第2話死にたくなる公園


何となく嫌な気分になるような場所ってあるよな

出来れば通りたくない場所


だいたいその場所には〈悪いモノ〉が居る

近付くなよ。

カンは当たる――――。







⭐︎⭐︎⭐︎


「さっくん見てみて!!!!」


昼飯を作る俺の元に町子は嬉しそうに駆け寄ってきた。

スマホ画面をこちらに向けてニコニコとしている…が今は見る事はできない。


「町子、わかった。すこーしだけ待ってくれ今お前のオムライスを作っている最中なんだ…」


フライパンの中の自らの好物を覗き込むと

町子は、はい!っと返事をしてスキップしながらリビングに戻った。



なんとか満足がいく出来のオムライスが完成して

皿を手に取り町子の居るリビングに持っていくと

町子は不思議そうな顔をした。


「なんで私のだけなの?さっくんのは?」


「俺は朝食べ過ぎたしさっき味見もしたし…あっ。そんなことより残したら恐竜発掘チョコレートは無しだからな」


俺が差し出したスプーンを受け取り町子は

得意げに笑った。


「さっくんが作ってくれたご飯残した事ないでしょ?いただきまーす!」



「はいよ。」


誤魔化すしかなかった。

マスクの下は〈口が裂けてる〉なんて言えない

見せるわけにはいかない。

今度は隠し通すしかない――――――。


流石に毎回別で食べると怪しまれるから対策を練ろう。


町子が美味しそうに食べる姿を見ながら色々と

考えた。

ずっと続いたら良いのに。



⭐︎⭐︎


「ねぇ!さっくん、今さっきこれを見せたかったの!」


改めてスマホ画面を差し出す。


「恐竜…?」


手のひらのスマホ画面には恐竜が動いている


「ジュラシックワールドアライブ!恐竜のDNAを集めて恐竜を作ったり戦わせたりするの!

やっっとインドミナスレックスが出来たの!インドミナスは現実にはいない恐竜なんだけどね、T-REXとラプトルの遺伝子が入ってるの!映画で見て一目惚れして…!」


町子は物凄い勢いでしゃべってる

ゲームで好きな恐竜が出来たらしく

いつもに増して喋る

俺に恐竜の良さはわからないけど

恐竜の話をする町子の事は可愛いなと思う



「もぅ!さっくん!話聞いてる??」


町子が俺の顔を至近距離で覗き込んで来た


「聞いてる…」


少し動いたらキスしそうな距離。

触れられない。

触れられない。


苦い気持ちを押し殺した。


「よかったじゃん、インドミナス。」


さりげなく立ち上がり距離をあける。


「ねえさっくん、恐竜のDNA集めに行きたいの。一緒に来てくれる?」


俺の手を掴み町子はキラキラした目で見上げてくる


「良いよ。買い物あるし」


「やったー!どっかでお茶もしたいなー!!」



買い物の支度をしながらデートみたいだななんて思っていた。


この時までは


「なんか、通りたくない場所があって…一人で。

嫌な気持ちになるの自殺騒ぎとかあったからかもしれないけど」


町子はショルダーバッグを肩にかけながら不穏な言葉を口にした。



「自殺…」



さっきまでのふわふわした気持ちが消え失せる言葉だった。


嫌な雰囲気を感じながらも兄さんに出かけると声かけて町子と家を出た。


歩きながら恐竜探しをしてる間は眼福だった

多分二駅位は余裕で歩いたが疲れなかったし

行き交う人より自分が一番幸せな気すらした。


いつも俺に吠えてくる近所の犬すらも気にならないくらいだった


「聞いて!コインもすごく貯まった!!いつもコイン足りなくなるから嬉しいな♪レベル上げできる!!」


町子は最高潮だったが辺りから嫌な気配が漂っていた

多分近くに寄ったらアウトな場所がある

ものすごく嫌な場所だ。


「さっき言ってた嫌な場所ってこの辺?」


俺が立ち止まると先に歩いていた町子も立ち止まり振り返る


「そうだよ。すぐそこ、よくわかったね」


青白い顔をして困った表情を浮かべる

この辺りに来ると嫌な事思い出したり、頭痛くなるんだよね。おかしいよねーって言いながら

俺の前を歩き出した。


引き返すべきだとはわかっていた。


コンビニ、電柱、マンションを通り過ぎ

奥行きのある不気味な児童公園に着いた。


「少しだけ!ここにバリオニクスが居るの、DNA取ったらすぐに出るから!」


今までの感じだと多分1.2分だろうし

まぁ良いかと許してしまった。



まだ昼間なのに薄暗くじめじめして

重苦しい…。

ブランコの横に潰された花束やら潰されたジュースが転がっている


古い物も新しい物も――


隅に追いやられたゴミはおそらくお供え物だったのだろう


理由がわかった。

ここは色々な物を呼び込んでしまっている

自殺が自殺を呼び、多分付近のモノも呼び集めているそんな場所なんだ此処は。


「死にたくなる公園とか最悪じゃん」


車も人通りすらほぼ無い。

無意識に皆んな避けているのだろう

人間も動物もカンが鋭い


「町子ー、帰るぞ!いつまで恐竜さがしてんだよ」


帰ろうと町子を探すけど見当たらない


「狭い公園なのに――」


遊具裏の木の下で縮こまり目を見開き独り言をぶつぶつと唱え続ける町子を見つけた。

俺のことは見えてない。否、何も見えてないんだ


「なんだお前」


町子を見つけたのと同時に〈公園の主〉が姿を現し町子の背後でゆらゆら揺れていた


愉快そうにゆらゆら揺れている


ぼそぼそと何か口ずさみながら

「ミンナ…アナタガキライ…ミンナダイキライ」


段々と主の声は大きくなり町子は泡を吹いて倒れた。

精神が汚染されて居る


「お前何したの?…ぶち殺してやるクソ雑魚」


自分の判断を間違えまたこんな事になった。

自分自身にイライラした。



手元には財布とエコバッグとスマホしか無い

何か持ってくるべきだった


起きそうに無いのを確認してマスクを外した


「なぁ、俺かっこいい?」


長く鋭い爪。

裂けた口から鋭い歯が見え隠れするそれが朔の本当の姿だった


全速力で駆け寄り公園の主が町子に入り込もうとするのを爪で素早く引き裂き、噛みちぎり食い殺した。


「昼飯食わなくてよかった…」


口の中は砂が口に入った時みたいにジャリジャリして気持ち悪い


毎回の様にポケットの中の端末からピピッと電子音が鳴る


〈ジバクレイ6P〉


「しけてんな…ほんと」


端末を仕舞い、急いでマスクをつけ町子に駆け寄った。



「町子、町子」


何度か揺さぶり名前を呼ぶと

ようやく目を覚ました。


「町子、大丈夫か!?町子!身体は?」


寝ぼけた様な顔で町子は俺の顔を見つめている


「さっくん?あれ?」


「またお前倒れたんだよ、びっくりした…」

思わず抱きした。

そして視界に映ったスマホを拾い町子に渡した


「スマホ…ありがとう、私また倒れたの…なんか最近ごめんね」


ゆっくりと起き上がり、町子は申し訳なさそうに頭を下げた


「身体は大丈夫か?今日歩きすぎたんだよ、先に送ってくわ」


町子の頭をワシワシと撫で回し手を引いて公園を出た



何も居なくなったとしてもこんな公園には長々いたくはなかった

























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