v.s.ハデス 前編

ゴエモンさんが、ここまでのハデス戦についてザッと説明してくれた。


「第1期も合わせると、全員一度はハデスと闘ってると思う。知っての通りヤツのHPは3段ゲージだ。昨日初めて、3段目まで削ったヤツらがいる。ソイツらの情報によると、2段目までは槍による物理攻撃だけだが、3段目に入ると魔法の攻撃があるらしい。こっちの魔法攻撃は、火属性は効きにくい。魔法で攻撃するときは、風魔法を使ってくれ。分かってる事は以上だ」


凛の火魔法が通じないのか?

火力が落ちるな。

防御に関しては、2段目を削り切るまではコクーンが有効だな。


「カリン、全員にコクーンを掛けてくれないか?消費したMPの補充分のマジックポーションは、こっちで持つ」


ゴエモンさんも同じ考えだ。

凛がこちらを見た。


「凛、掛けてやってくれ」

「ん、分かった」


凛がアクスレピオスの杖を装備する。

初めて見るユニークウェポンに、レイドメンバーが騒つき始める。


「ルイス、ハデス戦の最中もカリンにその杖を装備させてくれないか?」

「それは構わないんですけど、懸念事項があります」

「なんだ?」

「アスクレピオスは医療の神様で、死者まで蘇らせたそうです。アスクレピオスが死者を蘇らす度に冥府の住人が減る為、ハデスには反感を買っていました。最後にはハデスがゼウスに頼んで、滅ぼしたと言われてます。まさかとは思いますが、ハデスの他にゼウスまで出て来たら、無理ゲーです」

「流石にそれは無いだろ」

「俺も無いと思いますが、凛にヘイトが集まる気がします。それは逆にヘイト管理が楽になるメリットがありますけどね」


考え込んだゴエモンさんが、タンクを凛の前に集中させる案を出した。

他のメンバーも納得した。


各パーティーが装備の確認をする中、凛がコクーンをかけて回る。

俺も菊一文字から天叢雲剣に装備を変えた。


「ルイス!それ『典太』か?!」


流石ゴエモンさんだ。

一目で天叢雲剣が、典太にそっくりだと気付いた。


「いえ、そういうユニークウェポンです。所有者の最も使い易い形状になるようです」

「この前話してた天叢雲剣か?!」

「…ええ、まあ」

「…まあ、それは良いとして、戦力の確認をしておこう。パーティーメンバーのレベルを申告してくれ」


ゴエモンさんは、深く追及しなかった。

各リーダーがメンバーのレベルを申告する。


「ウチはタンクがレベル4で、他はレベル3だ」

「俺の所は、全員4だ」

「私の所は、ヒーラーが4で…」


申告が続くが、大体がレベル4だ。

ゴエモンさんとアステリアさんの2人が、レベル5で最高だった。


「ウチは全員9です」

「「「「「「!!!」」」」」」


全てのリーダーが絶句した。


「ルイス、美味しい狩場知ってるのか?」


誰だって聞きたくなるよな。


「いえ、この刀を手に入れた時のイベントボス、それにケルベロスとタナトスの経験値がデカかっただけです」

「…美味しい所、総取りだな」

「余り、他のプレイヤーに言わないで下さいよ」


レベルが突出してる上に、ユニークウェポンが2つだもんな。

やっぱり、気に喰わないって顔のヤツがいるよ。

パーティーの男女比もあるか?

ハデスを倒したら、とっとと帰ろう。



「行くぞ!」

「「「「「おおおおお」」」」」


ゴエモンさんの号令で、レイドメンバーが声を張り上げる。


「俺達も行くぞ!」

「「「「「うん!」」」」」


この返事、和むよなぁ。

なんか睨んでる人がいるけど、気にせずゴエモンさんの後に続いた。

アムダスで借りた馬が、ダンジョンに入って行く俺達をジッと見ていた。




ターゲットはハデスだけだ。

俺達は無駄な戦闘を避ける為、4層までショートカットしボス部屋を目指した。

タナトスを倒した今、特に脅威はないと思っていたが、オークやリーパーに苦戦するメンバーが結構いた。


(ルイ君、これヤバいんじゃない?)

(ああ、頭数の問題じゃない。PSが低過ぎる)

(最悪、私達だけで闘う事になるわよ)

(それもMMOだよ)

(…相変わらずね)

(流生らしいわ)


取り敢えず脱落者を出さず、ボス部屋手前のセイフティエリアまで来た。

コクーンを砕かれた者に、凛が魔法が掛け直す。

全プレイヤーがHPとMPをフルに回復する。

最後に自分のポジションを確認する。


陣形はハデスを四方から取り囲む形を取る。

ハデスの正面になるであろう、凛のチームが一番の大世帯だ。

タンクが5人に、アタッカーが7人。

後衛は凛が1人だけで、総勢13名。

ユナとノナも、このチームだ。


俺はハデスの背後に位置を取るチームだ。

俺の他にアタッカーが4人、タンクが2人に後衛が2人。

俺のチームの後衛は、リサとレイだ。

ハデスの左右も、同じような構成だ。


「ルイス、行けるか?」

「はい、準備OKです」


他のチームも準備は完了している。

俺のチームが先頭でボス部屋に進んでいく。


ボス部屋の手前に立つと、高さ10m近い扉がゆっくりと開いた。

第1期で見た時と同様、正面の玉座にハデスが座っている。


先頭のプレイヤーが部屋に入ると、灯が灯る。

プレーヤーが揃うと、ハデスがゆっくり立ち上がる筈だ。


『ヌオォォオオオ』


しかし、今回は違った。

凛がボス部屋に入った瞬間、ハデスが雄叫びをあげ立ち上がった。

そのままバイデント(ニ叉の槍)を突き出し、凛に襲い掛かった。

タンクが1人、凛の前に出る。


パキィィン!


その槍を受け損ね、タンクのコクーンが砕けた。


「い、いきなりか!?」


凛チームの他のタンクが、驚きの声を上げた。


『その杖!アスクレピオスの縁の者か?!この冥府から魂を奪いに来たか?!』


思った通りアスクレピオスの杖を持った凛に、ヘイトを向けた。


「ユナ、ノナ!」


レイドの陣形を整えるまで、3人でハデスを抑える。


「斬!」


天叢雲剣の斬撃を飛ばすと、ハデスのタゲが俺に移った。


『下郎が!!』


バイデントの突きが俺を襲う。


ガシッ


ユナが俺の前で、その突きを受け止めた。

その隙にノナがハデスの懐に潜り込む。


「ルイ君、張り付いたわよ!」


槍の間合いの内側に入ったノナが、ハデスに連撃を浴びせる。


「ルイス!下がれ!」


陣形を整えたゴエモンさんのチームが、前に出る。


パキィィン!


ゴエモンチームのタンクが、槍を受け損ないコクーンを砕かれた。

やはりPSが低い。

このペースでコクーンを砕かれたら、掛け直すだけで凛のMPが枯渇する。


「凛!コクーンは、掛け直さなくて良い」


凛は直ぐに、俺の意図を理解した。

ふるいにかけらたように、PSの低いプレイヤーが消えて行く。

ハデスのHPゲージを1本削る頃には、プレイヤーの数は半分くらいになっていた。


『ウオォォォオオオ』


2本目のゲージに移ると、ハデスの身体が巨大化した。

ここまでは、第1期で経験済みだ。

ハデスの攻撃力が跳ね上がる。


こちらもリサを中心に、サポーターが前衛プレイヤーのSTRとVITを底上げして、応戦する。

俺だけは、AGIにブーストを重ね掛けする。

一気にギアを上げて、ハデスに突っ込む。


「出た!前衛、ルイスの動線を塞ぐな!」


俺がギアを上げると、ゴエモンさんがタンクとアタッカーに下がるように指示を出した。

ハデスの間合いギリギリでヘイトを集めながら、ヒット&ウェイで天叢雲剣を叩き込む。


「お、おい、アレって?!」

「十兵衛だよ。第1期からいる奴らは、結構知ってるぞ」


俺の正体を知っている連中の多くは、ゴエモンさんの指示に従ったが、そうでない者もいる。

ボス戦は、その貢献度によってパーティー毎に得られる経験値が変わるからだ。


与えたダメージ量が一番分かり易いが、バフによって稼いだダメージの増加量等も加算される。

防御に関してもタンクが防いだ敵の攻撃、バフによって軽減されるダメージ量等が加算される。


細かい事は解析が出なければ分からない。

しかし、俺とノナが稼いだダメージ、凛のコクーンとユナの盾で防いだダメージ、リサのバフで稼いだ攻守のダメージ、レイのヒールでの回復量、どれを取っても俺達が突出している。


「全部持って行かせるか!」


アタッカーが1人、俺の動線に入ろうとした。

ぶつかる寸前に、方向転換をしてそのアタッカーを躱した。

スピードの落ちた俺に、ハデスの槍が迫る。


ガシッ!


ユナの盾がハデスの槍を防いだ。


「ルイちゃんの邪魔しないで!」


眉を吊り上げたユナが、そのアタッカーを睨み付けた。

ハデスの槍がそのアタッカーを襲い、呆気なくHPを散らし消えて行った。


俺は再度スピードを上げ、ハデスと戦闘を続けた。

ユナとノナもタイミングを計り、戦闘に参加してくる。


時間が経つにつれ連携が熟れていく。

俺が離れるタイミングで、ノナが背後から、ゴエモンさんが横からハデスを斬り付ける。

ハデスが振り返り突き出した槍をユナが受け止める。


ユナのSTRにはヘラクレスの指輪で補正が掛かり、リサのバフで更に強化されている。

持ち前の運動神経も相まって、完璧にハデスの槍を封じ込めている。


前衛が安定すれば、後衛も攻撃に参加し易い。

風の刃が、ちまちまとハデスのHPを削って行く。

こちらの中心は、凛・リサ・レイだ。

アステリアさんも、ゴエモンさんを守るように風の刃を飛ばしている。


ハデスの2本目のゲージが飛ぶ頃には、俺達の連携について来られるプレイヤーは、ゴエモンさんとアステリアさんだけになっていた。


『ガアァァァアアア』


2本目のゲージを削り切ると、再びハデスが雄叫びを上げた。

肌の色が真っ赤に変わり、身体から炎が噴き上げている。


ふうぅぅ


俺は、大きな息を吐いた。

ここからは、未知の領域だ。

そう思った瞬間、ハデスの槍が火を噴いた。


「下がれ!」


俺達は何とか躱したが、殆どのプレイヤーが一撃で消えて行った。

残っていたのは、俺達とゴエモンさん、アステリアさんだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る