v.s.ケルベロス

「ルイ、あれ、昨日のヤツらだよね」


八岐大蛇との戦闘で横殴りしてきたヤツらが、ケルベロスを取り囲んでいた。


「何だお前ら?!横殴りとかふざけたマネするんじゃねぇぞ!」


指示を出してるヤツが、俺達に気付き声を荒げた。

やっぱりコイツがリーダーか?


「どの口が言ってんだ?!」

「流生、放っておこう。コイツら全滅するの上手だから、直ぐにいなくなるよ」


俺の言葉に、凛が更に辛辣な言葉を重ねる。


「お、お前ら、昨日の…」


向こうも気付いたらしい。


「仇は討ってやるから、心置きなく全滅しろ」

「……」


俺も凛に乗って、ヤツらを煽った。

リーダーが悔しそうに黙り込む背後で、プレイヤーが1人また1人と消えて行く。

リスポーンして戻ってくるプレイヤーもいるが、減っていくスピードの方が速い。


横殴りはしないが、人柱になってくれると言うのだから、遠慮する事はない。

有り難く観察させてもらう事にした。


八岐大蛇のように、頭一つ一つにHPゲージはない。

全体でHPゲージが1本あるだけだ。


ダンジョンボスのように、HPゲージが3段とか複数ある訳では無いが、その1本が全く削れていない。

正確には削れても、直ぐに回復してしまうのだ。


頭も方も一つ潰しても直ぐに再生してしまう。

ゴエモンさんの情報通りだ。

消耗戦になって、プレイヤーの回復手段が無くなると、全滅という訳だ。



暫くするとプレイヤーの数が半分くらいに減った。

そろそろギブアップかと思ったところで、リーダーが喚き出した。


「お前ら、手を貸せ!昨日、手伝ってやったろ?!」

「はぁあ?!何言ってんの?横殴りしてきた上に1ミリもゲージ削れなかったでしょ?!」


凛が声を荒げた。


「…手伝ったら、アイテムはやれないが、ドロップした金の1割をやる」


舐め切った条件を口にするリーダーに、凛がキレた。


「流生、コイツ、セルゲイ並みのクズよ!」

「!」


その言葉にリーダーの顔が強張った。

その反応をみて、凛も驚いている。

俺も察した。


「クズ臭がそっくりだと思ったら、セルゲイよコイツ!」

「……」


いつの間にかセルゲイの仲間は全ていなくなっていた。

リスポーンしても戻ってくる気はないらしい。

ケルベロスがセルゲイをタゲった。


「みんな下がれ!」


俺の言葉に反応し、全員ケルベロスから離れた。


「グワァァアア」


3つの頭に襲われたセルゲイが叫び声を上げた。

痛くは無いだろうけど、トラウマになりそうなヤられ方だ。

両腕と首を食い千切られている。

セルゲイが消えるまでの間に、俺達は陣形を整えた。


ユナとノナがケルベロスの正面に立つ。

その斜め後方に後衛の3人が位置取りをする。

俺がやや離れて真横で待機した。


ノナがケルベロスに斬り掛かる。

深追いをせずに、直ぐにバックステップで逃げる。

ノナに迫る頭をユナが盾で防ぐ。

ユナが防いだ頭に、再びノナが切り掛かる。


2人の動きに合わせ、後衛の3人もポジションを変えて行く。

何度も同じ事を繰り返すと、凛がタイミングを掴んだ。


「今よ!」


凛の合図で、後衛3人が同時に魔法を放った。

ユナとノナの間を擦り抜けて、3つの火の玉が別々の頭に命中した。

ほんの一瞬だが、ケルベロスの動きが完全に止まった。


「斬!」


天叢雲剣を振り下ろす。

空間が歪んだように見えた直後、ほぼ同時に3つの頭が落ちた。


「ヤッたの?!」


ノナがお約束のフラグを立てた。


「ノナ、それ言っちゃダメなヤツ」

「あ、ごめんなさい…」


フラグの所為ではないだろうが、俺から見て手前の頭から順番に再生した。

あの程度のタイムラグでもダメか?


「流生、撤収する?」


用意した作戦が失敗したら、即撤収もセオリーの一つだ。

だが、もう一つ試す。


「凛、さっきの魔法の直前に、俺を上に飛ばせないか?」

「…風魔法で流生を上空に打ち上げるの?」

「そうだ。横から斬ったんじゃタイムラグが出る。上からギロチンの刃みたいに斬撃を飛ばす」

「風は起こせるけど、細かい制御は無理よ。自分で上手く風を捕まえてね」

「ああ、これでダメなら今日は終わりだ」


俺と凛が打ち合わせている間も、ユナとノナがケルベロスを引き付けている。

3人の射線を確保するように、再び凛がリサとレイに指示を出し始める。



凛が俺の方をチラリと見た。

その合図に合わせて、ケルベロスに向かって全力で走る。

一瞬タゲが俺に移りかけたが、直ぐにユナが盾を頭の一つに叩きつけた。


タゲがユナに戻ったが、隙が出来た身体の横を別の頭が襲った。


パキィィン!


ユナを守っていたコクーンが砕けた。

直ぐにノナが、ユナを襲った頭に斬り掛かる。

その隙にユナがバックステップでケルベロスから離れた。


もう、コクーンをかけ直す余裕はない。

凛を信じて上空に向かって踏み切った。


「ストーム」


凛の魔法で、身体が上空に舞い上がる。

優しく押し上げてくれるような風じゃない。

身体を吹き飛ばす嵐のような風だ。

崩れそうになる体勢を無理やり立て直す。


「「「ファイアボール」」」


凛・リサ・レイの声が聞こえた瞬間、ケルベロスの動きが止まった。


「斬!」


これでどうだ?


完全に同時なんて、100パー無理だ。

タイムラグが、許容範囲に入っているかどうかだ。

その判定は、解析が出てない今は分からない。

分からないなら、ここは攻めだ。


「総攻撃!」


全員に攻撃の指示を出す。

頭が再生すれば、これで俺達も全滅する。


「ブーストSTR、ブーストINT」


リサのバフで前衛の攻撃力と後衛の魔力が底上げされる。


「「ファイアガトリング」」


凛とレイがMPが尽きるまで、火の玉を連射する。

これでもう、回復魔法は使えない。


前衛ではノナが防御を捨てた連撃を放ち、ユナが力任せに盾を叩きつける。

ケルベロスのHPゲージが物凄い勢いで削れて行く。


「チェストォォオオ!」


凛の魔法の効果が切れ、自然落下するエネルギーを全て天叢雲剣に乗せ、頭を失ったケルベロスに叩き付けた。

気分は示現流だ。

二の太刀はない。


バシュッ!


胴体が真っ二つに切り裂かれ、ケルベロスのHPゲージが飛んだ。


パララランランラッラ〜ン♪


頭の中でレベルアップのファンファーレが鳴った。

レベルが8になった。


「「「「「やったぁぁあああ!」」」」」


5人が俺に飛びついてくる。


「流生、何がドロップしたの?」


ドロップアイテムは、ラストアタックを決めた俺のストレージに入っていた。


「指輪だ。ウィンディ、鑑定してくれ」

『レア度7のユニークアイテム、ヘラクレスの指輪です。VITとSTRに補正がかかります」

「凛、どうする?」

「指輪っていうのが引っ掛かるけど、ユナが装備するのが妥当ね」


俺も凛と同じ意見だ。

ユナが緊張した面持ちで、俺と凛を見ている。


「ユナ、これを装備してくれ」


ユナに指輪を手渡した。


「〜〜〜っ!ど、どうしよう?!ル、ルイちゃんに、指輪貰っちゃった!」

「ユナっち、落ち着いて」

「ユナポン、興奮し過ぎ!それ、ゲームのアイテムだから」


ユナがパニック気味になり、リサとレイが落ち着かせる。

深呼吸した後、ユナが右手の薬指に指輪をはめた。

自分の指をじっと見て、へにゃりと笑みを浮かべる。


「帰るか?」

「そうだね」


俺が撤収を促すと、凛が同意し他の5人も頷いた。

帰りは魔法陣を使いショートカットして地上に出た。


地上では他のプレイヤーとゴエモンさんが何やら話し込んでいた。

その横でセルゲイ(推定)が一人で項垂れている。

セルゲイをスルーして、ゴエモンさんに話し掛けた。


「ゴエモンさん、ケルベロスを倒しましたよ」

「マジか?!」

「ええ、今日は急ぐので、詳しい話はまた今度。戦闘の映像は、ゴエモンさんのナビAIに送っておきます」

「助かる。いつも、すまねぇな。またな」

「はい、また」




馬を回収してアムダスのホームに帰ると、一度解散して再集合する。

何も言わなくても、帰ってきた順に大部屋に入り勉強を始めた。


個別指導室で待機する俺とレノの所に、凛達が代わる代わるやって来る。

各自が予定のノルマをこなす頃には、日付も変わっていた。

本当に皆、真面目に勉強するんだよな。


勉強が終わると、後は寝るだけだ。

ノナが何か言い出すタイミングを計っている。


「ノナ、何か言いたい事があるのか?」

「あ、あの、ここで寝る人、今日はいないのかなって」


本当にノナは、寂しがり屋だな。

眠っちまえば、同じだと思うんだだけどな。


「私がここで寝ますよ」


レイの言葉に、ノナの顔が綻ぶ。


「流生、私達も付き合おう」

「ルイちゃんがいるなら、私も泊まる」

「私も!ルイがいるなら帰りたくない」


結局、今夜も全員ホームで寝る事になった。

レイがチラチラ凛を見ている。


「レイ、じゃなくて陽葵、流生と一緒に寝たいの?」

「う、うん。ダメだよね?」

「もう、仕方ないな。変な事はしないでよね」

「リンコ!」


昨日のユナと同じだ。

俺ではなく、凛に抱きついている。


「あ、明日は、私の番って事で良いのかな?」


リサが遠慮気味に凛に問いかける。


「亜里沙だけ除け者にはしないわよ」

「リン…」


ユナも混ざり、3人で凛に抱きついている。


「言っておくけど、私のいない所ではダメだからね」

「「「分かってる」」」


この日の夜は、凛と陽葵に挟まれて寝る事になった。

寝室に向かう背中に、ノナの視線を感じた。

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