんは消えた。


2人残されいつもならリラックスムードなのに今日は謎の緊張感がある


「町子、うまいか?」


「もちろん、美味しい!いつもありがとう」


いつも目を合わせて話すのに今日は合わせてくれない恐らくこれは


《マスク外したらブサイクだった現象かブサイク迄は行かなくとも微妙だった》アレではないのか?

と急に恐ろしくなり外すんじゃなかったと

後悔をした


食器を下げ、洗濯機を回す最中薬はまだ全然効いているがマスクを再びつけ麦茶を片手に町子の隣に腰を下ろすと町子は俺の横ではなく正面に座り直した


「さっくん、何でマスクしちゃうの…」


「町子…俺の顔嫌かなと思って…」


少し間が空き町子は恥ずかしそうに口を開いた


「かっこよかったの…すごく、すごく」

なぜか町子は泣く寸前の様な顔をしていた。


「町子から見てかっこよかった?なら良かった。何で泣きそうなの?」


俺は町子の手を取り…自らの顔に近づけた


「私、そばにいたら浮いちゃうなとかなんか沢山頭に浮かんで私可愛くないし…」


涙がポロポロと落ち出したのを見て何かがプツンと切れた気がした



「町子俺のマスク外してみて」


町子は恐る恐るマスクを外し俺の目を見つめる


「俺にはアイドルなんかより…町子の方が可愛いよ。」


町子は驚いた顔をして俯いてしまった。


「俺最初からずっと町子が大好きだし大切。

だから…さっき素顔を見て嫌われたのかと思った」


俺の言葉の後町子は物凄い勢いで顔を上げ

嫌いなわけない!大好きと叫んだ


顔を真っ赤にして肩で息をする町子の頬に触れる


「さっくんの大好きはどんな好き?」


と尋ねられ勢いで唇を重ねた。



今の口元は偽物みたいなものでも

この気持ちは本物




何回か息継ぎしながら我を忘れてお互いを求める様にキスをしていたら


物音がして

急いで振り向くとそこには兄さんと何故か幼馴染が立ち尽くしていた



「さっくん…朝っぱらからさ…濃厚…」


笑い出すのを耐えている兄さんと


白目向いている幼馴染



「やまちゃん久しぶり…いつの間にそこに…」


俺は恥ずかしい場面を見られあまりにも恥ずかしくてこの場から逃げ出す方法を考えていた



「さっくん、アレさ俺とやまちゃんに気付かなかったらこのままやってたよね」


プププと必死に笑いを堪える兄さん


俺の胸にペタリと顔をつけ震える町子


ブチギレてる幼馴染


「あのさ、あんた何でこんなとこで女の子にそんなベロチューかましてんの!?」


「女の子はねデリケートなの、それにその子…制服着てるじゃない学生?…?は?」


ズカズカと近寄って来たくすんだピンクの髪をした

女の子は朔の頭をカバンで殴り始めた


「お前な、人がチャイム鳴らしたら止めろよ!!この子が恥ずかしい目にあうでしょ!?ケダモノ!」



「チャイム…?気付かなかった…」


朔のその言葉に更にキレた幼馴染の女の子は脚元にあった掃除機を持ち上げ投げる体制に入った。

そこでようやくストップが掛かり

少し頭を冷やした後みんなで食卓テーブルに着席した。


「あの…質問いいですか…もしかして天ちゃんですか…」


町子が恐る恐る尋ねる


するといきなり立ち上がり


「最強きゃわわ♡超天才アイドルの天ちゃんです!」

と営業用の名乗りをした。


その後静かに着席した。


「やまちゃん、この子天ちゃん可愛いって朝褒めてたんだよ、ね!」


兄さんは場の空気を変えたかったのか麦茶しか飲んでないのに酒を飲んだ様なテンション高めで

俺たちに話を振る


「私天ちゃん好きだけど恐竜好きって嘘ついた事は許せなくてでも天ちゃんは大好きなんです、いつもこんなに可愛くなりたいって思ってる位好きだけど

何で嘘ついたか聞きたくて…」


恐竜ヲタクは我慢できずにきいてしまった。


兄さんも俺も顔を見合わせゆっくりやまちゃんを

見る


やまちゃんの顔は一瞬歪んだ気がしたが

すぐに笑顔になり町子を連れて自分のカバンを拾いつつ他の部屋に行くとしばらく戻らなかった。

しかし何かを説明して納得したみたいで町子もやまちゃんもすっきりとした顔をしていた。


「何話したの…」

朔はやまちゃんに尋ねた。


「そのままよ、テレビで好きな映画を尋ねられてジュラシックワールドシリーズ、ジブリ、ディズニーって答えたら恐竜博物館の館長が見ていて恐竜大使のオファーが来た。でも映画位のしか知識ないからもし詳しいなら教えてほしい。私も映画のブルーレイ全部所持してるくらいは好きよって伝えたわ。」


やまちゃんは麦茶を飲み干しところで…と

話を切り替え

本来の用事を俺と兄さんに伝えた。

メールや通話だと何かあったらいけないからとの

気遣いだった。

せしてその内容はあまり宜しくは無いものだった。


やまちゃんは訳あってこちらの世界では

怪談イベントなどで怪談師をしながらそこそこ人気なアイドルをしている。

情報もそれなりに集まったりする


「さっくん、凹んでる暇じゃ無いよねぇ…

やれんの?」


兄さんは俺を鋭い蛇の様な目で見てきた


「やるしか無い」



天才アイドルは私がヤマノケだってばらすんじゃ無いわよ。山ちゃんって呼ぶのは絶対やめて!

と俺たちに釘を刺し何故か町子と連絡先交換をして

慌ただしく家を出た。




他人の正体なんて言えるはずが無い

自分の正体もバラせないのに



夕方になり俺は試験やらポイントやらそもそも悩んでいた事を思い出し肩を落としていた。

町子は俺の顔を覗いてきた。


そして微笑んだ。

引き寄せ強く抱きしめて

とりあえずやるしか無いのだと自分を奮い立たせた


この子の為にやるしか無い。


こうやって笑っていてくれたらやり切れる気がした――――――。






⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


「さっくん早く俺位に強くなれよ。お前がぶち壊すしか無いんだよ全部」



ドアの向こうで兄は小声で呟いたが誰も気付かない、知らない。


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